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逃亡、不可

「あ!なつ先輩‼︎」

こちらが驚いている間に、ごんは夏目を見つけささっと去って行ってしまった。

「…」
「…」

なんてとこで会話から離脱するんだ…ごん…。
しかし、ごん、前から何処となくずれていると思っていたけど…まさか…。

「あの…鬼頭さん、もしかしてごんも、鬼頭さんと同じ…?」
「…」

濁して尋ねると、何処となく鋭く疑うような視線を返されて押し黙る。
悪魔だと隠れて過ごしているらしいので、仲間の情報は教えられないのかも知れない。

「勘違いするなよ。」
「はい。」

意味が分からないが、条件反射で頷いてしまった。
やはり、軽々しく仲間の事とかは話せないのか。

「ごんがああ言っているのは、別にお前と寝たいからとかそう言う事じゃ無い。」
「でしょうね。」
「あと、ごんがお前を好きとか、気に入っているとか、そう言うわけで飼いたいと言われたわけじゃないからな。」
「承知しています。」
「お前の相手なんてしてやるのは、俺位だからな。他の奴とか見るな。気にかけるな。」
「気を付けます。」

モラハラ?モラハラ旦那かよ。
以前、自分の事を、欲まみれで旨いとか言われたので、美味しい餌を他に取られたくないのか。
そうすると、やはりごんは鬼頭と同じなのか?

「だいたいお前は隙が多くて…」
「はい。はい…」

その後もネチネチとモラハラ発言を繰り返してくる鬼頭を聞き流し、ひたすらにごんの事が気になったいた。
もしかしたら、ごんがこの地獄から抜け出す手段かも知れない。
早く逃げ出さないと、女の子とセックス出来なくなりそうで正直結構怖い。
でも直球で「悪魔なのー?」とか、聞くのどうなんだろう。そもそも教えてくれるものなのか?
夏目経由で何か探りを入れるか。

——-
そんなこんなで仕事が手につかず、気づけばもう定時もとっくに過ぎていた。
ためを息をつき、とぼとぼと喫煙ルームに入り隅に腰掛ける。

「あー…眠ぃ…。」

あぁ、もう帰って寝たい。
このところ鬼頭に連日連夜やられまくって、ほぼ寝てない。
チラリと腕時計を見ると、21時半。
定時退社日である金曜日だし、営業部フロアに人はほぼいない。

「もー、なんで…。」

項垂れて、手に持った煙草が燃え落ちるのをぼーっと見つめる。
鬼頭は、いつになったらこの行為に飽きてくれるのか。半年くらい?もしかして…一年とか?
例え数ヶ月でもかなり苦痛だ。
もう逃げ出したい。

「……」

そう言えば、鬼頭は定時キッカリで帰った。
その後スマホへの連絡は特にない。
もしかしてこれ、忘れたってことで帰っても良くないか?

「……もう限界だ…。」

大体何故自分が。
考えると怒りがふつふつと湧いてくる。
そうだ。もう、帰ろう。
今夜ゆっくり寝れるなら、もう何でもいい。月曜日からまたヘコヘコしてれば、鬼頭の機嫌も治るだろう。
よし。もう、寝る。今夜はゆっくり寝るぞっ!

決意すると何故今まで大人しく従っていたのが不思議ですらあった。
久世は荷物を取りに足早にフロアへ向う。
案の定、もうフロアには誰もいない。

「…電車調べておくか…あ、あれ?」

荷物を片付けて帰りの電車を調べて気づいた。
スマホが機内モードになっていた。

「…」

恐る恐る、機内モードを解除する。

「…っ!」

途端、スマホは凄い勢いで電話とメッセージの通知を知らせる。
電話 15件
メッセージ 39件

鬼頭 17:20《18時迄には会社を出ろ》
鬼頭 17:21《下で待っている》
鬼頭 18:10《先に帰る》
鬼頭 18:28《夕飯作ってやる》
鬼頭 18:40《肉と魚どっちにするか?》
鬼頭 19:13《おい》
鬼頭 19:13《返信しろ》
 ・
 ・
鬼頭 21:23《会社行く》
鬼頭 21:58《あと10分で着く。荷物纏めろ。》

「あ…わ…わわわわ‼︎まずい…。」

ふと時計を見上げると、22時5分。
久世は勢いよくフロアから走り出した。
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