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僅かに冬の残滓を含んだ風が、陽光に温められた体の熱を奪っていく
厳しい季節を耐え続けた命が一斉に顔を出す。その例に漏れず、咲き誇る桜雲の隙間から何かが見えた
ベンチに腰掛ける自分に似た人影
──その人影はベンチに横たわる誰かへ膝枕をしているようだ
きらりと光に反射する雫が一つ、二つとまた数を増やしていく
穏やかな談笑をしていただけ、涙を浮かべる理由なんて見当たらないように見えた。それなのに自分に似た彼女は泣いている
『私が見守っていますから』
『時間が、皆さんが来たら起こします』
『──私に任せて、ください』
だめ、と血の気がすっかり失せた心は悲鳴をあげる
やめて、と叫ぶ声も自分のいる場所からでは彼らに届きはしない
世界が閉じゆく気配に溜まらず駆け出した。”私”はあと何度、この春を繰り返せば、
「……っ?!」
弾かれるようにして、星雫は目を覚ました
呼吸が定まらない、何かを求めるように天井へ伸ばされた腕が力なく落下する。悪い夢を、見ていた気がする
「…枢さん?」
「、ぁ」
「あまり眠れなかった?まだ顔色、悪いみたいだ」
「有里、くん…」
「額の乾いちゃってるね、新しいの持って来るから待ってて」
代えの冷却シートを用意しようと遠ざかる背中を前に、どうしようもない感情が胸の内で騒ぎ立てる
言葉よりも先、男性にしては細身な作りの腕をベッドから乗り出すようにして掴んでいた。視界が潤んでいるのは熱のせいか、はたまた悪夢が理由か。熱で浮かされた頭では判別がどうにも難しい
「…どうしたの?」
咄嗟に腕を引いた事を責める訳でもなく、その行動に至った理由を問いかける穏やかな声音
黙り込んでしまった星雫に言葉を促すように背中を撫でる手が、呼吸だけではなく落ち着きのない心をも凪いでくれるようだった
「怖い、夢を見て、」
「どんな夢?」
「内容はもう殆ど覚えて、ないんです
でも、ただの夢の筈なのに春の匂いや風の感触が、とてもリアルな夢…だったとしか……」
妙に現実味を孕んだ夢、その感想に尽きる。まるで現実、実際にあった出来事と錯覚してしまいそうな幻想
だからだろうか、目覚めた後の星雫は今も何かしらの喪失感を引きずっていた。自分の生命や存在と引き換えにしたとしても、後悔がない程に大切なものを永遠の中へと失う恐怖に心が凍てついてしまいそうだった
「枢さん」
元より朧気であった夢の輪郭が湊の腕の中へと解けていく
夢の残骸が殆ど消え失せた中、”それ”だけは消える事なく存在し続けていて──この痛みを「忘れるな」とでも言いたげな喪失感が、少女の胸の内で燻り続けていた。
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