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秘密と首輪

「もう動悸はしないか?」
「…」

目が覚めると俺の部屋だった。
大樹が俺の寝ているベット脇に座っている。
小鳥が外でちゅんちゅん鳴き、空気が心持ち冷たい。朝だ。
いやいや。
今はそんな呑気なだんじゃない。

「…そ、…その節は、すみませんでした。」

大樹は俺の突然の謝罪に一瞬きょとんとした顔をしたが、次にはため息を吐いていた。

「やったのか?」
「やっ⁈してないっ!」

彫刻の様に綺麗な顔のまま、下世話な事を言うので戸惑う。
慌てて俺は起き上がり、ぶんぶんと頭を振った。

「あいつが好きなのか?」
「あのさ、それ、前も聞かれたけどー」
「好きなのか?」
「いえ。好きではありません。全っ然。全く。」

圧が凄い。
呆れた調子から一転、俺は畏まって強く否定した。

「なら何故あんな事をした?」

俺は俯いたまま、ボソボソと話し始める。

「…仕事で、良い条件で契約したくて…」
「はー…。にしてもあんな方法、正気じゃないぞ。」
「…」
「Ω性を利用してどうする。桜助はバースを気にしないと思っていたのに…。」
「…」
「大体そこまで仕事の為にして、意味ないだろ。なんでバースなんか…」
「αの大樹には分からないだろ。」

俺はいつもより低い声で言葉を発した。

「この世界でΩがどれだけ生きづらくて、成り上がるのがどれだけ大変なのか。」

大樹は口を閉じ、じっとこちらを見つめている。
俺ももうやめて良いはずなのに、転げ落ちる様に止める事が出来なかった。
実際ボロボロと感情がこぼれ落ちてくる。
止まらない。

「俺だってこんな、自分を切り売りする様な事、したくなかった!」
「…」
「だけど俺にはこれしかないだろ。これしか脳がないからー」

大樹の目も見れずに話していると、不意に手を握られた。

「桜助、ごめん。寄り添えなくて、ごめん。俺はただ……ごめん…。」
「…」

珍しく大樹の声は弱々しい。
流石の俺も、ハッとして顔を上げる。

「俺は、仕事より桜助が大事なんだ。」
「……」

おう?
そ、こまでは言われると思っていなかった。
急な告白に、俺の方がオロオロとしてしまう。

「そ…っ。それは、…あー、もー。大樹は俺の事大好きだもんな!」
「…」
「俺とのえっち、そんな気持ちいい?もー大樹のえっち!……ま、冗談はもう終わりにして。分かった俺も変なこと「違う。」
「え?」
「セックス、出来なくても、俺は桜助が好きだ。桜助そのものが、好きだ。」
「…」

流石の俺も瞠目する。
何でこの男は…こんな立派ななりで、時々こうも子供みたいなんだろう。
変な事言ってる割に、大樹は真っ直ぐに俺を見ていた。

「…大樹、ごめんなさい。」
「うん。」

俺は何故大樹を抱きしめていた。
明らかに俺より大きい大樹を抱きしめる。
変な絵になってそうだな。

「桜助」
「なに?」

そうやって抱きしめていると、大樹が呟くように話しかけてきた。

「俺を置いて、何処にも行かないでくれ。」
「…」

一瞬どきりとした。
だって俺は、もうこの場所を出て行くつもりだった。
それに気づいているのか?
俺の反応がないからか、大樹が俺の肩に顔を埋める。

「…出来れば…俺も、連れてってくれれば良いのにな。」

なんでそんな…縋るみたいに言うんだ…。

「どうしたんだよ急に。大樹…俺に何か隠していることある?その…秘密とか…」
「…」

俺の言葉に大樹はじっとこちらを見つめた。
え、なに?
だって急に、違和感が半端なかっから聞いてしまった。
しかし大樹は何も言わない。
ただ、じっとこちらを見つめる。
むしろ、この間こそが…

「ふ、それを、お前が俺に言うのか。」
「……あ、はははは…そうだな。」

そうだよね。
大樹がふっと笑い、俺も釣られて笑った。
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