【完結】取引先の上司がストーカーです
「はぁ…もう、だめだ…。腰が保たん…。死ぬ…。」
「先輩、俺に乗り換えますか?」
「…いや、どっちもどっちだろ。」
出先からの帰り道、ひょこひょこと腰の痛みに耐えて歩く碧に、七緒が可愛い声と顔で売り込みをかけてくる。
ダメだとは思うが、こんな相談七緒にしか出来ないものだからつい愚痴ってしまう。
「もー、俺は殿村さんみたいに、鬼畜じゃないのになぁ〜。」
「いいんだよ。殿村とは、コンペまでの仲だ。コンペが終われば、もう下手に出る必要はない!元々、担当は七緒だし、俺は只のサポート役だからな。コンペ終わり次第即刻、プロジェクトを外してもらう。そして、殿村とは速攻で縁を切る!」
「今もそんな下手に出る必要もないのにー。」
こちらへ手を伸ばす七緒を払い除けながらオフィスに帰ると、エントランスに見知った顔がいた。
「あれ、野中先輩!」
「おぉ、偶然!滝川じゃん!」
「いてっ」
すらりと高い身長に、優しい笑顔。大学時代の研究室の先輩である野中だった。野中はにかりと快活に笑い、碧の肩に自分の腕を絡めた。
「はは、なんか滝川ひょろくなったな!」
「え、そうですか?」
「…。」
野中は昔から距離感が近い。今も笑いながら腹をワサワサと触ってくる。
そんな碧達を七緒がむっとした顔で見ていた時だった。
「先輩、エレベーターきましたよ!」
「ちょっと、君達。そこをどいてくれるかな。」
「あ」
戯れる碧たちの後ろには、部下を従え眉間にシワを寄せた殿村が居た。
碧は不機嫌な殿村の顔を見て、咄嗟に宇野ちゃんとのことを思い出した。
また変に勘違いをされてはたまったものじゃない。
「たっ、只の知り合いの野中先輩!俺たち健全なお友達なのに、学生時代以来たまたま会ったから、つい嬉しくて、気持ちが上がってしまい、学生時代のノリで近づきすぎましたね!邪魔なので退けましょう!」
「え?あ、おう。」
「…。」
碧があせあせといきなり大声で話すので、野中は面食らった顔になる。殿村は、そんな碧達の横を無表情で通り過ぎ、そのままエレベーターに乗ってしまった。
と、殿村は、どんな顔をしていたんだ⁈
「…はぁ…縁を切るとか言ってるわりに、どんだけ飼い慣らされてるんですか。」
殿村が去った後もソワソワする碧に、七緒が呆れながらエレベーターのボタンを押し直した。
———-
「902円になります。」
「クレジットでお願いします。」
今日も深夜残業だ。
今月も基本給を残業代が超えるかもなぁ…。
夕飯を買ってオフィスに戻りながら、そんな事を考えていた。そしてぼんやりしたままエレベーターに乗り込み、碧は自分の階のボタンを押した。
「お帰り、碧くん。」
ガタンッ
「うわ出たっ!」
そして自分のオフィスフロアに着くと、笑顔で仁王立ちの殿村がいた。残っているのは碧の他数人程度で、照明も半分落とされて暗いエレベーターホール。そんな中でこんな…もはやホラーだ。
「《うわでた》とは、どう言う意味かな?」
「…あ、いえ、なんでもありません…。」
「碧くん、昼間の男は何?」
「あー、やっぱり。いえ、あれは唯の大学の先輩です。野中先輩と言います。」
やっぱりか。ほらきた。
殿村がニコニコと投げかけた質問に、碧は内心うんざりとしていた。
殿村は基本的に残業をしないし、ましてやうちのフロアにいるはずなんてない。わざわざこの話の為に来たのか。暇でもないだろうに、暇な奴だな。
「あのー、正直に言います。」
「うん。そうした方が身の為だよ。」
「っ、宇野ちゃんに下心はありました。」
「…。」
「だ、だけど!野中先輩には全く興味ありませんから!」
殿村の唯ならぬ雰囲気に、オーバーな身振りを付けて碧は弁明する。しかし対する殿村は笑顔で僅かに首を傾げただけだった。
「へー…本当?碧くん、懲りずにすぐ嘘つくからな。」
「…いや、本当ですって。」
「ふーん?」
「…うっ」
ニコニコと殿村が碧ににじり寄る。
「じゃ、碧くん、うちの会議室取ってるから。そこでプレゼンして。」
「え。」
そう言って殿村は碧の腕を掴みエレベーターに引き摺り込む。
碧は前に壮行会で殿村が言っていた変態プレイを思い出して青くなった。
「そこで、その…へ、変な事しない?」
「はは、何それ。可愛いな。虐めたくなるから、下手な事言うなよ。」
こいつ!やる気だ!
「先輩、俺に乗り換えますか?」
「…いや、どっちもどっちだろ。」
出先からの帰り道、ひょこひょこと腰の痛みに耐えて歩く碧に、七緒が可愛い声と顔で売り込みをかけてくる。
ダメだとは思うが、こんな相談七緒にしか出来ないものだからつい愚痴ってしまう。
「もー、俺は殿村さんみたいに、鬼畜じゃないのになぁ〜。」
「いいんだよ。殿村とは、コンペまでの仲だ。コンペが終われば、もう下手に出る必要はない!元々、担当は七緒だし、俺は只のサポート役だからな。コンペ終わり次第即刻、プロジェクトを外してもらう。そして、殿村とは速攻で縁を切る!」
「今もそんな下手に出る必要もないのにー。」
こちらへ手を伸ばす七緒を払い除けながらオフィスに帰ると、エントランスに見知った顔がいた。
「あれ、野中先輩!」
「おぉ、偶然!滝川じゃん!」
「いてっ」
すらりと高い身長に、優しい笑顔。大学時代の研究室の先輩である野中だった。野中はにかりと快活に笑い、碧の肩に自分の腕を絡めた。
「はは、なんか滝川ひょろくなったな!」
「え、そうですか?」
「…。」
野中は昔から距離感が近い。今も笑いながら腹をワサワサと触ってくる。
そんな碧達を七緒がむっとした顔で見ていた時だった。
「先輩、エレベーターきましたよ!」
「ちょっと、君達。そこをどいてくれるかな。」
「あ」
戯れる碧たちの後ろには、部下を従え眉間にシワを寄せた殿村が居た。
碧は不機嫌な殿村の顔を見て、咄嗟に宇野ちゃんとのことを思い出した。
また変に勘違いをされてはたまったものじゃない。
「たっ、只の知り合いの野中先輩!俺たち健全なお友達なのに、学生時代以来たまたま会ったから、つい嬉しくて、気持ちが上がってしまい、学生時代のノリで近づきすぎましたね!邪魔なので退けましょう!」
「え?あ、おう。」
「…。」
碧があせあせといきなり大声で話すので、野中は面食らった顔になる。殿村は、そんな碧達の横を無表情で通り過ぎ、そのままエレベーターに乗ってしまった。
と、殿村は、どんな顔をしていたんだ⁈
「…はぁ…縁を切るとか言ってるわりに、どんだけ飼い慣らされてるんですか。」
殿村が去った後もソワソワする碧に、七緒が呆れながらエレベーターのボタンを押し直した。
———-
「902円になります。」
「クレジットでお願いします。」
今日も深夜残業だ。
今月も基本給を残業代が超えるかもなぁ…。
夕飯を買ってオフィスに戻りながら、そんな事を考えていた。そしてぼんやりしたままエレベーターに乗り込み、碧は自分の階のボタンを押した。
「お帰り、碧くん。」
ガタンッ
「うわ出たっ!」
そして自分のオフィスフロアに着くと、笑顔で仁王立ちの殿村がいた。残っているのは碧の他数人程度で、照明も半分落とされて暗いエレベーターホール。そんな中でこんな…もはやホラーだ。
「《うわでた》とは、どう言う意味かな?」
「…あ、いえ、なんでもありません…。」
「碧くん、昼間の男は何?」
「あー、やっぱり。いえ、あれは唯の大学の先輩です。野中先輩と言います。」
やっぱりか。ほらきた。
殿村がニコニコと投げかけた質問に、碧は内心うんざりとしていた。
殿村は基本的に残業をしないし、ましてやうちのフロアにいるはずなんてない。わざわざこの話の為に来たのか。暇でもないだろうに、暇な奴だな。
「あのー、正直に言います。」
「うん。そうした方が身の為だよ。」
「っ、宇野ちゃんに下心はありました。」
「…。」
「だ、だけど!野中先輩には全く興味ありませんから!」
殿村の唯ならぬ雰囲気に、オーバーな身振りを付けて碧は弁明する。しかし対する殿村は笑顔で僅かに首を傾げただけだった。
「へー…本当?碧くん、懲りずにすぐ嘘つくからな。」
「…いや、本当ですって。」
「ふーん?」
「…うっ」
ニコニコと殿村が碧ににじり寄る。
「じゃ、碧くん、うちの会議室取ってるから。そこでプレゼンして。」
「え。」
そう言って殿村は碧の腕を掴みエレベーターに引き摺り込む。
碧は前に壮行会で殿村が言っていた変態プレイを思い出して青くなった。
「そこで、その…へ、変な事しない?」
「はは、何それ。可愛いな。虐めたくなるから、下手な事言うなよ。」
こいつ!やる気だ!