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重苦しい空気の立ち込める寮から解放されたいと願っている内、気が付くと星雫はロクに現在時刻も確認せずに衝動の赴くまま、寮の外へ飛び出していた
外に長居をするつもりはないものの12月ともなり、我慢できる段階を超えている寒さを紛らわしたいとカイロを求め、コンビニへと向かう
購入したばかりのたった1袋のカイロの封を切り、中身をほぐすのに気がそれている間に──世界の色は反転していた
「……そんな時間、だったんですね」
影時間の到来を気にも留めなかったのかと己の注意力のなさに、思わずため息も漏れるというもの
自分の至らない部分に目を向ける形とはなったものの、胸に詰まった重苦しい雰囲気もため息と一緒に出ていったようで、少しだけ体が軽くなった気がしたのもまた事実だった
じんわりとカイロのおかげで手の中で温かさが広がるのを感じながら、星雫は帰路を辿る。もう少し散歩を続けるつもりだったが、武器はおろか召喚器も持っていない身では何かあっては対応できないと判断したからである
「…………」
──反転した世界を唯一照らす、月を背にゆっくりと歩く
「………………」
──────こんなにも寮への帰り道は長かっただろうか、と1つの疑問が浮かんだ
否、これは自分が寮へ戻る事に躊躇いを覚えているせいだろう。そして今も足を止め、今夜の月はどんな形をしているかと気になる素振りで悪足掻きを彼女は続けていた
「こんな時間に女の子の一人歩きは危ないよ、星雫さん」
「……綾時、くん?どうして──」
12月の頭、特別課外活動部の面々に選択の時間を与え、消えた少年がそこにはいた
大晦日の夜まで姿を現さない筈の彼の出現、何よりも呼びかけに目を丸くする星雫に対し、彼──望月綾時はバツの悪そうな様子を滲ませつつも微笑を忘れない
「すぐに帰るだろうと見守っていたら、君が月を見上げて立ち止まるから声をかけずにいられなくなっちゃった」
「何かあっても全力で走れば、何とかなるかな、と」
「驚いた、星雫さんって意外とアクティブだったんだね
でもダメだよ。君に何かあれば、僕も悲しいし……何より彼がとても傷付くだろうから」
送っていくとさも当然のように手を差し出されるものだから、星雫もそれに引っ張られる形で何の考えもなしに無遠慮に手を乗せてしまっていた
カイロのおかげで温まった手を心地よいと笑う顔も、綾時のトレードマークとして印象的な黄色に棚引くマフラーも何も変わらない
変わってしまったのは彼が己に課せられた使命を思い出し、今までのように友達でいられなくなった現実だけだ
「……ごめんね」
「え?」
「僕のせいで寮に居辛くさせてしまったんだよね」
「それ、は……」
そうだとも、違うともどちらとも言えず、星雫は口籠ってしまう
あの日 綾時は告げた。月から飛来する概念によって この星の生命は全て息絶えてしまう。最後の引き金を倒すのが自分なのだと悲し気に、けれど避けられない事実だと揺るぎない様子で断言した
決して彼の意志で自分達を滅亡させたい訳ではない、役目が綾時にそうさせるだけ。世界の存続を願うのであれば、この青年を殺さなければならない
──なんて、悪い夢なら質が悪すぎると星雫はまだ選択できる心境に辿り着けないでいた
「綾時くんも、湊くんには傷ついてほしくない、んですよね?」
「……そうだね、彼は僕にとって、とても大切なヒトだから出来れば傷付いてほしくない」
「それなのに、あんな選択を、湊くんへ迫るしかないのですか……」
悪足掻きをしてまで帰る事を躊躇っていた寮は、綾時の歩幅に合わせていたおかげで目前に迫っていた
今、繋いでいる手を離してしまえば、彼と会う事は二度と叶わない。漠然とした形による確信ではあったが、それが星雫に綾時との別れを引き留めさせている
湊に綾時を殺させたくない
そして逆に綾時にも湊を殺めてほしくない
どうしてお互いを大切で、失い難い友達と思い合う二人にこんな選択肢を世界は迫るのか。こうして涙を流す資格があるのも彼らの筈なのに──大きなやるせなさに呼吸が止まってしまいそうだった
「星雫さんは優しいね」
「優しく、なんて、ありません…
八つ当たりで、綾時くんに酷い事を言ってしまいました」
「…彼の中にずっといたから、君を思う心の深さを知っているんだ
同じくらいに星雫さんも彼の事を大切に思ってくれていて、嬉しいよ」
「綾時くん、」
「そして、その優しさを僕にも分けてくれてありがとう」
どうにか繋ぎ止めておこうとあんなにも星雫が固く繋ぎ止めていた手も、綾時は容易く解いてしまう
影時間の中へと彼の輪郭が溶けていく、呼び止める為に伸ばした指先から温かさを奪っていく風は少女の行為を嘲笑うかのようにとても冷たくて、寂しさを逆撫でていくようだった
「────もう少しだけ僕に時間が残されていたら、星雫さんとデートしたかったな」
夜の帳から聞こえる永遠の別れの代償にと、彼らの運命を憂いて流れた涙を深い影が吸い込んでいった。
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