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探索中、小休止に入ったきっかけはメンバーの状態を重く見た枢さんからの申し出だった
いつもは発言を控えている彼女からの提案は誰から見ても珍しく、故に鶴の一声となって満場一致で休憩が採用されたのだ
「小さな傷でもバカには出来ないんですよ?
ばい菌が入って、炎症でもしたら大変ですし…傷の積み重ねが死を招くことだってあるんですから」
「……死ぬって、そんなに怖いこと?」
「え?」
「今の枢さんの口ぶりだと、そう思ってるのかなって」
同じ質問を順平にした時は何をバカなことを、と怒られたと記憶している
自分でも把握していない内に積み重なった小さな傷に魔法をかける枢さんはというと僕の問いかけに対し、大きな瞳を丸々と見開き、黙り込んでしまった。その表情は怒っているというワケでもなく、ただただ答えに決めあぐねているかのような顔だった
結局、答えを持ち合わせていない彼女は代わりに暫く待ってほしい、と僕に保留を申し出た
……突拍子のない、生死を軽んじていると軽蔑されても可笑しくない質問に対し、何とも律儀で真面目なものである。その日から枢さんを目で追いかけるようになった気がする
「夕飯遅かったんだね」
「はい、少し部活が長引いてしまって…
たくさん淹れたので、有里くんも紅茶飲まれませんか?」
「……ありがとう」
一緒にいる時間が増えた、枢さんの事を前よりもっと知る機会も合わせて増えていった
自分に優しく出来ない分、他人を気遣う事で補おうとする危うい優しさを知った。他人に頼られたら断れない愚直さが細い体以上に彼女を脆く映すようになった
少しでも彼女が感じる負担が減るようにと代わりに言葉を介すようになっていった為に、枢さんが僕の隣を占める割合も自然と増えていって──居心地がいいと感じるようになるまで、随分と早かった気がする
「有里くん、もしかしてその本……」
「本屋に行ったら、目立つ所にあったから買ってきたんだ」
「それ、実は私が追っているシリーズものなんです
あなたの目にも止まって、何だかとても嬉しいです!」
「……読み終わったら貸そうか?」
「え、いいんですか…?!」
「その代わり、今度の君の休日を僕にちょうだい」
タルタロスにおいても彼女を編成にいれない日はない、という頻度で常に一緒の時間をキープするようになった
最初の頃こそ体調を考慮して、編成に組まない日もあったくらいなのに今では体の弱い彼女に苦を強いてしまっている。「自分の力が必要なら」という笑顔に甘えてしまっているのを自分でも理解している癖、それを止められない自分が不思議で仕方がない
そんな僕の方を見て、順平と岳羽がにやにやと笑っているのが何となく癪に触って、回復縛りなんてした夜もあったっけ
「──星雫。君という人間が頼みに対し、断り辛い性格だというのは承知している
君が気にしていないのならと目をつぶってきたが、最近の有里の遠慮のなさは目に余る」
自分の可愛がっている後輩が無理を強いられていると僕に対し、桐条先輩が厳しい視線を向けていることにも気付いていたから作戦室でのこの会話にも驚きはしなかった
どちらかと言えば、僕の感心を引いたのは自分の尊敬する人からの気遣いに枢さんがどんな返答をするかの一点だけだった。感心を引いて止まない彼女は先輩の言葉に少し考え込んでいるようだ
「……えっと、発言をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、君の意見も聞かせてほしい」
「シャドウとの戦闘において、リーダーは状況に応じて適切な判断をしてくれています
今日まで私や桐条先輩、他の皆が命を失わずに済んでいるのも彼の判断あってのもの。先輩も理解していると思われます」
「……そうだな」
「──彼の判断で命を守ってもらっている
私はそう認識しているので、有里くんのお願いも可能な範囲で聞き入れたいと思っています。……あ、自分を安売りしてるとかそういう訳ではなくてですね…?!」
「ふ、言われなくてもそこは分かっているさ
それに君が自分を安売りしていたら、私も強硬手段に出ようと思っていた。そうしなくて済むと知れて満足だ」
……先輩の話す強硬手段とは一体、何なのかはさておき
枢さんは純粋に特別課外活動部のリーダーへの恩返しのつもりで、僕の無茶な編成に応えてくれているらしい。自分の力が必要なら──僕に告げた言葉は嘘偽りない、彼女の本心だったのだ
「有里くん、おはようございます。いいお天気ですね」
「おはよう、枢さん。……良く眠れた?」
「バッチリです、お気遣いありがとうございます
……今って少しお時間よろしいですか?予定があるなら、後日でも構わないのですが」
「これからどうしようか考えてたくらいには暇だから、大丈夫」
「以前、保留にしていた”こたえ”が出たので聞いてほしいんです」
桐条先輩と枢さんの話を盗み聞きしてから数日
彼女に対し、「死ぬのは怖いことか」と聞いてから数週間後の休日、その昼下がりに枢さんはついにあの夜の”こたえ”を得たのだと言う。神妙な面持ちで隣に座る彼女がまとう雰囲気に当てられたように、僕も姿勢を改めた
「死ぬという事は生きてる間に接してきた人達との絆や思い出を手放すことで、親しくしてくれた人達へ痛みを遺すこと
……私の場合はそれをなくしたくないから、命に執着する。死にたくない、死ぬのは怖いって思ったんです」
「……枢さんらしい”こたえ”だね」
「今、こうして有里くんと話している内容も時間も全部、かけがえのない思い出です。……なくしたく、ありません」
────他の皆が出払った寮のロビーで、枢さん自身の言葉を受けて僕はこたえを得た
隣にいてほしい、一緒にいたい、彼女を必要とし続けていた”こたえ”
突拍子のない問いかけにも、時間をかけて向き合う真摯なところ
僕と過ごす時間もかけがえのないものだと、目を反らさずに告げてくれる真実を共有出来る絆
ずっと昔になくした母親を思い起こす包容力と安心感、全てを彼女に受け止めてほしいという願い。母親に抱きはしない黒い感情も何もかも、君だから──
「枢さん」
僕は君の事が好きなんだ。
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