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明るい陽射しの中、ビーチではしゃぐ人達の姿と水しぶきがキラキラと輝いている
最近の寮内に充満していた歪んだ雰囲気、そして昨夜の出来事を塗り替えるかのような爽やかな光景に、砂浜に座る星雫も目を細めた。森林浴へ出かけて行った友人達も今頃、リフレッシュしているようにと祈りながら深呼吸する
「ひゃ…?!」
荷物番として海には入らず、ビーチパラソルの日陰で読書をしていた少女から上擦った悲鳴があがる
突如、夏の暑さと比例する冷たさが首筋をなぞったのである。一体何事かと振り向くと、順平にいずこかへ連れ去られた筈の湊と視線がかち合う。彼の両手に収まった見るからに冷たいペットボトルが、星雫を襲ったものの正体だろう
「ごめん、そんなに驚かせるとは思わなくて……」
「あ、いえ…!私の方こそ、大げさに驚いちゃってごめんなさい」
「その本ってこの前、僕にオススメしてくれたシリーズの続き?」
「旅行前に丁度、新しく発売されていたので買ってきちゃったんです
まだ最初の方しか読めていないのですが、凄く面白いので有里くんにも読んでほしいです」
「枢さんがそう言うなら、楽しみだな」
遅くなったけどと一言いれる彼から差し出された拍子、反射的にペットボトルを受け取る。先程、襲い掛かってきた冷たさを思い出しただけでは理由としては不十分な程、星雫の心臓は速いリズムを刻んでいた
飲料水を飲み干す湊の装いは他の仲間と同じく水着である。制服や私服は寮で見た事はあれど水着は初めてで、同性ならまだしも湊と自分は異性同士。肌面積の広さに目のやり場を決めあぐねている彼女は、否が応でも湊を意識してしまっていた
「っ……た、確か伊織くん達と一緒だったと思うのですが、一人で戻ってこられたんですか?」
「うん、順平がまたバカなことを言い出したから逃げて来た」
「と言いますと…?」
「ナンパ、バカバカしいでしょ?」
「あ、あはは……えっと、伊織くんらしいですね…」
確かに旅行の計画段階で順平が何やら浮足立っているのは知っていたが、あの時点でナンパ──つまり素敵な女性との出会いを夢見ていたということだろう。先程、見かけた時には湊だけでなく真田も順平に誘われていた筈だが、辺りにその姿は見当たらない
辛辣な言葉を向けられる順平が不憫で星雫からはたまらずフォローの言葉が飛び出してしまった、湊を欠いた布陣で今もナンパに挑んでいるのだろうか
「…ねえ、枢さん」
「はい、何でしょう?」
森林浴へ向かった女性陣がナンパ中の彼らに出会う事がありませんように、とっくの昔に過ぎ去った七夕に願うかのように心の中で指を組む星雫は思考に明け暮れ、呼びかけられるまで隣に座る人を放置してしまっていた
呼びかけられるがまま、視線を隣人へと向ける。そこで彼女はある疑念を抱く。元々隣同士で座ってはいたが、湊との距離はこんなに近かっただろうか、と────そしてその疑念は彼の行動によって確信へと変わる
「一緒に夏の思い出、作らない?」
「……これって私、有里くんにナンパされてる、って事ですか?」
「枢さんと二人っきりなんてチャンス、またとないからナンパしてます」
「ふ、ふふ…っ、どうしてあなたまで敬語になっちゃうんです?」
「意外と緊張してるんだけど、そう見えない?」
表紙を閉じ、膝に横たわらせていた本に添えられた手に絡む指先がとても熱い。それは夏の気温のせいか、はたまた星雫と湊のどちらかが体温を向上させてしまっている故か、何とも判断が難しい季節である
元々星雫の方は水着姿の湊を意識せざるを得ない状況下にあり、今の申し出でオーバーヒートを起こしても可笑しくない筈なのだが、どうも彼の敬語の方に注意がいってしまっているようだった。そんな彼女に痺れを切らし、返事を急かす視線はいつにも増して余裕がなく、緊張していると言うのも嘘ではない様子を晒していた
「皆さんの荷物もあるので遠くまでいけないですが、それでも良ければ…」
「君と一緒にいられるなら、どこでもいいから気にしないで」
──体が弱く、本の世界を旅してばかりの退屈な自分を選んでくれた
その事実だけでも十分だというのに、彼は夏の思い出まで共に作ろうと誘ってくれた。その瞬間にキラキラと輝く夏の日差しは祝福に、思い出は宝物に、星雫の中で形を変えたのだ。
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