【完結】取引先の上司がストーカーです
《滝川―、この前は久々会えてびっくりだったな。折角だし、今度飲もうぜ!》
「…。」
俺は絡みつく殿村の腕の中からごそごそと抜け出し、目を瞬かせた。
あー、野中先輩か。
そう考えて碧は隣で寝ている殿村を見た。
二人で会うのは…流石に不味いよな…。ダメとか前に言っていたし。
散々やられた後に、会議室に飛び散った自分の精液を嬉々として拭き取る殿村を再び見るのは嫌だ。
《すみませんが…》
ブーブー
断りの連絡を入れようとした矢先、またスマホにメッセージが表示された。
《後、実は、折り合って、滝川に相談したい事あってさ…。付き合ってくれたら助かる!》
これは不味いな。流石にこれを断る程、保身だけには走れない。野中には元カノを紹介してくれたりと、昔わりとお世話になっているのだ。
《分かりました。今週の水曜日でもいいですか?》
直ぐに中野から承諾の連絡が来て、水曜日に会うことになった。
「あれ、先輩今日は早いですね。」
そして水曜日の夜。珍しく定時に帰ろうとする碧に七緒が不思議そうな顔をした。
「今日は私用があるんだ。」
「ふーん」
「いや、殿村じゃないぞ。」
七緒が不満気に目を細めたので、思わず変に弁解してしまった。
「ま、いいですけど。明日、朝から会議だから、飲み過ぎて寝坊とか禁物ですよ!」
「はいはい。分かった分かった。」
まだ不満気な七緒を置いて、碧はオフィスを出た。
そしてエントランスを出た時だった。
「碧」
「…お、…楓くん…。」
仕事中とは打って変わって、ふんわりと笑う殿村が待ち構えていた。
「さ、行こうか。」
「え?どゆこと?何処へ?」
何故か殿村は碧の手を引き歩き出す。
「何って…碧くん、スマホ出して。」
「え?…あ、はい。」
あ、思わず従ってしまった。
殿村はニコニコと碧のスマホを受け取った。
「…に、こ、に、こ、に、こ…」
ブツブツ言いながら碧のスマホに何か打ち込んでいる。
…え?もしや、252525?
それは碧のスマホのロック番号だった。
「ほら。『19時から野中先輩』って、碧くんが入れてる。」
そして碧のスマホのスケジュール帳を得意気に見せてくる。
全部、バレてる!
いやいや。そもそも、なぜこいつは、人のスマホを盗み見した癖にここまで清々しいのか…。
しかしそれ以上に気になることは別にあった。
「楓くん、その、まさか、ついてくるの?…野中先輩になにか…言う気じゃなよね?」
「何かって?」
分かっているだろうに、殿村は含み笑いで聞き返してくる。
「俺達の関係とか…」
「それは、野中先輩に聞かれたら困る事なのかな?」
「いや、そうではないけど…。びっくりさせるのもあれだし…。」
「…あれだし?」
「…。」
こいつ、言う気だろ。
野中は自分の事などただの後輩程度にしか思っていないのに、きっと殿村は見当違いなマウント取る気だ。
そんな、自分自身すら認めていない関係を吹聴されても困る。
しかし言うなと言う程言いそう。殿村はそんな奴だ。
「お願いします。見逃してくださいっ!そしたら、何でも一つ言う事聞くから…っ!」
「…え?」
苦し紛れの碧の戯言を聞き、殿村はぴたりと動きを止めた。
そりゃそうか…そんな子供みたいな…
「ほ、本当⁈何でも?」
「…え、う、うん…」
殿村が興奮気味に掴みかかってくる。
あれ、これは判断間違ったかも。
「そっか!…そっかぁ‼︎」
勢いに負け頷くと、殿村はにまにまとらしくない下品な笑顔を浮かべた。
「それなら、仕方ないか!碧にも付き合いってものがあるもんね。」
どの口でそんな事を。
つい恨めし気に殿村を見てしまうが、結果、碧は平和に野中と飲む事が許可された。
「それでさ、滝川…」
「はい。」
野中と飲んで一時間弱。お互い程よくお酒が回った所で、野中が話を振ってきた。
「相談なんだけど。」
あぁ、この飲み会の本題だな。
碧は心持ち姿勢を正した。
「俺、勤め先辞めて会社始めたって言ったいただろ?」
「はい。IT系のですよね?」
「そうそう。」
野中は元々ベンチャー企業に勤めていたが、昨年自分で会社を興したいとそこを辞めていた。そこまでは、矢野に聞いて知っていた。
「でさ、結構今調子良くて、」
「えー!凄いですね!」
「うん。で、ちょっと会社の規模感をサイズアップしたくて、滝川どうかな?」
主語のない会話だが、どうやらリクルートされているらしい。
「…ま、あ、…でも、」
「ははは、そうだよな。急に言われてもびっくりだよな。因みに待遇はこんな感じ。」
ぺらりとA 4 用紙を渡された。俺はその内容をみて目を丸くする。
「え、部長ポジションなんですか⁈しかも、給与、今よりかなりいい…。」
年俸制とはいえ、冷静に比べても今よりかなり良い。
安定第一主義の俺でも、ちょっと心が揺れる…。
「はは、俺は結構滝川をかってるんだぞ。…それに、また一緒にいたいし。な?」
「え?」
なっと、野中は首を傾げて碧の顔を覗き込んだ。
顔を上げると、目を細めてこちらを見る野中と目が合った。
「ちゃんと仕事が軌道に乗ったら、俺は滝川を迎えに行くつもりだったんだ。」
「迎えに?」
妙な含みを感じる言い回しだ。
「…。」
俺は絡みつく殿村の腕の中からごそごそと抜け出し、目を瞬かせた。
あー、野中先輩か。
そう考えて碧は隣で寝ている殿村を見た。
二人で会うのは…流石に不味いよな…。ダメとか前に言っていたし。
散々やられた後に、会議室に飛び散った自分の精液を嬉々として拭き取る殿村を再び見るのは嫌だ。
《すみませんが…》
ブーブー
断りの連絡を入れようとした矢先、またスマホにメッセージが表示された。
《後、実は、折り合って、滝川に相談したい事あってさ…。付き合ってくれたら助かる!》
これは不味いな。流石にこれを断る程、保身だけには走れない。野中には元カノを紹介してくれたりと、昔わりとお世話になっているのだ。
《分かりました。今週の水曜日でもいいですか?》
直ぐに中野から承諾の連絡が来て、水曜日に会うことになった。
「あれ、先輩今日は早いですね。」
そして水曜日の夜。珍しく定時に帰ろうとする碧に七緒が不思議そうな顔をした。
「今日は私用があるんだ。」
「ふーん」
「いや、殿村じゃないぞ。」
七緒が不満気に目を細めたので、思わず変に弁解してしまった。
「ま、いいですけど。明日、朝から会議だから、飲み過ぎて寝坊とか禁物ですよ!」
「はいはい。分かった分かった。」
まだ不満気な七緒を置いて、碧はオフィスを出た。
そしてエントランスを出た時だった。
「碧」
「…お、…楓くん…。」
仕事中とは打って変わって、ふんわりと笑う殿村が待ち構えていた。
「さ、行こうか。」
「え?どゆこと?何処へ?」
何故か殿村は碧の手を引き歩き出す。
「何って…碧くん、スマホ出して。」
「え?…あ、はい。」
あ、思わず従ってしまった。
殿村はニコニコと碧のスマホを受け取った。
「…に、こ、に、こ、に、こ…」
ブツブツ言いながら碧のスマホに何か打ち込んでいる。
…え?もしや、252525?
それは碧のスマホのロック番号だった。
「ほら。『19時から野中先輩』って、碧くんが入れてる。」
そして碧のスマホのスケジュール帳を得意気に見せてくる。
全部、バレてる!
いやいや。そもそも、なぜこいつは、人のスマホを盗み見した癖にここまで清々しいのか…。
しかしそれ以上に気になることは別にあった。
「楓くん、その、まさか、ついてくるの?…野中先輩になにか…言う気じゃなよね?」
「何かって?」
分かっているだろうに、殿村は含み笑いで聞き返してくる。
「俺達の関係とか…」
「それは、野中先輩に聞かれたら困る事なのかな?」
「いや、そうではないけど…。びっくりさせるのもあれだし…。」
「…あれだし?」
「…。」
こいつ、言う気だろ。
野中は自分の事などただの後輩程度にしか思っていないのに、きっと殿村は見当違いなマウント取る気だ。
そんな、自分自身すら認めていない関係を吹聴されても困る。
しかし言うなと言う程言いそう。殿村はそんな奴だ。
「お願いします。見逃してくださいっ!そしたら、何でも一つ言う事聞くから…っ!」
「…え?」
苦し紛れの碧の戯言を聞き、殿村はぴたりと動きを止めた。
そりゃそうか…そんな子供みたいな…
「ほ、本当⁈何でも?」
「…え、う、うん…」
殿村が興奮気味に掴みかかってくる。
あれ、これは判断間違ったかも。
「そっか!…そっかぁ‼︎」
勢いに負け頷くと、殿村はにまにまとらしくない下品な笑顔を浮かべた。
「それなら、仕方ないか!碧にも付き合いってものがあるもんね。」
どの口でそんな事を。
つい恨めし気に殿村を見てしまうが、結果、碧は平和に野中と飲む事が許可された。
「それでさ、滝川…」
「はい。」
野中と飲んで一時間弱。お互い程よくお酒が回った所で、野中が話を振ってきた。
「相談なんだけど。」
あぁ、この飲み会の本題だな。
碧は心持ち姿勢を正した。
「俺、勤め先辞めて会社始めたって言ったいただろ?」
「はい。IT系のですよね?」
「そうそう。」
野中は元々ベンチャー企業に勤めていたが、昨年自分で会社を興したいとそこを辞めていた。そこまでは、矢野に聞いて知っていた。
「でさ、結構今調子良くて、」
「えー!凄いですね!」
「うん。で、ちょっと会社の規模感をサイズアップしたくて、滝川どうかな?」
主語のない会話だが、どうやらリクルートされているらしい。
「…ま、あ、…でも、」
「ははは、そうだよな。急に言われてもびっくりだよな。因みに待遇はこんな感じ。」
ぺらりとA 4 用紙を渡された。俺はその内容をみて目を丸くする。
「え、部長ポジションなんですか⁈しかも、給与、今よりかなりいい…。」
年俸制とはいえ、冷静に比べても今よりかなり良い。
安定第一主義の俺でも、ちょっと心が揺れる…。
「はは、俺は結構滝川をかってるんだぞ。…それに、また一緒にいたいし。な?」
「え?」
なっと、野中は首を傾げて碧の顔を覗き込んだ。
顔を上げると、目を細めてこちらを見る野中と目が合った。
「ちゃんと仕事が軌道に乗ったら、俺は滝川を迎えに行くつもりだったんだ。」
「迎えに?」
妙な含みを感じる言い回しだ。