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【完結】取引先の上司がストーカーです

※殿村視点

カシャッ
「うむ。よく撮れた。しかし…ふふ、今日は寝癖がついててレアだったな。」
昼下がりのオフィスのエントランス。楓は柱の影で、先程撮った写真を撫でながら呟いた。
運命的な事に、なんと碧は同じビルで働いていたのだ。海外駐在から戻って碧を初めて見た時は、胸が高なった。しかし中々話すきっかけが見つからない。ただただ、隠し撮りの写真が増える一方だ。
「と、殿村課長?」
呼ばれて振り返ると、部下が目を丸くしてこちらを見ていた。
「何をしているんですか?そんな…柱の影に隠れて…。」
「…奥田さん…」
振り向き、ニヤケ切っていた顔をすっと引き締める。
「ブラジル工場の維持費資料の進捗はどうかな?」
「え?…あ、す、すみません!今日中にはなんとか…。」
「いや、焦らなくてもいいよ。急かしたいのではなく、複雑な資料になると思うから、厳しそうなら無理せず直ぐに声をかけて欲しいから。それだけよろしく頼む。そもそも、今週中が厳しかったら来週中でいいので、その場合も早めに相談してくれ。」
「はい!」
お辞儀する奥田を残して楓はその場を後にした。
エレベーターに向かいながら、また碧の写真を見つめる。思わず口元が緩む。
見つけた当初はすぐに声をかけようと思った。しかしきっかけもなく、声をかける事もできずただただ隠し撮りをする日々だった。
「でね…って先輩、聞いてくださいよ〜。」
「はは、七緒の話面白いけどさ、それは一旦置いといて、今するべきは夕方の会議の話だろ。」
「え〜。終わったらまた聞いてくださいねっ!」
「はいはい。…あ、どうぞ。何階ですか?」
楓が階数を伝えると碧がボタンを押してくれた。七緒と呼ばれた男は楓の方をチラリと見た後、直ぐに碧に熱い視線を送る。胸中にもやりとした蟠りが湧き上がる。
そしていてもたっても居られなくなり、その日のうちに碧と『知り合った』。
しかし碧との関係は中々思い通りにはいかない。本当の意味で心を通わせるに至れない。ちょっといい雰囲気になっても、碧と自分の間には何か見えない板があるようだった。
スマホへ送ったメッセージは無視される事が多い上に、碧はまだ女と遊ぼうとする。あまつ会社のエントランスで男とくっついているのを見た時は、流石に頭に血が上った。
「ちょっと、君達、そこをどいてくれるかな。」
「「あ」」
自分を見ると碧はあからさまに顔を引きつらせた。その反応が余計に腹正しい。
見られるとまずい場面だったのか?
「たっ、只の知り合いの野中先輩!俺たち、健全なお友達なのに、学生時代以来たまたま会ったから、つい、嬉しくて気持ちが上がってしまい、学生時代のノリで近づきすぎましたね!邪魔なので退けましょう!」
なんだよ。そんな説明。寧ろ、昔からそんなふうに触り合っていたのか?
そう考えてしまい、余計に腹が立った。

だから、コンペ結果を伝える前に碧の気持ちを知りたかった。
コンペは結局他社への導入実績の多さから、NT社を採用する事になってしまったからだ。その結果はある意味、蒼と楓の関係解消も意味していた。
そのために帰宅途中の碧を強引に食事に誘った。
「ちょ、楓くん、今日は金曜日じゃないし…明日も仕事だから、自分の家に帰りたいんだけど…。」
「まぁまぁそう言わずにさ。何でも奢るよ。」
楓の誘い文句に碧は渋々と頷いた。
「もっと良いよ。次、何呑む?」
「ははは、本当?俺結構呑んだけど、まだ良いの?じゃぁ、この日本酒!」
「良いよ良いよ。」
碧は酔って赤く染まった顔でニコニコと次の酒を頼んだ。
そろそろいいかな。
「碧くん、その後、野中先輩とか七緒とかに変な事されてない?大丈夫?」
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