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「…有里くん。最近、イヤホンをつける日が減りましたか?」
「……そんなに分かりやすい?」
「最初に会った頃から、ずっとつけられていたので…」
割と分かりやすい変化ではないか、と困ったように眉尻を下げて笑う星雫に湊はなるほど、と一つ首肯を落とす
放課後、こうして共に帰る機会が何かと多い彼女とは湊が月光館学園に来てからの付き合いである。星雫と初対面の挨拶を交わした時にもつけていたアイデンティティ──もしくはトレードマークが見当たらないとなると嫌が応にも彼女の関心を引くのにも納得でしかなかった
「もしかして戦闘で壊れちゃった、とかですか?」
駅前に溢れた、二人と同じような帰りがけの生徒達へ漏れ聞こえぬようにと用心したのだろう
湊の方に少しだけ体を寄せた星雫から注がれた疑問は、彼にだけ聞こえるようにとボリュームを落としたせいでこそばゆさを取って払えない。心地の良い声に間違いはないものの、思春期の青年には些か刺激が強すぎる為に、湊のポーカーフェイスは崩壊一歩手前にまで追い込まれる
「イヤホンをつけてた時に順平や岳羽の話を聞き逃す事が何回かあって、外せってとうとう怒られたんだ」
「あ、ああ、なるほど…」
「慣れてない所はあるけど、僕が話を聞いてるのが分かるとあの二人も嬉しそうにしてるから
だから枢さんが心配するような衝突とかは起こってない、安心して」
「……岳羽さん達の気持ち、ちょっとだけ分かる気がします」
「え?」
──そういえば、何故 そんなにも簡単にイヤホンを外す選択を受け入れたのだろうか
『大切なもの』という認識に何ら変わりはない。今も耳にかけてはいないとはいえ、制服であるジャケットのポケットにいれて肌身離さずの状態を維持しているのが何よりの証拠だ
湊が心に形成する己の世界と外界を繋ぐ鍵、その役目を担っていたイヤホンを彼が外すとは、他者へ心を開け放つ行為に他ならない。何を以てそれを良しとしたのか、星雫との会話の中でその理由が見つかりそうな気がして、湊は彼女の言葉の続きを待った
「実は最初の頃、有里くんと接する時に壁を感じていたんです
でも今はイヤホンを外して、耳を傾けてくれるようになって…少しは心を許してもらえたのかなって考えると嬉しくなるんです」
「…………」
「初めは中々声が届かなくて、でも諦められなくて気付いてほしくて
最終手段として肩を突きにいっていたのも、今では懐かしい思い出ですね」
「あの時の枢さん、小動物と間違えるくらいに震えてたから 周りからの目が痛かったっけ」
「その節は本当にすみませんでした…」
躊躇いが滲む呼びかけに振り向いた先で、安堵と嬉しさが交じった感情が溢れた拍子に緊張が綻ぶ姿を見た
一生懸命に言葉を選び、尽くしながら会話を続けようとする懸命な横顔。「有里くん」と自分を呼ぶ心地のいい、友愛に満ちたソプラノをいつからか一つも取りこぼしたくないと願うようになった──そう抱いた想いが湊の心を開く、いわばマスターキーとなっていた
────他者であれば、誰でもいい訳ではなく、初めは星雫がいいと選んだ
枢 星雫という他人と理解し合いたくて、心の扉を開くように湊はイヤホンを自らの意志で下ろしたのだ。
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