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【完結】取引先の上司がストーカーです

「先輩!遂にですね!」
「そうだな。遂にだな…。」
七緒と碧は海南物産へ向かうエレベーターの中で、ごくりと生唾を飲んだ。
今日はコンペの結果を聞かされる日だ。そして、今日が終われば解放される!殿村とはもうこれでおさらばだ!
七緒も同じことを考えているのか、心なしか上機嫌だ。
心に引っかかるものはあったが、きっとこれでいい。これでいいのだ。
そのまま会議室に入り、碧たちは殿村達を待った。程なくして、殿村達が入ってくる。
「ご足労頂きありがとうございます。」
「いえ、同じビル内ですし…。それで、結果いかがでしたでしょうか?」
仕事モードの殿村におずおずと尋ねる。
殿村の部下が立ち上がり、書類を配布し出した。

———
「滝川、次の査定楽しみにしておけよ?」
「…はい。」
報告を聞き、部長が笑顔で言った言葉に碧は頷きすごすごと自席へ戻った。
「まさかの展開でしたね…。」
「あぁ…。」
コンペは、ダメだった。
最近何となく、全体的に上手くいっている気もしていたから変な感じだ。
ブーブー
マホが鳴っている。殿村だ。しかしもう出る気になれない。ていうか、もう出る必要もないか。コンペはダメだったけど、これで晴れて自由の身だ。
その日はいつもよりも心持ちゆったりと時間が過ぎた。
ブーブー
スマホは相変わらず煩い。
チラリと見ると、やはり全部殿村だ。仕事しろよな。
まぁ良いけどさ。
「先輩、もうブロックしたらどうですか?それ。」
「え?」
「煩いんですよ。社用も兼ねているから、バイブは流石に切れないんでしょ?」
七緒は酷く煩しげに、顎で碧のスマホをしゃくった。
「そうだな。」
仕事でも使っているから、確かにバイブレーターは切れない。ならば七緒が言う通り、ブロックしてしまうのが得策だ。
《碧くん、さっきは落ち込んでた?ごめんね》
《碧くん、今日うちくる?》
《ていうか、今日、金曜日。金曜日は泊まりの約束だしね(^^)》
「本当、殿村って二重人格ですね…」
「…本当にな。」
「しかもあいつ、先輩の情報を矢野に聞いていたらしいですよ。」
「え?なにそれ?」
七緒が眉を寄せて続けた。
「先輩の趣味嗜好を矢野が殿村に伝えていたらしいです。流石にそれは無いかも知れませんが、その見返りにコンペ通ったのかなとか、邪推しちゃいますよね。」
「…。」
なんだよそれ。そんな事、しないって言っていたのに。
腹の底からふつふつと怒りが湧き出てくる。
結局全部、茶番だった。
上手くいっていたのも、全てはまやかしだった気がした。
碧は殿村のメッセージをブロック設定した。

———-
ガチャガチャ
明日は久しぶりに自由な休日だ。何しようかな。
そんな事を考えて鍵を回している時だった。
ガチャ…
「!」
急に後ろから衝撃があった。碧はそのまま玄関でこける。
なんだか、既視感…。
嫌な感覚を覚えて、蹲ったまま振り返る。
「碧くん、お帰り。遅かったね。」
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