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わかんな訳ない話

※篤樹視点

学校の実験室IIの準備室。

「んぁっ、気持ちいいです。気持ちいい…っ」
「はっ、だよなぁ。」

夕陽が気持ち良いって涙を流しながら抱きついてくる。
気持ち良いです。
気持ちいいです。
何度も何度も。
どんだけ俺の事好きなんだ。
俺はそんな夕陽の声を聞いて、満足気に笑った。

「んっ、出すからなっ、」
「はいっ、うっ、く、…っ‼︎」
「俺の子産めよ」
「…ふっ」
「産みたいよな?」
「あ、産みたいですっ♡」

夕陽は惚けてて、返事も出来ないみたいだった。
仕方ないなぁ。
言葉にして言って欲しいのに。
促すと、甘えた声で答えてくれた。
愛しくて堪らずキスをした。

「ふー…。愛してるからな、夕陽。お前も俺の事愛してるよな?」
「……」
「愛してるだろ。」
「愛してます。」
「そうだよな。」

あー、ほんと。夕陽は直ぐボーッとなっちゃう。
そんなに気持ち良かったんだ。
嬉しい。
俺は夕陽をぎゅっと抱きしめた。

と、これがほぼ毎日。
無論、相思相愛の和姦。
毎日毎日こんなに愛し合って…俺たちは正にラブラブカップルだ!
愛してる!

「今日は週末だから、放課後すぐにうちに来いよ。」
「これが終末…」
「なんか言ったか?」
「…ぶ、文芸部があるか、すぐには無理だよ。」
「分かった。部活が終わる頃に、図書室まで迎えに行く。」
「…」

早く部活終わらないかなぁ。
楽しみだ。
いっときでも離れるのが惜しくて、俺は夕陽をぎゅっと抱きしめた。

——
ちなみに、良く勘違いされるが俺は不良じゃない。
俺は親と不仲だ。
親との摩擦で日々募る苛々を晴らしたい気持ちと、親に迷惑をかけたい一心で色々とやった結果、不良というレッテルを貼られた。

単調な日常だ。
それが変わったのはあの日から。


その日も怠くて昼から登校した。
もう学校なんて行かないつもりだったけど、何かに引き寄せられる様にして久しぶりに登校した。

「…」

そして、俺の斜め前の席に夕陽がいた。
なんだこの気持ち…。
落ち着かなくキョロキョロする姿。
チラチラ見える横顔。
全てが俺を惹きつける。

「これは……」

一目惚れ‼︎
いや、もっと強いものだ。
きっとあれだ。
運命の番?
それだ!
そうに決まっている!

「!」

ぽやぽやと浮ついた気持ちで夕陽の背中をみていると、不意に夕陽が振り返った。
そして、俺と目が合うと微笑む。
その瞬間、ぶわりと視界一面に花びらが散る。

こ、これは…まさに……両思い‼︎

頭の中で天使がパタパタ飛び交い、ラッパーを吹く。
ちなみに、こう見えても俺は淡白だ。
ていうか、他人に興味もなかった。
そんなことやあんなことにも興味もなかった。
つまり、どどど童貞だ。

だから、この初恋にどう対応していいか分からん!

しかし仲良くなりたい。
なんとか、繋ぎ止めたい!
俺はふらふらと立ち上がり、夕陽に近づいた。

「名前」

っあーー!
もっとこう!
良い雰囲気に持っていきたいのに、緊張してぶっきらぼうな物言いになってしまった!
案の定、夕陽は目を丸くして俺を見上げる。
…かわいっ。

あんな感じだが、夕陽とはなんとか打ち解けることができた。
俺としては正直、それだけで大満足。
とりあえず、プラトニックにお付き合いをして、お互いのバースが分かり次第(十中八九、αとΩだろうが。)正式に番になって、婚約して…晴れて初夜を迎える。
夕陽を大事にしてあげたい。
だからステップを踏んで、1つ1つを丁寧に進めよう。
そう決めていた。
しかし意外な事に、夕陽はかなり積極的だった。

「いいなー羨ましいー」
「…」
「はは、顔もかっこいいのに、篤樹は身体もかっこいいな!」

体育の着替え中、夕陽がペタペタと俺の腹を触った。

身体もかっこいいな!
→身体も好き
→身体でも愛して欲しい
→身体で愛して
→やろう
やろう⁈
…っ、さ、誘われている⁈
意味深なボディタッチ…つまりはそういう事なのか⁈

あまり表情が顔に出ないことは自覚している。
しかし夕陽にそう言われ、ニヤける顔を押し留めるのが厳しかった。
大事にしたいとは言え、やっぱり俺だってやりたい‼︎

その夜はめちゃくちゃネットで勉強をした。(童貞だから仕方ない。)

————
「そろそろ文芸部も終わる頃か。」

俺は腕時計をチラリと見た。
帰ったらどうしようかな。
なんか違う事をしたい。
だけど夕陽は積極的な割に妙に恥ずかしがり屋だ。
こういう場合は、こちらから理由付けしてあげた方がいいんだろうなぁ…。
考えていると、部活が終わることを告げるチャイムが鳴っていた。

今週はもう少し、何かマンネリ打破できるやり方でやろう。
俺が上手く誘導してあげて。
俺は気合を入れて夕陽を呼びに行った。

「夕陽」

あれ、どこにいるんだろう?

「夕陽?なぁ、夕陽知らない?」

その辺の奴に聞くが、皆返答が的を得ない。

「おい。夕陽は?」
「さっきまで、あの辺りにいました。」

早く会いたいのに。
少し強めに聞くと、慌てた返答が返ってきた。
本当かよ。

「……友村…」

いや、本当だな。
そこには澄ました顔の友村がいた。
なんでお前だけいるんだよ。

「俺が夕陽と会うなら連れてくるのがお前の役目だろがよ。」
「え?広瀬さん、今日夕陽と約束していたんですか?すみません。知りませんでした。」

友村は親が俺につけた目付け役。
色々させるのにやりやすいからと、友村を夕陽の友達にしてやったのに。
やっぱり感に触る奴なんだよな。
友村は俺のやっている事を逐一親父に報告している。
俺のスケジュールも勝手に把握している。
そんな友村が、この後夕陽が俺に会う事を知らないわけがない。

ガシャンッ!

何より、友村からは親父の匂いがする。
そう考えるとまたイラつき、俺は反射的に友村の前の机を蹴り上げていた。
しかしそれでも友村は表情一つ変えない。
だから襟首を掴んで引き寄せ睨む。

「ふざけた事抜かしてんなよ。」

その時、友村の目がすっと後ろの本棚を見た。

「あ、あの…」

そして、そこから顔を青くした夕陽が出てくる。

「…夕陽」

夕陽!
俺は友村を放り出して、夕陽に近づいた。

「何で荷物持ってこんな所にいるの?」
「そ、それは…」

あ、まずい。
純粋な疑問が、ついぶっきらぼうな物言いになってしまった。
夕陽が気まずそうに目線を泳がした。

「俺から逃げる気だったみたいに見えちゃうなぁ。」
「…」

場を和ませようと、笑顔で冗談を言ってみた。
だってさ俺たちラブラブじゃん。夕陽が逃げるわけないって分かってる。
夕陽だって、俺と会えるの楽しみだったはずだもんな?
しかし夕陽は依然として、俺が怒っていると勘違いしているみたいだった。

「あ、篤樹と、かくれんぼしたい!…的な…です…。すみません。すみません。…っ」
「…」

夕陽はどろもどろにそう言った。

え?
なにそれ?
かくれんぼ?
この歳で?
いやいやいや!それは流石に…

可愛すぎだろ!

気持ちが爆発して逆に笑えない。
でも脳内では、俺と夕陽がキャッキャと浜辺で追っかけっこしている。
夕陽はやっぱり、追いかけられたいタイプだもんな〜。
あー、可愛い。
ん、待てよ。
これは、使えるかもしれない。

「そう。」
「!」

俺は大丈夫だ。分かっていると、安心させるように夕陽の頬を撫でた。

「遊びたかっただけ?」
「は、はい…。」
「じゃ、遊ぶ?」
「は、…え?」

夕陽がやりたいというならば、やってあげよう。
そして、ついでにマンネリ打破の後押しにこれを活かそう。

「30秒やるから逃げてみろよ。ただ、図書室の入っている2号校舎から出るのは禁止。」
「う…ん?」
「30分夕陽が逃げ切ったら、今日は解散でもいいよ!」
「え⁈」

夕陽が意外そうに目を丸くする。
ふふ、そりゃそうだ。
夕陽だって俺のうちに来るの楽しみにしていたのに、急にこんなこと言われて戸惑うよな。意地悪言ってごめん。
少し申し訳なくなって、俺は取り繕うように夕陽の頬にキスをした。

「ただ、俺が夕陽を捕まえたら、その場でぶち犯すからな。」
「⁈」

ご褒美として!
これがマンネリ打破だ!
ちょっとスリルあるだろ?

「いーち、にー、さーん…」
「待って待って待ってっ!」

数を数えるもの夕陽が焦ったように俺の腕を掴む。
あー、あの、突き放すみたいに帰って良いよっとか言ったから、焦ってるのかな。

「きゅー、じゅう。ほら、逃げろって。」
「ねっ、ちょっごめんて!」

でも困った顔も可愛い。
ちょっと意地悪してしまった。
すると夕陽が更に焦ったように縋ってくる。

「逃げないの?それなら此処でやる?」
「!」
「なんちゃっ、…ぁ、」

なんちゃって。
いうつもりが、夕陽は脱兎のように走り出していた。
恥ずかしがり屋だなぁ。
俺だって夕陽の可愛い姿ほの奴に見せたくないから、考えるっての。
俺は笑いながら続きの数を数えた。

「さて、いくか…あ、そうだ。」

俺は帰り支度を始めていた友村の方を向いた。

「友村、夕陽の荷物をまとめて俺の荷物と一緒に玄関に置いてろ。」
「分かりました。…荷物を置いてきましたら、手伝いましょうか?」
「はぁ?」

俺の監視役兼、使用人。
俺の手伝いもこいつの仕事のうちってか?
だけどさぁ、これは違うだろ。

「なんでお前が出てくるんだよ。俺と夕陽がラブラブ、イチャついて遊んでんのが分かんねーのかよ。恋人の間には割って入ってくるな。」
「…へ?……あっ、あー…はい。分かりました。」

友村は一瞬きょとんとするが、その後はハイハイとうなづいて夕陽の荷物を回収しにいった。
…全く…。
ま、友村なんかより、夕陽だ。
俺はゆっくりと歩き出した。

「夕陽〜」

正直、夕陽の居場所は直ぐにわかった。
何となくだが、夕陽の匂いが3階の多目的の教卓からした。
だから、わざと教卓は探さなかった。
見つけて欲しくてワクワクしている夕陽を焦らすのは、ちょっと興奮するよな!
しかしそろそろ捕まえてあげないと…。
俺は腕時計に目を落とした。
いや、それも少しびっくりさせてやるか。

俺はわざと教室をでて、階段の踊り場の隅に座った。

そこで、思惑通り夕陽を捕まえた。
警備のおっさんが見回りする時間だったのだ。

「みっけ♡」

恋人っぽく、優しく戯れて微笑む。
夕陽は驚いて、口をぽかんとあていた。

「…ずるい…。」
「えー?なに?」
「…」

何?
あー、あんなおっさん使ってってことか?

「君たち、ちゃんと帰るんだよ!」
「…さて。」

これは違うんだって弁明しようとしたところで、警備員のおっさんが割り込んでくる。
どいつこいつも、邪魔してくるよなー。
しかし今はそれどこでは無い。
俺は夕陽の耳元に口を近づけ、艶っぽく囁いた。

「あのおっさんもあぁいってるし、仕方ない、夕陽がきたいなら、俺の家来る?約束ではその場でだったけど…夕陽がどうしてもって言うなら。」
「…自分の家にかえ「じゃ、あのおっさんに見ててもらうか?」
「篤樹の家に連れて行って下さい。」

夕陽の背中を一押ししてやる絶好のチャンスだ。
夕陽はいつも通り恥ずかしがるが、少し強引に押すとこくこくと頷いた。
そんなに待てないのか。
愛しすぎて笑ってしまった。

「でも俺もう勃ってるし、今やりたいんだよな〜」
「えぇ…」
「どうしよっか?」

ちょっと意地悪してみる。
夕陽が困ったように顔を引き攣らせる。
好きな子を虐めたい。
子供っぽいが、俺は正にそのタイプみたいだ。

「俺の家に着いたらしてよ。騎乗位。」
「…」

そこでまた、マンネリ打破の提案。
俺の提案に夕陽は顔を赤くして黙って俯く。
積極的なのに、恥ずかしがり屋な夕陽は可愛い。
俺はニコニコと夕陽に詰め寄った。

「やる?」
「…やります。やらせてください。」

ふっと夕陽の耳元に息を吹く。
すると夕陽は震えながらそう答えた。
「もう待てない!」
という夕陽の声すら聞こえて来そうな様子だ。
俺はふふっと笑い、俺の項を撫でる。

「バース検査、楽しみだね。」

早く此処に俺の歯形をあげたいな。

————
ごとんごとん

「夕陽、綺麗」
「…」

俺の家に向かう電車内で、夕陽と並んで座席に座る俺はぼんやりと呟く。
丁度夕暮れ時で、外は夕焼けだった。
空の青と夕陽の赤が、綺麗なコントラストだ。

「こんなの、昔はなんとも思わなかった。けど夕陽にあってからは…世の中全部綺麗に見えるから、不思議だな。」
「…」

渾身の、たった数ヶ月前までは人と付き合った事もない俺にとっては、かなりの勇気を振り絞ったセリフだった。
内心心臓が飛び出そうな程緊張しているけど、ぼんやり前を見つめている体で夕陽の方を見ずに言い切った。

「…」
「…」

しかし夕陽からの反応はない。

「…?…ぁ」

それもそのはずだ。
夕陽の方をチラリと見ると、爆睡していた。
何故か苦悶の表情で寝ている。
「き、きもち…です、もちっ…」
変な寝言。餅?
そう言えば朝と昼にやって、夕方は全力で走らせたからなぁ。
俺が疲れさせちゃったからか。ごめん。
今後はもう少し気をつけよう。
そうだな。
もし夜になっても疲れているようなら、ただ抱き合うだけでそのまま寝ようかな。

「…いいかも。」

なんか、それこそが自分の求めていたものなのかも。
マンネリ打破とかそういうのはどうでもいい。
こういう日々が幸せなんだよな。

俺は傾いていた夕陽を自分の方へもたれかけさせると、俯いてこっそり笑みを漏らした。
頬が赤いのは、夕陽の赤さだけじゃ無いな。

続く?
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