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どうしてこんな事になってしまったのだろう、と仲間が倒れ込んだ場に取り残された星雫は過去へ思い馳せる
武器を強く握り込んでいるせいで血流が悪くなっているのだろう、冷えた指先から感覚がなくなっていった。緊張から発せられる汗の流れが星雫の不安をなぞっていく、肌が粟立つのを抑えられない
「…どう、して……?」
支給された通信機から焦りを滲ませた声が聞こえる、怖いくらいの静寂を保つ”彼”から逃げろと必死に星雫の脳を警報のように揺らす
──空気が震えた、視界の隅で動いた銀色が体の中心を狙っていた
死を想起した体が思考を放棄し、回避行動に移った事で何とか難を逃れるも、代わりに通信機という犠牲を払わざるを得ず。即ちそれは連絡手段が絶たれたという暗喩
静寂は均等であるべきと言わんばかりの踏み込みは星雫が回避するのを見越しての行動だったのだろうか
少女の秘めたる瞬発力を最初に見出し、認めてくれたのは他ならない”彼”自身だ。そう考えていたとしても不思議ではなかった
「折角、邪魔がいなくなったんだからよそ見なんてするなよ」
「有里くん…っ!」
「枢さんと一緒にいたいのに他の連中が間に入って邪魔ばかりしてくる、本当にイライラさせられたよ
どうすれば二人っきりになれるんだろうって思ってたけど……最初からこうしておけば良かったんだね」
「……そんな事の為に皆さんをこんな目に合わせたのですか?」
「枢さんを好きになったから、抑えられなかった」
何とも身勝手で、巻き込まれた被害者にしてもたまったものではない言い分を湊はあっけらかんと口にした。タルタロスに設置された窓から差し込む月光が、彼の狂気じみた本音を劇場的に演出していた
モノクロ状に設置されたタイルを歩く硬い音を前に気遅れしそうになる心を奮起させ、星雫は得物を彼へと定めた
この得物も元を辿れば湊が自分にと見繕ってくれたものだ、それを彼に向けさせるこの状況下が憎くて仕方がない。悪夢であってほしいと願わずにはいられない
「君の全部が欲しい、他はいらない、いても僕達の邪魔になるだけ。そうだろう?」
「───妄言が過ぎるな!」
「っ……?!」
他言も反論でさえも許さない攻撃は、正しく女王の一撃と呼ばれるに相応しい
邪魔者と称した仲間を排除した事で満足した湊の慢心が星雫以外の全てをシャットダウンした隙、そこを狙った美鶴の強襲作戦は湊の気絶で成功を収めた
破壊される寸前、通信機から星雫にだけ開かれた回線において発案された作戦の鍵役を背負い、尚且つ湊との敵対でひりついたままの体は今ここに緊張から解放され、足元へ力なく崩れ落ちることを許されるのであった
「大事ないか、枢
君が彼の注意を引きつけてくれていたおかげで上手くいった、感謝する」
「お、思いっきり後頭部に桐条先輩の攻撃を頂いていましたが、有里くんは大丈夫でしょうか…?!」
「少し後遺症が残ったとしても問題はないだろう
全く…シャドウの攻撃によって、こんな状態に彼がなるとは思いもしなかった」
「私も…というか有里くん自身も思ってもいなかったかと……」
「他の者達の回復が確認でき次第、下へと戻ろう。君も疲れただろう?」
そう、今までの造反は湊の本心ではなくシャドウの攻撃を受け、精神に混乱を与えられた事をトリガーとする
何とかリーダーを正気に戻そうと体を張った者達をもバッタバッタとなぎ倒す姿は一騎当千の武将、明けの明星。振るう刃は絶対零度の無慈悲
湊と相対した者は更に体を鍛える事への熱意を滾らせ、またある者は敵に回したくないと声を萎ませた──敵に回すと恐ろしい事この上ないという認識が、特別課外活動部の面々の心へ強く刻まれた記念すべき日である
「枢さん、本当に、謝っても足りないくらいに迷惑をかけてごめん……」
―とてつもない精神的ダメージを受けていらっしゃる…!
「だ、大丈夫ですよ、有里くん。皆さんも無事だったんですし、あまり気にしないでください!」
「だけど、」
「シャドウのせいで混乱しただけっていうのも分かっていますので…!」
「…ありがとう、枢さん」
反対にこちらが気に病んでしまう程の憔悴加減はどうやら星雫の言葉で少しは緩和されたらしく、微かな笑みで湊は彼女へ応えた
決して大輪とは言えない笑顔ではあるものの繊細とさえ感じられる笑顔は、柔らかな月光のように青年の線の細さを浮き彫りにするよう
仲間をバッタバタとなぎ倒した後に向けられた笑顔という名のトラウマが、少しずつ星雫の中で癒されていく。そう、あれは自分にとっても、湊にとっても悪い夢だったのだと過去へと風化していく
「日頃は隠していた本心を事故とはいえ、見られる事になって恥ずかしくてどうにかなっちゃいそうだったけど、おかげでスッキリしたよ」
「…………日頃は、隠していた?ん、んん?」
「顔色が悪いけど、大丈夫?」
引っ掛かりを覚えた、疑問符が増えた────やがて星雫は湊の言葉を理解することを辞めた
これは湊の心の深い部分に触れる行為だ、他人に触れてほしくないテリトリーに違いない、だからこそ日頃、彼はその部分を隠しているのだ
決して理解するのを恐怖した訳ではないという言い訳を、星雫は強く心の中で唱えた。
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