SS-p3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
授業の合間、教壇の方へと湊は視線を上向かせた
先程、確認した時より動いた形跡を感じられない時計の秒針。自分の知らない所でそれは仕事をしている筈なのに、あまりにも進展が見られない円盤にため息も零れ落ちるというもの
果たして本当に秒針が示すようにしか時は進んでいないのか、それとも実はあの時計は壊れていて、実際の時間経過とズレが生じているのではないか──疑心というよりもそれは八つ当たりに近い感情だった
「湊、お前なぁ……」
「……順平」
「ん?」
平日の午前中、既に通勤ラッシュが終わった後の道路とはとても静かなものである
がさりと薬局で貰ったばかりのビニール袋の中で、薬袋の立てる音がいつも以上の長さで星雫の脳内に残響する。仲間のいない寮が静かすぎるのも原因の一つだろう
「……枢さん?」
「………え?有里、くん?」
今はまだ学校にいてここにはいる筈のない声に、今まで言う事を聞かずにソファへ埋まっていた事が嘘だったように星雫の体が飛び上がった
少し乱れた髪と制服、あがった肩を整えると彼は迷いなく星雫の元へ歩みを進める。風邪が移ってしまうからと接近を回避する為に星雫が壁を立てる暇もない、あっという間の出来事であった
「枢さんのことが心配で何だかんだで理由つけて、早退してきた」
「え?!」
「病院、大丈夫だった?」
「あ、大丈夫でしたよ。病院でもそう言われましたし…
安心したおかげで元気が湧いてきちゃって、歩いて帰ってきちゃいました」
「……え、それ、本当?」
それよりも心配して早退までしてくるなんて、と告げかけた言葉は次に湊が起こした行動で喉を通って下がっていってしまった
──距離なんて言葉は今の彼らには不要なものだった。発熱する自分と帰ってきたばかりの湊の低い温度が額越しに伝わる
普段は前髪の向こうへ隠された彼の灰色の瞳に吸い込まれる感覚、不思議な浮遊感の中を星雫は漂っていた
熱が上がってきているのだろうか、先程、湊が帰ってきた事を上手く理解へ繋げられなかったように星雫は自分の身に起こった出来事の把握までに時間を有してしまった
「まだ全然熱い。熱が高すぎて、感覚がマヒしてるんだよ」
「そんな、ことは……」
「すぐに枢さんは自分の事を後回しにするから、心配になる
昨日、体調が悪いって分かった時も満月の後で良かったなんて言うし」
「だって本当の事でしょう…?」
心臓がとんでもなくうるさい、体内で熱を発する爆発が起こったとするなら爆心地は心臓に違いない
ぎしり、と鳴ったスプリング音が体の軋みかと思えば、背もたれに湊が手をついた拍子にあがったソファの悲鳴だと知る。彼は星雫がやっとの想いで反らした視線を奪い返しに来たのだ
「……僕、君に頼ってもらえる時を待ってるんだけどな」
「っ……」
「なんて、ね」
穏やかな感情の中にひとつまみの悪戯心を交えた微笑を向けられれば、限界なんてあっという間
ソファの背もたれに尋常ではない赤色を浮かびあがらせ、沈み込む星雫に今度は湊が慌てるターンが、回ってきた。
3/30ページ