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【完結】取引先の上司がストーカーです

《久しぶりー。滝川、彼女出来た?》
《できてない。なんだ急に。》
《紹介してやろうか?滝川って、東京駅職場でしょ?相手の子も東京駅勤務の子だから、滝川良さそうって話なんだけど。》
「え。」
平日の夜、大学の友達から連絡が来た。碧は眠気で半ば意識を飛ばしながらスマホを弄っていたが、思わず飛び起きた。
《紹介、是非して下さい。》
《必死かw分かった。連絡しとく。》
やったー!……やった?
衝動のままに返信をして、そこではたと我に帰った。
…いいの?
今日は殿村から解放される、数少ないフリーの日だった。しかしそれ以外の日は『一ヶ月後』に向けて、碧は殿村によって開発される日々だ。
下の毛は未だほぼない。
おまけに殿村と際どい行為は結構している。というか、強要されてさせられている。
こんな自分が女の子と再び付き合えるのか?
あとこれ、殿村にバレたら…。
……ごくり
ブーブー
「うわぁ…」
不安に固唾を飲んだ時、タイミングよくスマホが震えて碧は僅かに飛び跳ねた。
《碧くん、もう家?》
「噂をすれば…。」
殿村だ。というか、最近俺のスマホは八割、殿村からのメッセージで震えている。
メッセージを受信すると、俺も別の意味で震える。
《丁度今、風呂中かな〜?》
《今度、一緒に入ろうね。》
《返事ないなぁー。もう寝ちゃったのかな…》
《でも、メッセージ、既読付いてるね(^^)?》
「…ぅ……家だよ。もう寝るところ。…っと……。」
また呆気なく、碧は殿村の無言の圧に負けてせっせと返信をしてしまった。
《そっか。お休み〜(^^)》
「…はぁ…。」
メッセージが来たら無視しない。ちゃんと読む。読んだら一言でも返事する。よせば良いのに、蒼は律儀に殿村の言いつけを守っている。
これが一番の問題だ。
碧は頭を抱えた。
認めたくもないが、自分は既に精神面で殿村に支配されている。気がする。
こんな自分が女の子ととか…笑ってしまう。
しかし逆に言うと、この機会に自分はまたノーマルな人間に戻れるかもしれない。流石に自分に彼女ができたら、殿村も諦めてくれるかもしれない。

————
「滝川くんだよね?私、宇野です。初めまして!」
結局、碧はその週末に紹介された子と会っていた。殿村にも誘われたが、先約があると断った。
「お昼にはまだ早いけど、どっかお店入る?何処か行きたい所ある?」
「私行きたいベーカリーのカフェあるんです。」
「じゃぁ、そこに行こうか。」
紹介された宇野ちゃんは、碧と同い年のボブが似合う可愛い子だった。カフェに向かう途中話すが、話もしやすいし中々いい感じ。
「宇野ちゃんも東京駅勤務なんだよね?」
「そうなんです。滝川くんもだよね?」
「うん。そう。」
「じゃ、きっと何処かで会っていたのかもだよね。」
「そうだね。」
可愛い事言うなぁ…。
会話は弾み、互いニコニコと笑顔で並んで歩いた。
「あそこのカフェです。」
宇野ちゃんの言うカフェに入ると、まだ昼前だと言うのに割と賑わっていた。
本当に人気店らしい。
「すみません、少々混んでいるので、大テーブルの席でも良いですか?」
店員に通されたのは、大きな四角いテーブルの角の席だった。ゆっくり話したいので正直微妙な席だが、角の席だし、反対隣はひと席開けてある。なにより宇野ちゃんが行きたいと言う店に来たのだから、帰るわけにも行かない。
碧たちは買ったパンとコーヒーを手に、その席へ座った。
「私、海南物産に勤めているんですけど、滝川くんの会社って同じビ…」
「え!」
その名前はトラウマだ。
大袈裟に反応する顔に、宇野ちゃんも目を丸くする。
「あ、いや、ごめん。何でもないよ。丁度今、海南物産さんと一緒に仕事しているから、反応しちゃった…。」
「そうなんだ〜。…て、あ、課長!偶然ですね!」
宇野ちゃんは急に前方を見て、驚いた声を上げた。ばさりと新聞を置く音がして、碧も前に視線を向けた。
「……。」
そしてポロリと、碧の手からサンドイッチが転がり落ちる。
「偶然だね、宇野さん。デートかな?」
目の前には事務的に笑う殿村がいた。
「はは、課長、デートだなんて…。ふふっ、まぁ、そんなものです。ふふっ…。」
「そうなの?」
あ、わ…わわわわわわわ…‼︎
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