このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

無自覚アブノーマル

深谷にはムッとすることも多いが、これで済むなら安い話だ。
自分で自分を説得する。
「そういや本田、彼女と別れたんだろ?」
「あぁ…うん。嫌だっていうから、折角煙草まで辞めたのになー。なんか急に…。自然消滅だな。」
「浮気されたんだろ?」
「…え?あ、…うん。」
浮気されたなんて、恥ずかしくて言いたくない。だから周囲には自然消滅と言ってある。それを、何故知っているんだ?
すこしひっかかるが、とりあえず流して頷いた。
「まっ、いいじゃん。あんな他の好条件な男見つけたら直ぐなびくような女。」
「え?深谷、俺の元カノの今の相手知ってんの?」
「………ふふっ。」
ふふ?
含みのある笑顔に、眉間にシワがよる。不気味だ。
「まっ、本田が他の女にヘコヘコしてるのなんか腹立ってたけど、それはもうないって事で!はい!この話はもう終わり!」
「…あ…あぁ…?」
いまいち話が繋がっていない気がきたが、酔っ払いの戯言か?
自分で始めた話を勝手に切り上げられて戸惑うが、深谷はいつもこんな感じだ。
「でも煙草は辞めろよ?」
「え?なんで?」
深谷は笑いながら本田の肩に自分の腕を回して笑った。
せっかく辞めた煙草をまたやる気はないが、いちいち言い回しが引っかかる。
「だってキスが煙草の味とか、俺が嫌だし。」
「は?…っ!」
いい終わるや否や、深谷は本田の頭を掴み強引な口付けをしてきた。
本田は深谷の奇行に目を白黒させ、漸く舌先に絡まるぬるつく感触に我に帰り抵抗を始めた。
そんな本田を深谷が笑った。
「お前っ!何してんだ!」
「まだ分かんないかぁ〜。本田、俺、お前の事好きなんだわ!」
すき?…す?何を?何が?誰が?
深谷がニコニコと宣った事が衝撃的で、本田は固まる。
「分かった?」
「…ちょ、…」
「ちょ?」
「超展開……」
「ぶっ、はははは!お前、本当にばか可愛いいなっ!」
「…」
心ここに在らずで意味不明な所感を述べてしまった。
深谷はその反応に吹き出して笑う。
「…でもなんで、今…」
「布団の上だからさっ、流れいいじゃん!」
向き合ったまま腰を抜かした本田の頬を深谷が撫でた。含みのある触り方に肌が栗立った。反射的にその手を払う。
「えー、そんな事していいと思ってるの?」
「触んなっ!」
「いや、触るし。」
「!」
戯けて笑いながら、深谷は飛び掛かってきた。咄嗟に身を引こうとしたが、逃げきれずあっさりと捕まってしまった。後ろから羽交い締めにされる。
「俺はこれから、触りたい時に、触りたい様に、満足するまで、本田を自由に触っていいよね!」
「はぁ⁈意味わからん!」
深谷の手がするすると体中を這い回り、背筋に悪寒が走る。
「本田は普通が好きなんでしょ?だから、普通に仕事して、世間の中で普通に生きたいんでしょ?」
「だ、だからなんだよ。」
後ろから肩に顎を乗せられて、耳元でボソボソと話されるのが不快だ。
「本田の大好きな普通の生活、俺がぶち壊してやろうか?」
「…な…それは…どういう…」
気丈に振る舞うはずが、びくりと身体を揺らしてしまった。くつくつと深谷が笑う。
「本田と黒崎のこと、皆に知ってもらう?そうだな、例えば、本田と黒崎の写真を、会社の皆に一斉送信で送るとか?相手が黒崎だし話題性も抜群だな!」
「…え」
ニッと笑う深谷を振り返り本田は顔を青くした。
「あー一応言っとくけど、例え本田が会社を辞めて、何処に逃げても一緒だぞ。地の果てまででも追いかけて、そのデータをばらまいてやるよ!」
「な…なん…」
「そうすればもう、お前は普通には戻れなくなっちゃうだろ。そんなの嫌だよな?なぁ?」
抵抗しなくなった本田の体に手を這わせ、深谷は猫撫で声で諭す様に話した。
されるがままの本田を横目で見て、再びニッと笑う。
「じゃあ本田、俺と仲良くしような!」
9/26ページ
スキ