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【完結】取引先の上司がストーカーです

「七緒さん、話を割ってすまないが、いいかな。」
「はい。何でもおっしゃってください。殿村さん。」
「すまないが、御社とNT社のシステムの差別化が私の中で出来ていない。長い前置きはなしで、一言で言うとどうなのだろう?」
「あ、えっと…。」
全く笑わずに、つらつらとどこか高圧的に殿村は言った。七緒が言い淀む。
「それは…うちの製品はデータ分析ができる所…かと。」
「それならNT社のシステムにもありますから。」
「そうですけど。その後のサポートもありまして…」
「サポート?24時間?土日対応はどうなるのかな?あとカレンダーのズレは?日本が休日でもヨーロッパは平日なんてざらですよ?そう言う時にシステムが止まった時のオペレーションは?グローバルシステムになるから、その辺の保守対応ももちろん練ってきてくれていますよね?祝日のズレも、サマータイム対応もありますよね。」
「…。」
眉一つ動かさず、よくもまぁ…。
質問責めに、流石の七緒も黙る。
助け舟を出すか。でもまずは…
《ごめんなさい。仕事が忙しくて、返事が出来ませんでした。また、夜に連絡しまふね。》
碧は断腸の思いで、殿村にメールを返信した。するとチラリとノートパソコンに視線を落とした殿村がくすりと笑うのが見えた。
「殿村さん、その辺の保守設計はまたこの後に詰めさせてください。勿論、グローバル対応もきっちりとさせて頂きますので。」
殿村の質問は碧への遠回しな嫌がらせで、それ自体に意味はない。碧の回答に殿村は頷いた。
ピコンッ
《そうなんだ^_^ 急かしてごめんね。余りにも返事来なくて、ちょっと心配していたからさ。なら、良かった!》
あぁしかし、こいつやばすぎるだろ。二重人格だ…。メールの殿村と現在進行形で目の前にいる殿村、人格が違いすぎる…。
しかもこんな奴に会社のアドレスまで知られた上、大事な取引先のキーパーソンポジションで接さないとだなんて…。あんまりだ。
再開された会議の中、碧は一人頭を抱えた。
ピコンッ
《〉連絡しまふね。 ←打ち間違いw可愛いいねww》
「…。」
…うるせーな。

————
「はぁ、疲れた…。殿村のせいでいつもの倍は疲れた…。」
深夜、家に帰った碧はどさりと荷物を置き、ネクタイを解いた。
ブーブー
荷物を置いた時に飛び出したスマホが振動する。
どきりと、嫌な予感がした。
「…とりあえず、風呂に入ろう!」
しかし碧は絵に描いたような小者だった。強い人には逆らわないし、嫌な事からは目を逸らして逃げる。その悪い癖が、今この瞬間にも発揮されていた。
「はぁ、スッキリした。」
風呂からあがり、碧はビールを片手にソファーに腰掛けた。
ブーブー
「…。テレビ、何やっているかな…。」
ブーブー
「…。」
ブーブー
ブーブー
「…も、もう、寝よう…。そうしよう。」
ブーブー
ブーブー
ブーブー
その日は悪夢をみた。
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