【完結】静流くんの愛は重い
「あら、今日はどこも出ないの?」
「うん。」
日曜日、昼を過ぎても家に篭っている柚木に母親が声をかけた。
(心配されてる…)
その顔は心配気で罪悪感が湧く。
結局、家族の目があるリビングは居心地が悪く自室に籠ることにした。
「はぁーー…」
ブーブー
ため息混じりにベットに倒れ込むと、枕元のスマホがメッセージの着信を表示していた。
『柚木くん、ごめんね』
『俺たち、友達だよ。』
『今日これから、うちに来ない?』
『昨日の話、ちゃんとしたい』
「…」
もう静流の全てが白々しく思えてしまう。
柚木はスマホの画面をおとし、目を瞑った。
そしてそのままだらだらと休日を浪費する。
夜に再び静流からの連絡があったが、相変わらず反応する気にもなれなかった。
次の日登校すると、校門をくぐったさきの先の玄関がやけに賑やかだった。
「…」
(静流くん…)
静流が立っているのが原因だった。
確かに思い返せば、静流の周りは功もいて、他の生徒が話しかけたりといつも賑やかだった。
そして自分はその脇に、まるで存在感なく置物か人形の様にいた。
今更ながら、考えてみるとおかしな関係性だった。
「…」
静流は柚木と目が合うと微笑んできた。
そして、何か言おうと静流が口を開気かけたところで、柚木は静流から目を逸らした。
(これでよかったんだ。)
そしてそのまま教室に向かった。
そんなふうにして、月曜日から火曜日、火曜日から水曜日…と、週も半ばになった頃、園田に捕まった。
「いっ、ちょっ、そ、園田くんっ、どうしたの?」
園田は夕方、一人で下校しようとしていた柚木を捕まえ、無理矢理校舎裏に連れて行く。
「はっ、どうしたのじゃねーよ!柚木、遂に静流に捨てられたんだろ。」
「…」
園田は何故か嬉しそうに息を切らしてそう言った。
周囲にそう見えるのは分かっていた。
しかし面と向かって言われるのは辛い。
「だから、俺とだけ遊んどけば良かったのになー。まっ、話はついてからだな。」
「は、話し?」
園田はニヤニヤと笑い、早足に柚木の手を引く。
その顔はいつも以上に上機嫌で、柚木の恐怖心が募る。
「はい、到着!」
「いたっ‼︎」
園田の言う場所に着いたようだ。
押し込める様に、外付けの体育倉庫に押し込まれた。
背を押された勢いで、倉庫内で転ける。
「ちょっ、な、何⁈…っ⁈」
座り込んだまま周囲を確認した柚木は、悲鳴を飲み込んだ。
倉庫内には素行が悪そうな生徒が十数人いた。
今迄、園田とその取り巻きに暴行を受ける事はあった。
しかしこんなに大勢で来られた事はない。
カチン
「はは、まぁまぁ、柚木、悪い子だから皆で相手してやらないと。って事で。」
「…っあ!」
園田は腰が抜けて立てない柚木の前髪を強引に引き、無理矢理周囲を見せつける。
「ふっ…」
「怖い?」
含み笑いで園田は聞いてくる。
怖いに決まっている。
「てか、見えないんだけど〜」
「!」
(まさか…)
そんな時、薄暗い倉庫に場違いなほど明るい声が響いた。
その声に従って自然と生徒たちが動き、その先の人物が見えた。
「しずっ、静流くん…?」
倉庫の奥、物を積み上げてまるで王座の様になっている場所に静流はいた。
足を組み座り、頬杖を付いてこちらを見下ろす。
ニンマリとした、柚木が恐怖を覚えたあの笑顔を貼りつけている。
(そんな、そこまで…)
そこまで静流は柚木の事が嫌いだったのだろうか。
その瞬間は恐怖より悲しさの方が優った。
「ふふ、本当いい顔するね〜…柚木くん。はぁ……ほんと、愛せるねぇ〜…」
(愛…)
静流が何処か悦に浸った顔で述べる。
思考が機能しない中、柚木は静流の言葉を頭の中で反芻した。
しかし意味は理解できない。
「静流くん、じゃ、もういいよね?」
そんな静流に、園田はソワソワと話しかけた。
餌を前にした犬の様だ。
「いいよ〜。でも、顔はこっちに向けてね。」
静流の緩い声を合図に、園田の手にぐっと力が籠る。
「あ、ま…っ、まって!し、静流くんっ!…い゛っっ‼︎」
静流に手を伸ばすが、その手を逆に掴まれて床に押さえ込まれ園田に殴られた。
「いやいやいや、園田!柚木くんが何か言ってるだろー。普通にそこは止まれよー?」
「はぁ…」
含み笑いで静流が緩く園田を制す。
周囲がクスクス笑い、園田がとぼけた声で答えた。
「で?なに…?柚木くん」
静流はニコニコと小首を傾げた。
「…っ」
「ん?」
しかし柚木は何と声をかければいいのか分からなかった。
もはや静流が自分をどんな気持ちで見ているかも分からない。
そんな相手に助けを求めるのは、どうなんだ?
「静流くん、やっぱり何もないってよ?」
「いたっ…っ」
園田は不満気な声で静流に物申し、柚木の体を床に押し付ける。
「ははは、なに、園田、そんなに柚木殴りたいの?」
「はは、お前も変わってんなー」
周りが囃し立てる様に笑う。
「うるせ!」
園田は当然、苛立った様に反論の声をあげる。
「んー、柚木くんは、殴られるのが嫌なの?じゃ、違うのにする?」
「…っ、ち、違うの?」
「そうそう。」
静流は笑顔で頷き、ズボンの埃を払い軽い足取りで下に降りてきた。
そして何故か柚木を通り過ぎ、園田の肩にぽんっと手を置いた。
「園田もさ、そっちの方が本当はしたかったんだろ?」
「…」
「?」
嫌な雰囲気だった。
園田も怒ると思ったのに、ただただ真面目な顔で固まったままだ。
「いいよー。きっかけ作ってやるからな〜?」
「…」
クスクス笑う静流に、園田はまだ何も言わない。
「え?…し、静流くん、なな、なにするの…っ⁈」
言葉が意味を成す前に、柚木は静流によって引き上げられた。
「え?なに?」「どゆこと?」「本当?」「え、いいの?」
周囲がザワザワとしだす。戸惑いに混じって、何故か興奮の色さえ見える。
「男でも出来んだからさ〜。」
「?」
「ひよってんなよー」
静流は片手を柚木の左脇下から通し、そのまま右手を押さえた。
そして園田の前に柚木を立たせたまま、器用にもう他方の手で柚木の制服のネクタイを解く。
「え、な、なに?静流くん?」
戸惑う柚木を無視して、ブレザーも強引に脱がされる。
「あー、俺左利きだから、この体制でボタン外すの無理だわ〜。柚木くん真面目に全部のボタン閉めてんだもんなぁ…」
柚木の第一ボタンを外したところで、静流は手を止めてため息をついた。
「え、なんで…ボタン…」
柚木が静流の手を止めようとすると、逆にその手を握り制された。
「ね、」
そして静流は気怠げに柚木の肩に自分の顎を置き、前方の園田に声をかけた。
「やる?」
「…ぁっ」
静流が柚木の耳に口を寄せ話すので、静流の息が柚木に当たる。
柚木は思わずびくりと、みをすくませた。
「…」
そんな柚木を、園田は食い入る様に見つめる。
何処からか、生唾を呑み込む音がした。
「……はは、やんねーの?」
「…」
静流は柚木に頬擦りしながら、園田に話し続けた。
「いやできないのかー。そんなだから、盗られるんだよ。」
「っ!」
「…」
そして柚木の頬にキスをした。
「……?園田くん??」
静流の奇行にばかり目がいっていた。
気付けば園田が距離をつめ、柚木のシャツを両手で掴んでいた。
「……た、のに…」
「?な、なに?」
園田が何かブツブツ言っている。
「お前は、俺だけのだったんだよっ!」
「っ⁈」
園田は急にそう叫ぶと、柚木のシャツを左右に引いた。
無理矢理さかれて、ボタンが弾け飛んだ。
「はは、柚木くん、帰りに着るシャツないじゃ〜ん。」
動揺する柚木を尻目に、静流はケラケラと笑っていた。
「じゃ、ほら。」
そしてトンっと、柚木を園田に押して渡した。
「しっかり犯してやれよ?」
「‼︎」
静流のその声を合図に、園田だけじゃなく四方八方から柚木に手が伸びた。
「あっ、やめっ、…っ、うそっ!」
誰か何処から手を伸ばしているのかも分からない。
揉みくちゃにされる。
有象無象に群がられてよろけ、柚木はその場に倒れ込んだ。
それ幸いと、ぐいぐいと体を押さえつけられる。
更に、制服が裂ける音がした。
「…っ、し、静流くんっ、!」
もう考える余裕もない。
柚木は縋る様に静流を呼んだ。
しかし静流は柚木の声に特に反応しない。
踵を返し、元いた一段高い場所へ戻る。
まるで、静流を最初に無視したあの日の柚木の様だった。
「あっ、いたっ…っうっ、」
誰かに無理矢理乳首を引っ張られた。
ズボンも引き下げられる。
二本の手では対応が追いつかず、どうする事も出来ない。
されるがまま、翻弄される。
「静流くんっ!む…っいっ、無視、しないでっ!ごめっ、ごめん…っ、」
「……」
遂にインナーの中まで他人の手が迫る。
「女顔だからいける」「小柄でいい」「レイプめで興奮する」
嫌がる柚木を抑え込みながら、談笑混じりに交わされる。
興奮の色も段々と更に濃くなる。
「あっ、やだっ…ふっ、…っ‼︎」
柚木は鳥肌を立て抵抗した。
しかし焼け石に水だ。
「たすけっ、…しっ、しず…っくん!」
「…ふっ、しずくん?何それ。」
何かが琴線に触れた様だ。
やっと静流は立ち止まり、こちらを振り返った。
もっと、もっと、言わなければ。
「しずくんっ!やめさせっ…うっ、やめっ、助けて!」
「はは、かっわいっ!」
静流はツカツカと柚木に近寄り、その前で立ち止まった。
「はい、ストップストップ〜」
そしてやっと、止めに入ってくれた。
不満げな声も上がったが、静流はそれらも言いくるめ他の生徒を帰らせた。
園田は最後まで渋ったが、結局静流に何か言われると、黙って帰った。
「…」
先程とは打って変わって、シンっと静まり返った庫内。
静流と柚木の二人だけになった。
柚木は先程の恐怖や悲しみが未だに処理できず、ぼんやりと座り込んだままだった。
「ねぇ、もう一度言って?さっきの。」
静流はワクワクとした顔で柚木の前にかがみ込み、要求してくる。
「…?さっきの……しず、くん…?」
だから静流が反応した呼び名をもう一度読んでみる。
柚木の口からその呼び名を聞くと、静流はニンマリと笑い抱きついてきた。
「良いねぇ〜」
「……」
すりすりと頬擦りされた。
柚木は動けずに固まる。
静流のものは明らかに固くなり、柚木に当たっていたからだ。
「ねぇ、柚木くん、俺のものになる?」
「…ならないと、どうなるの?」
「ふふ、さぁ?」
きっと先程のは静流の自分への制裁だ。
これは『いいえ』という選択肢があるようでない、一択だけの質問だ。
「その場は、『皆の』柚木くんになるんじゃない?」
「…」
「さっきみたいに、いや、さっき以上の人数の相手することになるんじゃない?柚木くんって結構ウケがいいよね〜」
固まる柚木に静流は微笑みかけた。
「『俺の』柚木くん、なら、他の奴になんて触らせないから安心して。」
そして再びぎゅっと柚木を抱きしめる。
まるで純な告白みたいだ。
…静流のものが勃ってなければ。
「よく知りもしない『皆』に、愛もない行為を強要される毎日。と、よく知って柚木くんだけを大切にする『俺』に愛さられる毎日。どっちが良いかな?」
「…」
選択肢がある様で、ない。
「静流くんのものに…なる…。」
柚木は観念して宣言した。
「本当〜?嬉しいな〜!」
その言葉に、静流は笑った。
「ならまず、もう気づいてると思うんだけど、俺勃っちゃててさ…やろっか?」
「…うん…」
どうせいつかはやられる。
半ば自暴自棄で、柚木はこくりと頷いた。
「嬉しいな〜!じゃっ、まずは、舐めて、飲んで?」
「……………え?」
いや、聞いてない。
そこまでの行為を要求されるとは、聞いていない。
柚木はまた恐怖で固まった。
「ふふ、俺はね、柚木くん。」
静流は指先でするすると柚木の唇を撫でる。
「全部、物理的にも精神的にも、外も内も、柚木くんの頭の中から腹の中まで俺で埋め尽くしたいんだ。一日中俺の事を考えて欲しいし、柚木くんの体の中を俺で埋め尽くしていたい。」
「…む、」
「無理?それなら、『皆』のものになる?」
「…」
「あははは、柚木くん、俺は愛があるけど、『皆』を選んだら、愛もなく全然知らないやつのを無理矢理口の中突っ込まれて、飲まされるんだよ?」
「…で、でも…」
「…そっ。」
「あ、」
静流は短く相槌をうつと、パッと柚木から手を離した。
あまりの呆気なさに、逆に戸惑う程だ。
「柚木くんは体験しないと分からないみたいだから」
「!」
「『皆』を一回体験してみよっか〜」
「ちょっ」
静流は柚木の言葉を無視してスマホを取り出して、スルスルと操作をし始める。
「分かった!…っ、し、静流くん、やめて!分かった!やる!やるからっ!」
柚木の声に静流はピタリと動きを止め、柚木をみた。
「…っ、」
柚木は恐る恐ると静流のズボンに手をかける。
「柚木くん、する時はまずキスでしょ?」
「そんなにがっついて〜」とまるで茶化す様に静流は笑った。
「んで、キスしたら、俺にお伺いを立てて。」
「…」
カクカクと震えながら柚木は立ち上がり、背伸びをして静流の頬にキスをした。
「ふっ、柚木くん、キスといえば唇にでしょー」
「っ」
静流は含み笑いで自分の唇を指す。
(あぁ…)
最初は天使みたいに見えたその笑顔だったけど、今は悪魔みたいだ。
きっとこれからも自分は色々なものを静流に奪われるのだろう。
「静流くん、静流くんにとって、俺って何?」
「んー?」
肩に手を置き、一見すると恋人のように柚木は尋ねた。
静流は上機嫌だ。
「それかー、この前聞かれてから考えていたんだ。」
「うん。」
「こんな軽い言葉で表現したくもないけど…近い言葉で言うと、好きな人とか恋人?かな。」
「……それは、全然、軽い言葉じゃないよ…」
静流と自分では、決定的に何かが噛み合っていない。
「そう?それより、今度からはさっきみたいに『しずくん』ってよんで?」
会話も、噛み合わない。
しろと言った割に自分からしてくる静流のキスを受けながら、柚木は目を閉じた。
「うん。」
日曜日、昼を過ぎても家に篭っている柚木に母親が声をかけた。
(心配されてる…)
その顔は心配気で罪悪感が湧く。
結局、家族の目があるリビングは居心地が悪く自室に籠ることにした。
「はぁーー…」
ブーブー
ため息混じりにベットに倒れ込むと、枕元のスマホがメッセージの着信を表示していた。
『柚木くん、ごめんね』
『俺たち、友達だよ。』
『今日これから、うちに来ない?』
『昨日の話、ちゃんとしたい』
「…」
もう静流の全てが白々しく思えてしまう。
柚木はスマホの画面をおとし、目を瞑った。
そしてそのままだらだらと休日を浪費する。
夜に再び静流からの連絡があったが、相変わらず反応する気にもなれなかった。
次の日登校すると、校門をくぐったさきの先の玄関がやけに賑やかだった。
「…」
(静流くん…)
静流が立っているのが原因だった。
確かに思い返せば、静流の周りは功もいて、他の生徒が話しかけたりといつも賑やかだった。
そして自分はその脇に、まるで存在感なく置物か人形の様にいた。
今更ながら、考えてみるとおかしな関係性だった。
「…」
静流は柚木と目が合うと微笑んできた。
そして、何か言おうと静流が口を開気かけたところで、柚木は静流から目を逸らした。
(これでよかったんだ。)
そしてそのまま教室に向かった。
そんなふうにして、月曜日から火曜日、火曜日から水曜日…と、週も半ばになった頃、園田に捕まった。
「いっ、ちょっ、そ、園田くんっ、どうしたの?」
園田は夕方、一人で下校しようとしていた柚木を捕まえ、無理矢理校舎裏に連れて行く。
「はっ、どうしたのじゃねーよ!柚木、遂に静流に捨てられたんだろ。」
「…」
園田は何故か嬉しそうに息を切らしてそう言った。
周囲にそう見えるのは分かっていた。
しかし面と向かって言われるのは辛い。
「だから、俺とだけ遊んどけば良かったのになー。まっ、話はついてからだな。」
「は、話し?」
園田はニヤニヤと笑い、早足に柚木の手を引く。
その顔はいつも以上に上機嫌で、柚木の恐怖心が募る。
「はい、到着!」
「いたっ‼︎」
園田の言う場所に着いたようだ。
押し込める様に、外付けの体育倉庫に押し込まれた。
背を押された勢いで、倉庫内で転ける。
「ちょっ、な、何⁈…っ⁈」
座り込んだまま周囲を確認した柚木は、悲鳴を飲み込んだ。
倉庫内には素行が悪そうな生徒が十数人いた。
今迄、園田とその取り巻きに暴行を受ける事はあった。
しかしこんなに大勢で来られた事はない。
カチン
「はは、まぁまぁ、柚木、悪い子だから皆で相手してやらないと。って事で。」
「…っあ!」
園田は腰が抜けて立てない柚木の前髪を強引に引き、無理矢理周囲を見せつける。
「ふっ…」
「怖い?」
含み笑いで園田は聞いてくる。
怖いに決まっている。
「てか、見えないんだけど〜」
「!」
(まさか…)
そんな時、薄暗い倉庫に場違いなほど明るい声が響いた。
その声に従って自然と生徒たちが動き、その先の人物が見えた。
「しずっ、静流くん…?」
倉庫の奥、物を積み上げてまるで王座の様になっている場所に静流はいた。
足を組み座り、頬杖を付いてこちらを見下ろす。
ニンマリとした、柚木が恐怖を覚えたあの笑顔を貼りつけている。
(そんな、そこまで…)
そこまで静流は柚木の事が嫌いだったのだろうか。
その瞬間は恐怖より悲しさの方が優った。
「ふふ、本当いい顔するね〜…柚木くん。はぁ……ほんと、愛せるねぇ〜…」
(愛…)
静流が何処か悦に浸った顔で述べる。
思考が機能しない中、柚木は静流の言葉を頭の中で反芻した。
しかし意味は理解できない。
「静流くん、じゃ、もういいよね?」
そんな静流に、園田はソワソワと話しかけた。
餌を前にした犬の様だ。
「いいよ〜。でも、顔はこっちに向けてね。」
静流の緩い声を合図に、園田の手にぐっと力が籠る。
「あ、ま…っ、まって!し、静流くんっ!…い゛っっ‼︎」
静流に手を伸ばすが、その手を逆に掴まれて床に押さえ込まれ園田に殴られた。
「いやいやいや、園田!柚木くんが何か言ってるだろー。普通にそこは止まれよー?」
「はぁ…」
含み笑いで静流が緩く園田を制す。
周囲がクスクス笑い、園田がとぼけた声で答えた。
「で?なに…?柚木くん」
静流はニコニコと小首を傾げた。
「…っ」
「ん?」
しかし柚木は何と声をかければいいのか分からなかった。
もはや静流が自分をどんな気持ちで見ているかも分からない。
そんな相手に助けを求めるのは、どうなんだ?
「静流くん、やっぱり何もないってよ?」
「いたっ…っ」
園田は不満気な声で静流に物申し、柚木の体を床に押し付ける。
「ははは、なに、園田、そんなに柚木殴りたいの?」
「はは、お前も変わってんなー」
周りが囃し立てる様に笑う。
「うるせ!」
園田は当然、苛立った様に反論の声をあげる。
「んー、柚木くんは、殴られるのが嫌なの?じゃ、違うのにする?」
「…っ、ち、違うの?」
「そうそう。」
静流は笑顔で頷き、ズボンの埃を払い軽い足取りで下に降りてきた。
そして何故か柚木を通り過ぎ、園田の肩にぽんっと手を置いた。
「園田もさ、そっちの方が本当はしたかったんだろ?」
「…」
「?」
嫌な雰囲気だった。
園田も怒ると思ったのに、ただただ真面目な顔で固まったままだ。
「いいよー。きっかけ作ってやるからな〜?」
「…」
クスクス笑う静流に、園田はまだ何も言わない。
「え?…し、静流くん、なな、なにするの…っ⁈」
言葉が意味を成す前に、柚木は静流によって引き上げられた。
「え?なに?」「どゆこと?」「本当?」「え、いいの?」
周囲がザワザワとしだす。戸惑いに混じって、何故か興奮の色さえ見える。
「男でも出来んだからさ〜。」
「?」
「ひよってんなよー」
静流は片手を柚木の左脇下から通し、そのまま右手を押さえた。
そして園田の前に柚木を立たせたまま、器用にもう他方の手で柚木の制服のネクタイを解く。
「え、な、なに?静流くん?」
戸惑う柚木を無視して、ブレザーも強引に脱がされる。
「あー、俺左利きだから、この体制でボタン外すの無理だわ〜。柚木くん真面目に全部のボタン閉めてんだもんなぁ…」
柚木の第一ボタンを外したところで、静流は手を止めてため息をついた。
「え、なんで…ボタン…」
柚木が静流の手を止めようとすると、逆にその手を握り制された。
「ね、」
そして静流は気怠げに柚木の肩に自分の顎を置き、前方の園田に声をかけた。
「やる?」
「…ぁっ」
静流が柚木の耳に口を寄せ話すので、静流の息が柚木に当たる。
柚木は思わずびくりと、みをすくませた。
「…」
そんな柚木を、園田は食い入る様に見つめる。
何処からか、生唾を呑み込む音がした。
「……はは、やんねーの?」
「…」
静流は柚木に頬擦りしながら、園田に話し続けた。
「いやできないのかー。そんなだから、盗られるんだよ。」
「っ!」
「…」
そして柚木の頬にキスをした。
「……?園田くん??」
静流の奇行にばかり目がいっていた。
気付けば園田が距離をつめ、柚木のシャツを両手で掴んでいた。
「……た、のに…」
「?な、なに?」
園田が何かブツブツ言っている。
「お前は、俺だけのだったんだよっ!」
「っ⁈」
園田は急にそう叫ぶと、柚木のシャツを左右に引いた。
無理矢理さかれて、ボタンが弾け飛んだ。
「はは、柚木くん、帰りに着るシャツないじゃ〜ん。」
動揺する柚木を尻目に、静流はケラケラと笑っていた。
「じゃ、ほら。」
そしてトンっと、柚木を園田に押して渡した。
「しっかり犯してやれよ?」
「‼︎」
静流のその声を合図に、園田だけじゃなく四方八方から柚木に手が伸びた。
「あっ、やめっ、…っ、うそっ!」
誰か何処から手を伸ばしているのかも分からない。
揉みくちゃにされる。
有象無象に群がられてよろけ、柚木はその場に倒れ込んだ。
それ幸いと、ぐいぐいと体を押さえつけられる。
更に、制服が裂ける音がした。
「…っ、し、静流くんっ、!」
もう考える余裕もない。
柚木は縋る様に静流を呼んだ。
しかし静流は柚木の声に特に反応しない。
踵を返し、元いた一段高い場所へ戻る。
まるで、静流を最初に無視したあの日の柚木の様だった。
「あっ、いたっ…っうっ、」
誰かに無理矢理乳首を引っ張られた。
ズボンも引き下げられる。
二本の手では対応が追いつかず、どうする事も出来ない。
されるがまま、翻弄される。
「静流くんっ!む…っいっ、無視、しないでっ!ごめっ、ごめん…っ、」
「……」
遂にインナーの中まで他人の手が迫る。
「女顔だからいける」「小柄でいい」「レイプめで興奮する」
嫌がる柚木を抑え込みながら、談笑混じりに交わされる。
興奮の色も段々と更に濃くなる。
「あっ、やだっ…ふっ、…っ‼︎」
柚木は鳥肌を立て抵抗した。
しかし焼け石に水だ。
「たすけっ、…しっ、しず…っくん!」
「…ふっ、しずくん?何それ。」
何かが琴線に触れた様だ。
やっと静流は立ち止まり、こちらを振り返った。
もっと、もっと、言わなければ。
「しずくんっ!やめさせっ…うっ、やめっ、助けて!」
「はは、かっわいっ!」
静流はツカツカと柚木に近寄り、その前で立ち止まった。
「はい、ストップストップ〜」
そしてやっと、止めに入ってくれた。
不満げな声も上がったが、静流はそれらも言いくるめ他の生徒を帰らせた。
園田は最後まで渋ったが、結局静流に何か言われると、黙って帰った。
「…」
先程とは打って変わって、シンっと静まり返った庫内。
静流と柚木の二人だけになった。
柚木は先程の恐怖や悲しみが未だに処理できず、ぼんやりと座り込んだままだった。
「ねぇ、もう一度言って?さっきの。」
静流はワクワクとした顔で柚木の前にかがみ込み、要求してくる。
「…?さっきの……しず、くん…?」
だから静流が反応した呼び名をもう一度読んでみる。
柚木の口からその呼び名を聞くと、静流はニンマリと笑い抱きついてきた。
「良いねぇ〜」
「……」
すりすりと頬擦りされた。
柚木は動けずに固まる。
静流のものは明らかに固くなり、柚木に当たっていたからだ。
「ねぇ、柚木くん、俺のものになる?」
「…ならないと、どうなるの?」
「ふふ、さぁ?」
きっと先程のは静流の自分への制裁だ。
これは『いいえ』という選択肢があるようでない、一択だけの質問だ。
「その場は、『皆の』柚木くんになるんじゃない?」
「…」
「さっきみたいに、いや、さっき以上の人数の相手することになるんじゃない?柚木くんって結構ウケがいいよね〜」
固まる柚木に静流は微笑みかけた。
「『俺の』柚木くん、なら、他の奴になんて触らせないから安心して。」
そして再びぎゅっと柚木を抱きしめる。
まるで純な告白みたいだ。
…静流のものが勃ってなければ。
「よく知りもしない『皆』に、愛もない行為を強要される毎日。と、よく知って柚木くんだけを大切にする『俺』に愛さられる毎日。どっちが良いかな?」
「…」
選択肢がある様で、ない。
「静流くんのものに…なる…。」
柚木は観念して宣言した。
「本当〜?嬉しいな〜!」
その言葉に、静流は笑った。
「ならまず、もう気づいてると思うんだけど、俺勃っちゃててさ…やろっか?」
「…うん…」
どうせいつかはやられる。
半ば自暴自棄で、柚木はこくりと頷いた。
「嬉しいな〜!じゃっ、まずは、舐めて、飲んで?」
「……………え?」
いや、聞いてない。
そこまでの行為を要求されるとは、聞いていない。
柚木はまた恐怖で固まった。
「ふふ、俺はね、柚木くん。」
静流は指先でするすると柚木の唇を撫でる。
「全部、物理的にも精神的にも、外も内も、柚木くんの頭の中から腹の中まで俺で埋め尽くしたいんだ。一日中俺の事を考えて欲しいし、柚木くんの体の中を俺で埋め尽くしていたい。」
「…む、」
「無理?それなら、『皆』のものになる?」
「…」
「あははは、柚木くん、俺は愛があるけど、『皆』を選んだら、愛もなく全然知らないやつのを無理矢理口の中突っ込まれて、飲まされるんだよ?」
「…で、でも…」
「…そっ。」
「あ、」
静流は短く相槌をうつと、パッと柚木から手を離した。
あまりの呆気なさに、逆に戸惑う程だ。
「柚木くんは体験しないと分からないみたいだから」
「!」
「『皆』を一回体験してみよっか〜」
「ちょっ」
静流は柚木の言葉を無視してスマホを取り出して、スルスルと操作をし始める。
「分かった!…っ、し、静流くん、やめて!分かった!やる!やるからっ!」
柚木の声に静流はピタリと動きを止め、柚木をみた。
「…っ、」
柚木は恐る恐ると静流のズボンに手をかける。
「柚木くん、する時はまずキスでしょ?」
「そんなにがっついて〜」とまるで茶化す様に静流は笑った。
「んで、キスしたら、俺にお伺いを立てて。」
「…」
カクカクと震えながら柚木は立ち上がり、背伸びをして静流の頬にキスをした。
「ふっ、柚木くん、キスといえば唇にでしょー」
「っ」
静流は含み笑いで自分の唇を指す。
(あぁ…)
最初は天使みたいに見えたその笑顔だったけど、今は悪魔みたいだ。
きっとこれからも自分は色々なものを静流に奪われるのだろう。
「静流くん、静流くんにとって、俺って何?」
「んー?」
肩に手を置き、一見すると恋人のように柚木は尋ねた。
静流は上機嫌だ。
「それかー、この前聞かれてから考えていたんだ。」
「うん。」
「こんな軽い言葉で表現したくもないけど…近い言葉で言うと、好きな人とか恋人?かな。」
「……それは、全然、軽い言葉じゃないよ…」
静流と自分では、決定的に何かが噛み合っていない。
「そう?それより、今度からはさっきみたいに『しずくん』ってよんで?」
会話も、噛み合わない。
しろと言った割に自分からしてくる静流のキスを受けながら、柚木は目を閉じた。
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