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わかんな訳ない話

学校の実験室IIの準備室。

「んぁっ、気持ちいいです。気持ちいい…っ」
「はっ、だよなぁ。」

はい。
気持ち良いです。
気持ちいいです。
俺は揺さぶられながら機械みたいにこの言葉を口にする。
俺の声を聞いて、奴は満足気に笑う。

「んっ、出すからなっ、」
「はいっ、うっ、く、…っ‼︎」
「俺の子産めよ」
「…ふっ」
「産みたいよな?なぁ?なぁ、なぁなぁなぁ?」
「あ、やめっ…っ、う、産みたいですっ!」

返事が遅れると、ぐりぐりと前立腺を刺激される。
俺は震えながらも慌てて返事をする。
すると、奴の息をつめる音と、キス。
この行為の終わりの合図だ。

「ふー…。愛してるからな、夕陽。お前も俺の事愛してるよな?」
「……」
「愛してるだろ。」
「愛してます。」
「そうだよな。」

目尻を下げた奴が、ぎゅっと俺を抱きしめた。

と、これがほぼ毎日行われる。
和姦に見えた?
え。ラブラブカップルだって?
そんなわけないだろ!

「今日は週末だから、放課後すぐにうちに来いよ。」
「これが終末…」
「なんか言ったか?」
「…ぶ、文芸部があるか、すぐには無理だよ。」
「分かった。部活が終わる頃に、図書室まで迎えに行く。」
「…」

微妙な顔になる俺、ちゃんと認識されているのか?
奴は再び俺をぎゅっと抱きしめた。

——
俺は中学二年の時に転校した。
転校初日、ドキドキしながら一人での時間を持て余していると視線を感じた。

「?」

振り返ると、斜め後ろの席に奴はいた。
広瀬篤樹(ひろせ あつき)。
ハーフかクォーターとかいう奴は、中学生なのに随分大人びていた。
大柄で、髪の色は銀か金かよく分からない明るい色。肌は白く、綺麗に通った鼻筋が特徴的だった。
俺と目が合うと、篤樹はにっこりと笑った。
俺も釣られて笑い返す。
すると篤樹は少しだけ目を見開き、立ち上がるとこちらに近づいてくる。

「名前」

あれ。俺は朝に自己紹介したけど。
聞いてなかったの?
それなのにわざわざ話しかけてくる?
ていうか、コイツ、朝いなかったよな?
なんで?

「城山夕陽(しろやま ゆうひ)。今日が転校初日なんです。」
「ふーん…よろしく、夕陽。」

と、まぁ、こうだ。
最初の違和感を蔑ろに、気づかないうちに俺たちは友達になっていた。
これが最悪な生活の始まりだ。

出会って二週間後。
俺はサクッと篤樹に強姦された。

あとで分かった事だが、篤樹は危険人物中の危険人物だった。
見た目がいいからモテるが、大っぴらに篤樹に近づける人はほぼ皆無。
俺の前ではにこにこしているが、篤樹は気性が荒く喧嘩をする。しかもその体格に見合ってかなり強い。
それ故に相手を半殺しにして捕まりかけたとか、教師も平気で殴るとか、悪い噂まみれの奴だった。
あの日も堂々と、午後から登校していたのだ。

体育の時見えた奴の体、筋肉バッキバキだった。
「いいなー羨ましいー」とか呑気に言っていた自分は馬鹿だ。

「本当、あいつ死なないかな。誰か、あいつを再起不能にしてくれ…」

放課後、文芸部の集まりという名のだらだらする時間、俺は嘆いた。
図書室の好きな所で転々と本を読んでいたが、俺の声に周囲が少しびくりする。
しかし皆我関せずだ。
横にいた友達の友村が呆れた顔をしている。

「まー、あの広瀬だからな。誰かを再起不能にすることはあるけど、広瀬本人がされる事はまずないだろ。」
「ていうか、友村、今夜家に泊めて。」
「は?普通に嫌だけど?いくら俺が広瀬に夕陽の友達任命されたとは言え、夕陽に深入りすると、殺される。」
「え?なにそれ?」

なに?任命?
友村は転入から2ヶ月たった辺りからそこそこ仲が良い。
学級委員で面倒見が良い上に、読者という趣味も合うから普通に友達になったのでは?
俺の戸惑いの声に、友村は黙り込み眼鏡を指で押し上げた。
どゆこと?

「…今のなし。」
「いやいや、なくせるかよ!」
「まぁまぁ、最初は任命されたから友達していたが、今はその境界も曖昧だ。」
「…え、…えーー…俺らの友情って、任命制だったの。篤樹が任命したって?」
「で、どうした?家に泊めろって、広瀬になんか言われた?」
「急に話のってくるな…」

友村は任命ということを誤魔化すように、急にこちらに体を向けてきた。
釈然としないが、話せる相手は友村以外にいない。
俺は昼に篤樹に言われた話を、友村に話した。

「へ〜家にまで招くとか、凄い気に入られよう。」
「はぁ…こっちはたまったもんじゃない。いつまで続くのかな、これ。」
「…え?」
「え?」

俺のぼやきに、友村が意外そうな声を出す。

「…だ、だって、篤樹にとってこれはただの遊びだよな?それだから、いつか飽きるだろ?」
「…あ、…んー」
「あのちゃらんぽらんな篤樹の事だ。きっと下半身ゆるゆるで、前にも同じような被害者とかいて、そういう標的決めてやる悪い遊び的なやつだろ?」
「あー」
「だからこれはいつか終わるんだろ⁈前もそうだったんだろ⁈」
「前…」

俺が最近考える事はこればかりだ。
面と向かって篤樹に歯向かう勇気はない。
なら篤樹自身に飽きてもらうしかない。
しかし友村は目を泳がせ曖昧にしか答えない。

「なんだよその態度!」
「いや、だってさ。前、とかないから。」
「え。」
「お前が最初。で、多分お前で最後。」
「…」

その言葉に自失呆然な俺を、友村が微妙に憐れんだ目で見る。

「てか、夕陽ってΩとかなの?」
「?まだ、バース検査は受けてない。でも両親ともにβだし。多分俺もβだろ。」
「そっか。αの広瀬があんなに執着するから、てっきり夕陽はΩだと思った。」
「…篤樹はαなのか…」
「まだ正確にはバース検査受けていないから憶測だけど。あれはどう見てもそうだろ。広瀬は親もαらしいし。」
「…」

ちなみにバース性とは、第二性とも言う。
男女という性別が第一性、αかβかΩかというのが第二性。
一番一般的なのはβ。大多数の人間はβだ。
残りの数%がαやΩだ。
αはカリスマ性をもつ傾向にあり、権力者に多い。
そしてΩ。
Ωは男でも妊娠できる。
またΩは定期的にヒートという発情期があり、その期間はΩ独特のフェロモンでαを惹きつける。
Ωはヒート期に行為中、αに項を噛まれると番となる。
番は切っても切れない強い繋がりだ。
αとΩ自体世の中に少ないので良く知らないが、番になると嫌でも相手から離れられないとかよく聞く。
この第二性がわかる検査は、それぞれの特徴がで始める16歳前後で行うのが一般的だ。
しかし家系による要素も強く、大体予想はできる。
見た目が良くて人を惹きつけるような奴は大方αだし。

「夕陽はΩじゃないのか…」
「それはないだろ。」

俺の話を聞いて、友村は意外そうに片眉をあげる。
表面上は皆口にしないが、Ωは差別を受けることが多い。権力のあるαを誘惑する淫乱で堕落しているとか、それは散々な言われようだ。
俺としては、βとして平々凡々暮らしたい。

「そっかー。夕陽、広瀬とやってる時よく『妊娠します』とか宣言し「えぇ⁈聞こえてたの⁈」」
「まぁ、割と…」
「…」

本当かよ!
言わされているとは言え、あんな馬鹿な台詞。
でも言わないと怖いからな…。

「αの広瀬とあんだけやってたら、夕陽も本当にΩなったりしてね。項には注意しろよ。」
「…」

友野が含み笑いで漏らした言葉に、俺は顔を青くして固まった。
確かに、都市伝説で聞いたことある。
αと深く繋がると、βでもΩになるとか。
でもそんなの…そんなの、あってたまるか!

キーンコーンー

そうこうしていると、部活の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「そろそろ部活の時間も終わりだな。ほら、広瀬来るんだろ?夕陽ももう帰っていいよ。」
「良くない!」
「え?」
「ここで広瀬の家に行ったらどうなるか…。夜通し強姦されて、俺、本当にΩにされちゃう!」
「まー、Ωってか、女にはされるよね。」

俺はケラケラ笑う友村をじとりと睨んだ。

「広瀬の家には行かない。逃げる!」
「ふーん。初めての反抗か。いいんじゃない?中々見ものかも…。」

俺は友村を小突き、素早く自分の荷物をしまう。

「夕陽」
「!」

篤樹だ!
俺はさっと身を屈めると、こそこそと本棚の後ろに隠れた。
来るの早!

「夕陽?なぁ、夕陽知らない?」

篤樹が俺を探している声がする。
早く諦めて出てってくれないかな…。

「おい。夕陽は?」
「っ、さっきまであの辺りにいました…。」

おそらく篤樹の圧に負けたのだろう。
他の部員の震える声が聞こえた。

「……友村…」

そしてその後は、地を這うような篤樹の声。
やばい!友村が…

「俺が夕陽と会うなら連れてくるのがお前の役目だろがよ。」
「え?広瀬さん、今日夕陽と約束していたんですか?すみません。知りませんでした。」

ガシャンッ!

友村がとぼけた声を出した後、凄い音が響く。
隠れていた俺もその音の大きさに飛び上がり、堪らず影から顔をのぞかせた。

…と、友村っ!

そして目の前の光景に息をのむ。
倒れた机は恐らく篤樹が蹴り上げたのだろう。
友村の周りの机が薙ぎ倒され、友村自身は篤樹に襟首を掴まれている。
大半は逃げ出していたが、一部逃げ遅れた生徒達が隅で震えていた。

「ふざけた事抜かしてんなよ。」
「っ」

友村の顔は見えないが、篤樹の顔は般若だった。
今まであんな顔見た事ない。
まずい。友村が…っ!友村が殺される…。
…仕方ない…。

「あ、あの…」

俺はおずおずと物陰から顔をのぞかせた。

「…夕陽」

篤樹は俺を見つけると、般若から一転、にっこりと微笑んだ。
そしてこちらへ近づいてくる。
怖い…。

「何で荷物持ってこんな所にいるの?」
「そ、それは…」
「俺から逃げる気だったみたいに見えちゃうなぁ。」
「…」

まずい。
俺までキレられる。

「あ、篤樹と、かくれんぼしたい!…的な…です…。すみません。すみません。…っ」
「…」

俺がしどろもどろに弁明するが、篤樹は何も言ってくれない。
あと視界の端で、俺のかくれんぼ発言を聞いて友村が肩を震わせている。
笑うなよ!
俺だって馬鹿だなって思うけど。

「そう。」
「!」

黙っていた篤樹が俺の頬を撫でる。

「遊びたかっただけ?」
「は、はい…。」
「じゃ、遊ぶ?」
「は、…え?」

どゆこと?
篤樹は何を言っている?

「30秒やるから逃げてみろよ。ただ、図書室の入っている2号校舎から出るのは禁止。」
「う…ん?」
「30分夕陽が逃げ切ったら、今日は解散でもいいよ!」
「え⁈」

篤樹は戸惑う俺を笑って、頬にキスをした。
人前でキスとかするな!

「ただ、俺が夕陽を捕まえたら、その場でぶち犯すからな。」
「⁈」

「夕陽がやりたがった遊びだろ?」篤樹は耳元で悪魔の様に囁いだ。
結局のところ、篤樹はめちゃくちゃご立腹だった。

「いーち、にー、さーん…」
「待って待って待ってっ!」

周りに俺たちの会話は良く聞こえていなかったようだ。
急に数を数え出す篤樹とテンパる俺に、周囲は首を傾げていた。

「きゅー、じゅう。ほら、逃げろって。」
「ねっ、ちょっごめんて!」

篤樹がニヤリと笑って顎をしゃくる。

「逃げないの?それなら此処でやる?」
「!」

ダメだ。
俺は仕方なく走り出した。
誰に見られるのも嫌だけど、文芸部のメンバーに見られるのはことさら嫌だ!

「ハァッハァッ」

本当に最悪だ!何でこんなことに…。
2号校舎から出るの禁止って、逆に出たら逃げられそうだけど…ヤバいよな?

2号校舎は
一階が図書室
二階が物理室と理科室
三階が多目的室1、多目的室2、多目的室3
と、比較的コンパクトな作りだ。
2階でやられてその音を、文芸部に聞かれるのは絶対に嫌だ。死ぬ。
俺は一気に3階にまで駆け上がった。
そして鍵の空いていた部屋にすべりこみ、教卓の下に隠れる。

「ふーっ、ふーっ、はぁっ、…っ」

乱れた息を無理矢理整える。

「30分か…」

冷静に考えたら、結構俺にも分がある?
チラリと腕時計を見る。
18時45分。
逃げたのが部活終わりすぐだから、40分から始めてる?
そしら、19時10分まで逃げ切れれば良い。
そして逃げ切ったら、土日は自由。
え?割と良くない?

「夕陽ー」
「!」

そうこう考えていると、廊下から篤樹の声がした。
俺は息をつめて、更に身体を小さくした。

「こっちかな?」

ガラガラと扉が開く音がする。
俺がいる教室に入ってきた!

「夕陽〜。いないか…」

どくん
どくん…

「夕陽〜。こっちかな?…なんか、夕陽を探してるだけで勃ってくるな。見つけたらどうしてやろうかなぁー。」

篤樹が世にも恐ろしいセリフを吐きながら、ガタガタと物陰を調べている。
俺は口を手で押さえ、脂汗を垂れ流していた。

「んー、居ないかぁ。」

結局、篤樹はだるそうに呟くと教室を出て行った。
やった!助かった!
これはいける!
俺は教卓の下でほくそ笑んだ。
土日何しようかなぁ〜。
半分諦めていた分、自由な時間が出来ることが嬉しくて堪らない。
そう呑気に考えていた時だった。

「君!」
「うわぁっっ!何⁈」
「こんな時間までこんな所いられたら困るよ!」

制服を着たおじさんが俺を見つけて怒っていた。
…あ。

「警備の…?」
「そうだよ。それはともかく、19時に施錠しちゃうから、さぁほら!もう、帰った帰った‼︎」
「え、ちょっ!」

警備員のおじさんだ。
おじさんは俺の腕を引っ張り教卓から引き摺り出すと、廊下へ押し出す。

「ほらっ!ちゃんと出てくか見張ってるからね!」
「…え〜…」

警備員は教室の前に仁王立ちで、こたらにしっしっとしていた。
本当か…。
促された俺はどうしようもなく、すごすごと階段に向かう。
ここで篤樹に会ったらどうしよう…。

「っ!」
「みっけ♡」

肩に何か乗っかったと思ったら篤樹の腕だった。
篤樹は俺の肩を組み、満面の笑みだった。
チラリと見た時計は18時58分。

「…ずるい…。」
「えー?なに?」
「…」

今の篤樹を見て確信した。
こいつはこうなるって分かっていて、俺にかくれんぼを持ちかけたんだ!
自分が負けることがないって自信の元。
結局、どこまで行っても俺は篤樹の掌の上で踊らされてたのか。

「君たち、ちゃんと帰るんだよ!」
「…さて。」

篤樹が後ろの警備員に気付きながらも無視して、話し始める。
俺はギクリと身を強張らせた。

「あのおっさんもあぁいってるし、仕方ない、夕陽がきたいなら、俺の家来る?約束ではその場でだったけど…夕陽がどうしてもって言うなら。」
「…自分の家にかえ「じゃ、あのおっさんに見ててもらうか?」
「篤樹の家に連れて行って下さい。」

篤樹は俺の返答を聞いてケラケラと笑った。
満足そうな顔に腹が立つ。

「でも俺もう勃ってるし、今やりたいんだよな〜」
「えぇ…」
「どうしよっか?」

篤樹はわざとらしく、顎に手を当てて考える。

「俺の家に着いたらしてよ。騎乗位。」
「…」

結局、無駄に抵抗して、俺は自分の首を絞めただけだった。

「やる?」
「…やります。やらせてください。」

篤樹がふふっと笑い、俺の項を撫でる。
何故か項を触られて胸騒ぎがしたが、もう抵抗する気力もなかった。
俺は黙ってその手を受け入れた。

「バース検査、楽しみだね。」

ただ篤樹の含みのある言葉が、やけに引っかかった。

続く?
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