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秘密と首輪

※友野視点

「先日はすまなかったね。」
「いえ…。こちらこそ。俺も大樹さんがああ出るとは思っていなくて。桜助から聞いた感じ、桜助も坂本さんを好いてそうだったですし。」
「…ふっ」

俺はあくまで、素直になれない友達を応援する立場だ。
しかし俺のすまなそうな顔を見て、坂本は吹き出した。

「なに?友野くんは桜助のこと嫌いなの?」
「…」

ま、そうだよな。
そこまで馬鹿じゃないか。
坂本はカラカラと笑っていた。

「好きでは、ないですよ…」
「そう。」

俺がボソリと溢した本音に、坂本は緩い笑みを返した。

「坂本さんは何故そうも桜助に執着するんですか?」

ここまでくれば、だ。
俺は開き直って坂本に直球で尋ねた。
すると坂本はすっと笑顔を引っ込めて、目線を落として口をつぐんだ。
言うか迷っている。
俺は慎重に坂本の出方を待つ。

「……まぁ、いいか…。」

そして、坂本は何か自分の中で区切り付いたかのように話し出した。

「友野くんはΩ売りって知ってる?」
「ええ。風習ですよね。大昔の。」

Ω売りとは、今よりももっとΩの人権がない時代、Ωがモノのように売り買いされていた話だ。
Ωは娯楽品にもなるし、αの子供を妊娠する確率も高い。
αの偉い奴が、貧しい家のΩを買うってことだ。

「そう。それね、実はまだ一部の階級内ではまだ存在しているんだよ。」
「え?ま、まだ、そんな事やってるんですか?」

信じられない。
俺は顔を不快感で歪めた。
そんなの、Ωを何だと思っているんだ。
何というおうが、やっている事は唯の人身売買だ。

「うん。嘘みたいだけどね…。いわゆる、政略結婚的な?」
「…はぁ、でもそれが、桜助とどう関係あるんですか?」

坂本はにこりと笑った。
影のある笑いだった。

「…今は関係もこじれて半ば家出中みたいなもんだけど、僕の実家はそこそこの規模の会社をやっていてさ、僕は桜助の弟である椿を譲り受ける筈だったんだ。」
「…」

坂本の育ちの良さは何となく気づいていたが、桜助の弟の話は初耳だ。
でもまだいまいち坂本の話の趣旨が見えない。

「10歳くらいの頃、初めて椿に会ってね。僕の一目惚れだったんだ。親に何かを強請るなんて、後にも先にも、椿の件だけだった。」

そんな昔から目をつけていたのか。
これだけ執着するわけだ。

「なのに、椿が僕のところに来る事は無かった。椿は死んだ。」

へー。
…ん?

「…だから、桜助を椿の代わりにするんですか?」

まぁその辺は正直どうでも良いけど。
しかし俺の問いかけに、坂本は不敵に笑った。

「違う違う。きっとね、あれは桜助じゃない。」
「は?…でも、それなら…え?どういうことですか?」

何を言っているんだ?
戸惑う俺に、坂本は不敵な笑顔を向ける。
まさか…

「いやいや。そんなはずあります?」 

言わんとする事は分かる。

「あれは椿だよ。」

桜助と椿が入れ替わっている。
そう言いたいのだ。
しかしそんな事、なぜする?
もしかして、大樹の家にも桜助はΩ売りされている?

「…」

俺はそんなわけないと言いかけて、口をつぐんだ。
あの大樹の目を思い出したからだ。
優しく、桜助を見ていた。
しかもヒートに入った桜助を気遣って、睡眠作用のある抑制剤を打っていた。
ヒート期のΩを見逃すαなんて、異常だ。
異常に、優し過ぎる。
きっと坂本の家に出されるより、大樹の家に出された方がそりゃ良い人生は過ごせるだろう。

「しかし、予想の域を出ませんね。だから何?です。」
「まぁね。何か証拠がない限りはね」

坂本は意味深な目線を俺に向ける。
そう言うことか。

「俺に証拠を持ってこいってことですか?」
「ふふ。友野くんは物分かりが良くて助かるね。」
「自分でやれば良いじゃないですか。自分で探さないから、俺に頼むんですか?」

手伝っても良いけど、αに顎で使われるの腹が立つ。

「大樹が手を回したみたいでさ。僕はもう、桜助に近づけない。」

なるほど。
まぁ、そうなるよな。

「それに、友野くんの方が、桜助から色々聞き出せるだろ?仲がよいし。」
「けど、今更…大樹さんが黙ってませんよ。」
「あー、その辺は大丈夫。」
「?」
「大樹の家の会社、僕の実家の下請けだから。」

大樹の会社かなり大きいのに、それを下請けと言い切るとは。
そっか。大樹の会社の上にあるのは…坂本ホールディングスか。まんまじゃねーか…。
しかも超巨大企業。

「でももう、実家とは不仲なんですよね?」
「椿が亡くなったと聞いてからね。椿も貰えないなら、あの家に残る理由もない。しかし僕の両親は僕の事を買っていたから、今も僕を取り戻す手段を模索している。」
「桜助が手に入るなら、実家に戻るって言うんですか?」
「そういう事。本当は自分で成り上がって奪うつもりだったけど、もう桜助が手に入ればやり方なんて拘らない。実家の操り人形にでも何にでもなる。」

随分な言いようだな。
まぁいいさ。
俺は桜助と大樹の仲を引き剥がしたい。
それが出来れば、他はどうでも良い。
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