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夕食後、玄関から直通のラウンジにて自分の時間に没頭する同級生の光景が広がる巌戸台分寮
口元に運んだ紅茶を一口含みながら、星雫は同級生という括りから不在の青年を一人思う。時刻は既に19時を回ろうとしており、進む秒針によって不安が口からこぼれるのを後押しされてしまった
「有里くん、遅いですね…」
「あー、大会前って事で練習時間が伸びてるらしいよ」
「アイツ、期待のルーキーとして注目されてっからなぁ」
「す、凄いですね?!」
「剣道部の奴らはそりゃもう凄い喜びようなわけよ、うちに凄いのきたー!って!」
湊といえば、今年の春に月光館学園へ編入してきたばかり。つまり剣道部に所属してまだまだ日も浅い筈、それなのに既に大会に出る事が決まっている事実に、星雫は彼の才能に目を丸くするばかりだ
剣道部以外の運動部に所属する生徒達は、湊の活躍を聞く度にもっと熱心に勧誘しておけば良かったと後悔の日々を送っている──というのは順平談
逃した魚は大きかったと何故か当の本人よりも順平が誇らし気なもので、女子三人からは思い思いの反応が滲む
「星雫ちゃんは有里くんの部活とか覗きにいったことはないの?」
「言われてみればない、ですね……」
「そっか。星雫は合唱部と生徒会の掛け持ちしてるし、中々忙しいよね」
「行ったら喜びそうな気がするけどな、アイツ
意外と単純だし、星雫っちが見に来てるから張り切るぞー!ってなったりして!」
「張り切る有里くん、私には想像が出来ないのですが……」
「え、タルタロス探索の時、いつも───」
「風花、しっ!」
──実は気になりはしていたのだ、放課後になると聞こえてくる竹刀から発せられるであろう乾いた音、それに伴う迫力のありかを
心のどこかしらでいつも意識を向けながらも部活や生徒会の忙しさを理由に足を運ぶ理由を自分から取り上げていた。けれど今日こそはと星雫は仲間から話を聞かされたのもあり、体育館へと足を向けるのであった
「─────、」
壇上にほど近い位置で今、まさに打ち合う二人。顔は見えず、名前も絶妙な位置で判断する事は出来ない。だと言うのにその人が湊だと攻撃に移行する動作全てが星雫を確信の域へ近付けさせてくれた
見間違える筈がない。毎夜隠された時間を共に行動する彼の攻撃のクセ、体の動かし方一つ一つを頭に叩き込んでいるからこその確固たる自信、断言であった
「えーっと枢さん、って君かな?」
「…?はい、私が枢ですが…何かご用でしょうか?」
「お、すぐに見つかって良かった!
有里から伝言、”すぐに出てくるから待ってて”だって」
「え」
部活が終わり、ぞろぞろと体育館から出てくる部員達の邪魔にならないようにと星雫は出入口から少し離れ、言われた通りに湊を待つ
まさか見学に来ていたと気付かれていたなんて、もしや自分の為に友達との帰宅を断らせてしまったのではないか──心に浮かぶのは自分を責める言葉ばかり
見学に来ていた自分に気付いてくれていた、なんてひそかな喜びが染み出る想いは何とも浅薄で、何よりも不純すぎて、見過ごす事なんて到底許す訳にはいかなかったのだ
「おまたせ、枢さん」
「有里くん!部活、遅くまでお疲れ様です」
「すぐに出てくるつもりだったんだけど、ちょっと捕まっちゃって」
「いえ、おかげで飲み物を買いに行く時間が出来たので!良ければどうぞ」
「気を使ってもらわなくていいのに…」
だけど助かった、とすぐ近くに設置された自販機で購入したばかりのスポーツ飲料水を湊に受け取ってもらい、星雫はほっと一息をつく
隣を歩く湊から漂ってくる制汗剤の匂いは女子用とはまた違った香りで、影時間の中とはまた違った様子の校内を一緒に歩く行為と合わせ、新鮮味を味合わせてくれる
「枢さん、今日は部活とか休みだったんだ?」
「たまには休みも必要という事で、急遽お休みになっちゃって
生徒会にも顔は出したのですが、こちらも早めに終わったので噂に聞く期待のルーキーさんがやってきた剣道部の見学に来てみたんです」
「その言い方、恥ずかしいから止めて…」
「私、剣道に関しては初心者なのですが、有里くんの踏み込みの力強さや振り下ろす所作、とても綺麗でつい見惚れてしまいました
踏み込まれてからの忍耐力やそこから逆転した時の姿なんて、すっごくカッコ良かったです!」
思わず浮かべた握りこぶし、そこに加わる力が星雫の中で滾る熱意を浮き彫りにしていた。言葉にも加わる熱意は力説の見本になる程に素晴らしいものだ
何かしらに打ち込む姿を評価されるのは嬉しいものに違いない、だがここで留意すべきは星雫が湊の意中の人物であるということ
彼女が見学に来てくれただけで柄にもなく張り切る程に嬉しかったというのに、「カッコいい」とまで評されれば──いかに湊といえど、ポーカーフェイスの維持に限界を迎えてしまうのだ
「あ、有里くん…?え、えっと私、何か間違った事を言ってしまいましたか…?!」
「ごめん、まさか枢さんにカッコいいとか言われるとは思っても見なくて、」
「えっと迷惑、でした…?」
「僕としては嬉しいくらいなんだけど…ごめん、今、君に見せられないくらいに顔がにやけちゃってる」
労いの為にわざわざ買ってきてくれたスポーツ飲料水のペットボトルで、にやけた表情を隠す。昇降口を出た先の暗がりの中にあるものの、万が一を考えての保険をかけたわけだ
ペットボトルの中でちゃぷん、と音を立てて揺れる中身が保有する冷たさが、星雫の言葉で浮かされた熱に何とも心地よく感じた。
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