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「──有里くんに折り入って、お願いしたいことがあるんです」
いつになく神妙な面持ち、拭いきれない緊張感が張り付く青色の瞳が湊に視線を逸らす事を許してはくれない
次に彼女の口から飛び出すであろう言葉を待つ間が何とももどかしい。星雫に釘付けとなる余り、自分の喉が起こす上下運動にすら気付かない程に切迫した時間──が昨夜の話である
「──何て君が言うから、気合をいれてきたんだけど…
枢さんから僕への"お願い事"ってこれ? 間違いない?」
「そうです、この──
────ジャックフロスト人形さんの攻略を手伝ってほしいんです!」
「……ちなみに聞きたいんだけど、何で僕を指名してくれたの?」
「実は数日前、近くを通りがかった伊織くんにも同じようにお手伝いをお願いしたのですが…
自分よりも有里くんに頼む方がいいと思う、と念押しされまして」
現在 時刻は休日の正午を回り、二人の所在地はポロニアンモール内のゲームセンターへと置かれている
クレーンゲームの筐体の中からこちらを見つめる、湊には見知った形のマスコットのぬいぐるみ。星雫の言う所のジャックフロスト人形と彼女が出会ったのは数日前にまで遡る
目が合った瞬間から連れて帰りたいという意思に駆られ、放課後をこの場所で費やしてきたものの、不慣れ故に取れる気配が見込めない。そうこうしている内に所持金も心許なくなってきた。自分で取る事を泣く泣く諦めた彼女は、こうして藁にも縋る思いで泣きついた──という内容がモールまでの道中、湊が聞かされた顛末である
あんなにも神妙な面持ちでお願いを持ち掛けて来た癖、肝心のお願い事はぬいぐるみのゲットときた
深刻な悩み事、もしくは危険に星雫が晒されている訳ではないと安心したと同時、いつもと異なるタイプの脱力感に見舞われながらも、湊は筐体へと早速小銭を投入した
「あ、あああの、勿論かかったお代金は払いますので…!
今日中に取ってほしいなんて我儘も言いません、何日でも、何週間でも待ちますから──」
「はい、取れたよ」
「……ン??」
まるで目の前で何が起こったのか分からないと呆けた星雫の様子ですら、可愛いと思うのだから、湊も相当に深刻な恋の病とやらに侵されているらしい
自分がつぎ込んできた一週間という時間、そして財布に招いてしまった寒風とは一体何だったのか。こんなにも簡単に取れるものなのか。なら自分は相当に腕が無さすぎやしないか?獲得口から拾い出された人形に様々な思いが交錯し、喜ばしい出来事を前に星雫は唇を開けずにいるようだ
「もう一体、取れそうな所にいる奴がいるけど取る?」
「い、いえ!一体だけで充分です…
こんなに早く、あっさりと確保してしまうなんて……やっぱり有里くんは凄いですね」
「たまたま運良く取れただけだよ
もしくはコイツも早く枢さんの所に行きたくて、僕に協力してくれたのかも」
「……欲しいとお願いしたのは私なのですが、本当に頂いてよろしいのでしょうか…?」
あまりにも簡単に湊がぬいぐるみを獲得してしまったせいか、その運の良さを表すぬいぐるみを貰う資格が自分にあるのかと星雫は変に委縮してしまっているようだ
さてどう行動すれば、星雫にこのぬいぐるみを受け取ってもらえるだろうか、と暫し湊はぬいぐるみと睨めっこに興じる。他人から与えられる優しさにすら躊躇う彼女が手に取りやすくなる方法──
「『君が拾ってくれないとオイラ、路頭に迷っちゃうホー』」
「……っ?!」
「…って言ってるみたい
枢さんが良ければ、拾ってやってくれる?」
「……も、勿論です!責任を持って、お世話しますっ!」
ぬいぐるみの声当て、そのキャラになりきるにしろ、どちらを取っても恥ずかしさは拭い切れない。見知った同級生に見られた日には数日間は弄り倒される事間違いなしなこの方法
だが羞恥心を犠牲にしてもこの方法を選んで良かったのだと、恐る恐る受け取ったぬいぐるみを抱きしめ、意中の相手からの笑顔を引っ張り出せた結果を前に、湊も心地いい充足感を得るのであった。
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