【完結】取引先の上司がストーカーです
「凄い!嬉しいっ!…でも、なんで?」
昼食も取って、連れて来られた場所で碧は驚きの声を上げた。連れてこられたのは、多摩地区にある世界一と名高いプラネタリウムだ。
「まぁ、いいじゃない。チケット買ってるし、予約していたプラネタリウムの時間になっちゃうから。早く入ろうよ。」
「あ、う…うん。」
実は碧はちょっとしたプラネタリウムオタクだ。ここはアクセスがあまり良くなくて中々来れなかったから、正直嬉しいサプライズだった。
結果としてその日はかなり楽しかった。殿村の口の上手さにまた騙され、いつの間にかまたにこにこと一日を過ごしてしまった。
そして日が落ち始めた頃、碧たちは喫茶店でお茶を飲むことにした。
「だからね!あのプラネタリウムの機械はケイロンⅢって言うんだけど、一億四千万個以上の星が投影できて、その数なんと世界一!」
「へー!そうなの!世界一って凄いね!」
「だろ?だろ?凄いだろ?」
「うん。」
「加えて、あそこは珍しい事に、解説音声が吹き込み録音ではなくて…」
碧の熱弁に殿村はニコニコと頷くが、碧はハッとして言葉を止めた。
「ごめん…。つい、一人で熱くなって…。」
「ううん。聞いていて楽しいよ!俺だって知識欲はある方だから純粋に面白いよ?何より、楽しそうな碧くんが可愛いくてずっと見ていたい。朝は散々だったけど、今日は楽しかったね、碧くん!」
「本当、朝が散々だったからな…。でも、プラネタリウムは本当ありがとう!あ、これ。チケット代。」
「え?要らないよ。これくらいおごるから。」
「いいよ。」
殿村の車は高級車だったし、時計もバッグもハイブランド。あの大手企業の課長だし、金があるのは分かる。しかし殿村に貸しを作るのは気が引ける。
「良くない。どうぞどうぞ。」
「はは、遠慮がちなところも可愛いな。でも本当、気にしないで。好きな人が笑顔で側にいてくやるだけで、俺は充分満たされるから。」
殿村は心底嬉しそうな顔で碧を見つめた。まさに好相を崩すといった顔だ。仕事中とは違い、瞳に人間味があり優しかった。
「…。楓くん、俺たち、何処かで前に会った?」
「どうしたの急に?」
「前そんな事言っていた気がしたし、何でこんなに…その、楓くんは好きになると誰にでもこうなの?」
殿村の様子を慎重に見ながらも、兼ねてからの疑問をぶつけた。
「ふふふ…。そんな事ないよ。碧くんは誰とも違う。碧くんは、俺の特別。」
「……。」
殿村に言われると、正直そこまで嬉しくはない。碧は曖昧な反応で殿村の次の言葉を待った。
「最初は碧くんがいれてくれたコーヒーがきっかけだったんだ。」
「コーヒー?…あぁ、バイト先の?」
「そうそう!」
昔、会社近くのコーヒーショップでバイトをしていた。どうやらその時にこの変人を引っ掛けてしまったらしい。
「凄く疲れている時に、可愛い笑顔でコーヒーを渡してくれて。最初に渡されたコーヒーは、外で配ってる冷えたコーヒーであれだったけど…」
「あれだったんかよ!」
季節限定で売り出すコーヒーは外で配ったりしていた。その事か?
しかしここにきてあれとか言い出すなよ。
褒められているのか貶しているのか、段々分からなくなってきた。
てか、今何の話してたんだっけ?
「で、その後。碧くんの笑顔が忘れずにもう一回お店に行ったんだ。見れば見るほど俺は碧くんにハマっちゃったんだ。笑顔は可愛いし、仕事には一生懸命で。碧くんは俺にないものばかり持っていて、神々しくすら見えたよ。その後もこっそりお店に通って、元気をもらっていたんだ。ちゃんと就職して、落ち着いたから会いに行こうとしていたんだよ。」
「やっぱり唯のストーカー話しなんですね…。」
「ふふ。いやいや、愛の見守り行為だよ。」
それがストーカーだろ。
「だけど、俺は就職後直ぐに海外転勤になっちゃって。で、何とか人事部にコネクションつくって日本に戻って、たまたま碧くんにエレベーターで会えたのあの時は、まさに運命だと思ったよ。」
「…。」
こっちにしたらその日が運のつきだったんだわけだ。
「あの時は俺が助けて貰ったから、次は、何かあったら俺が碧くんを助けたいな。俺は、碧くんがどんな時でも味方だよ。なんでも話して欲しいし、悩みを聞いてあげたい。だから、何かあったら気軽に話してね。」
「…。」
「コンペの事は…流石に仕事だから、公平にしないとだけど。」
やはり、そこはだめなのか。
殿村が「ごめんね」と釘を刺してくる。
「頼りにして。それで…いつかは、俺の事好きになってね。」
「一ヶ月後には付き合うとか言っていたくせに、急にしおらしいな。」
「はは、そりゃ、碧くんと俺は運命の人だから、無理矢理でもなんでもくっつくべきなんだ。そもそも、もう逃がさないし。」
殿村が言うと笑えない。
「…でも、本当は心が欲しいよ。碧くんの気持ちが欲しい。」
殿村が憂いを帯びた顔で笑った。
未だかつて、ここまで真っ直ぐに自分を見て、ありのまま感情を言ってくる人間はいなかった。
少しずつ、自分が殿村へ向ける感情が変化している。そう感じつつも、碧はその考えに蓋をし、言葉をお茶と一緒に飲み込んだ。一度でもはっきりとそれを認識してしまうと、自分の中の何かが大きく揺らぎ、世界が一変しそうで怖かった。
昼食も取って、連れて来られた場所で碧は驚きの声を上げた。連れてこられたのは、多摩地区にある世界一と名高いプラネタリウムだ。
「まぁ、いいじゃない。チケット買ってるし、予約していたプラネタリウムの時間になっちゃうから。早く入ろうよ。」
「あ、う…うん。」
実は碧はちょっとしたプラネタリウムオタクだ。ここはアクセスがあまり良くなくて中々来れなかったから、正直嬉しいサプライズだった。
結果としてその日はかなり楽しかった。殿村の口の上手さにまた騙され、いつの間にかまたにこにこと一日を過ごしてしまった。
そして日が落ち始めた頃、碧たちは喫茶店でお茶を飲むことにした。
「だからね!あのプラネタリウムの機械はケイロンⅢって言うんだけど、一億四千万個以上の星が投影できて、その数なんと世界一!」
「へー!そうなの!世界一って凄いね!」
「だろ?だろ?凄いだろ?」
「うん。」
「加えて、あそこは珍しい事に、解説音声が吹き込み録音ではなくて…」
碧の熱弁に殿村はニコニコと頷くが、碧はハッとして言葉を止めた。
「ごめん…。つい、一人で熱くなって…。」
「ううん。聞いていて楽しいよ!俺だって知識欲はある方だから純粋に面白いよ?何より、楽しそうな碧くんが可愛いくてずっと見ていたい。朝は散々だったけど、今日は楽しかったね、碧くん!」
「本当、朝が散々だったからな…。でも、プラネタリウムは本当ありがとう!あ、これ。チケット代。」
「え?要らないよ。これくらいおごるから。」
「いいよ。」
殿村の車は高級車だったし、時計もバッグもハイブランド。あの大手企業の課長だし、金があるのは分かる。しかし殿村に貸しを作るのは気が引ける。
「良くない。どうぞどうぞ。」
「はは、遠慮がちなところも可愛いな。でも本当、気にしないで。好きな人が笑顔で側にいてくやるだけで、俺は充分満たされるから。」
殿村は心底嬉しそうな顔で碧を見つめた。まさに好相を崩すといった顔だ。仕事中とは違い、瞳に人間味があり優しかった。
「…。楓くん、俺たち、何処かで前に会った?」
「どうしたの急に?」
「前そんな事言っていた気がしたし、何でこんなに…その、楓くんは好きになると誰にでもこうなの?」
殿村の様子を慎重に見ながらも、兼ねてからの疑問をぶつけた。
「ふふふ…。そんな事ないよ。碧くんは誰とも違う。碧くんは、俺の特別。」
「……。」
殿村に言われると、正直そこまで嬉しくはない。碧は曖昧な反応で殿村の次の言葉を待った。
「最初は碧くんがいれてくれたコーヒーがきっかけだったんだ。」
「コーヒー?…あぁ、バイト先の?」
「そうそう!」
昔、会社近くのコーヒーショップでバイトをしていた。どうやらその時にこの変人を引っ掛けてしまったらしい。
「凄く疲れている時に、可愛い笑顔でコーヒーを渡してくれて。最初に渡されたコーヒーは、外で配ってる冷えたコーヒーであれだったけど…」
「あれだったんかよ!」
季節限定で売り出すコーヒーは外で配ったりしていた。その事か?
しかしここにきてあれとか言い出すなよ。
褒められているのか貶しているのか、段々分からなくなってきた。
てか、今何の話してたんだっけ?
「で、その後。碧くんの笑顔が忘れずにもう一回お店に行ったんだ。見れば見るほど俺は碧くんにハマっちゃったんだ。笑顔は可愛いし、仕事には一生懸命で。碧くんは俺にないものばかり持っていて、神々しくすら見えたよ。その後もこっそりお店に通って、元気をもらっていたんだ。ちゃんと就職して、落ち着いたから会いに行こうとしていたんだよ。」
「やっぱり唯のストーカー話しなんですね…。」
「ふふ。いやいや、愛の見守り行為だよ。」
それがストーカーだろ。
「だけど、俺は就職後直ぐに海外転勤になっちゃって。で、何とか人事部にコネクションつくって日本に戻って、たまたま碧くんにエレベーターで会えたのあの時は、まさに運命だと思ったよ。」
「…。」
こっちにしたらその日が運のつきだったんだわけだ。
「あの時は俺が助けて貰ったから、次は、何かあったら俺が碧くんを助けたいな。俺は、碧くんがどんな時でも味方だよ。なんでも話して欲しいし、悩みを聞いてあげたい。だから、何かあったら気軽に話してね。」
「…。」
「コンペの事は…流石に仕事だから、公平にしないとだけど。」
やはり、そこはだめなのか。
殿村が「ごめんね」と釘を刺してくる。
「頼りにして。それで…いつかは、俺の事好きになってね。」
「一ヶ月後には付き合うとか言っていたくせに、急にしおらしいな。」
「はは、そりゃ、碧くんと俺は運命の人だから、無理矢理でもなんでもくっつくべきなんだ。そもそも、もう逃がさないし。」
殿村が言うと笑えない。
「…でも、本当は心が欲しいよ。碧くんの気持ちが欲しい。」
殿村が憂いを帯びた顔で笑った。
未だかつて、ここまで真っ直ぐに自分を見て、ありのまま感情を言ってくる人間はいなかった。
少しずつ、自分が殿村へ向ける感情が変化している。そう感じつつも、碧はその考えに蓋をし、言葉をお茶と一緒に飲み込んだ。一度でもはっきりとそれを認識してしまうと、自分の中の何かが大きく揺らぎ、世界が一変しそうで怖かった。