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無自覚アブノーマル

朝日が眩しい広々としたオフィスのエントランス。その中のエレベーター待ちの群衆の中で、本田は難しい顔をしていた。
昨晩みたいな事をまたされるのだろうか?
事態は当初恐れていた方向から、更に悪い方向に陥ってしまった。
嫌だ。男相手にあんな風に組み敷かれるなんて。そもそも普通じゃない。理想との乖離が広がることが怖い。
自分がおかしくなる。
「乗りますか?」
「っあ、はい。すみません。ボーッとしていて……。」
いつの間にかエレベーターが来ていた。エレベーター内から顔を覗かせた女性に声をかけられて、本田は我に返り慌てて乗り込んだ。
「っ!」
「…。」
そしてエレベーター内の先客を見て、思わず悲鳴をあげそうになる。
顔を上げたそのすぐ先に黒崎が居た。
しかし及び腰な本田も、朝の忙しい時間帯、後ろから続々と乗り込んでくる人々に押されてぎゅうぎゅうのエレベータの奥に追いやられる。必然的に黒川のすぐ前に、背を向け乗る形で押し込まれてしまう。
「すみません。」
「あ、」
とんっ、と押されて、またよろよろと一歩後ろに下がる。
コツンッと、身体が黒崎に触れた。
「っ」
その瞬間、昨日の快感がフラッシュバックしてくる。
硬く引き締まった身体に、丁度そう。
昨日もこんな風に後ろから…。
はぁっと、口から熱い息すら漏れた。
後ろの黒崎はどんなをしているんだろう。
次に我に帰った時には、エレベーターには本田と黒崎だけだった。
「本田」
「…く、黒崎さん」
呼ばれて振り向く。
どくんっと心音が響き、体の奥がギュッと握り潰された様な妙な感覚に襲われる。
「階ボタン押せよ。淫乱。」
「え。」
しかし対する黒崎はいつと変わらない冷めた目で本田を見て、本田の後ろからあっさり抜け出ると自分達の階ボタンを押した。
「…はぁ⁈てか、なんですか!淫乱って!あんたが無理矢理したんだろ。」
「はっ。勝手に人の身体に擦り寄って…。悦に入っているのバレバレなんだけど。」
「別にっっ!そんな事してない!」
黒崎は本田の言葉を鼻で笑うと振り返った。思わず後退る本田を、無言で壁際まで追い詰めると見下ろす。
「そうそう。もう夜中に馬鹿な事するなよ。」
黒崎がそう言い放つと、丁度エレベーターが階に付きチンッと軽快な音を立てた。
「…まぁ…昨日の会議中は済まなかった。指摘は纏めてメールで送っておいた。お前の案でも改善すれば良くなる。諦めずに続けろ。」
降りる間際、黒崎は僅か考えるような素振りを見せた後、ぽつりと溢すようにそう話した。
「…へ?…あ」
あ、謝った?
確かにそれまでは怒りや羞恥が自分の中を決める感情だったのに…。黒崎の意外な謝罪に感情が迷子になる。
「頑張ったら、またご褒美してやっても良いぞ、恭弥。」
「っ、そ、そんなの要らないです!」
しかしこちらの戸惑いも知らない黒崎は、また意地悪に笑うとその場をさっさと去っていく。
「本当にもう…、何なんだよ…。」
後に残された廊下で呟いた。
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