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暗がりの中、湊は目を覚ました。どうやら大型シャドウの出現が確認された白河ホテル内の一室、で意識を失っていたようだ
湊の目が暗がりに慣れて来た頃を見計らったように立つ衣擦れの音が、整理のつかない現状の中へ更なる混乱を加えた
「……枢さん?」
何故、彼女──星雫が自分の隣で眠っているのか。しかも武装を全て解除し、本格的に寝入ってしまっている姿で
大型シャドウの討伐も済んでいない、決して安全ではないこの状況下で彼女がそんな選択を取る筈がない、星雫の状態が異常の中に自分達が放り込まれていると暗示していた
とにかく星雫を起こさない事には話も始まらない、気持ちよさそうに惰眠を貪っている所を起こすのは忍びないが状況──否、『この部屋』に二人っきりなのは色んな意味で、まずい
──汝、享楽せよ
眠り続ける星雫の肩を揺さぶろうとした手で、頭を押さえた
頭に直接囁きかけてくる為に防ぎようのない声は、湊に揺さぶりをかけながら更に言葉を続ける
──我、汝が心の声なり
──今を享楽せよ
───見えざるものは幻…形ある『今』だけが真実…
囁きかける声が大きくなるに比例し、更に自我の上から被さる霞が判断力を狂わせるよう
畳みかけるようにして、声とは異なる湊自身の本能も「このまま理性を手放してしまえ」と耳元から甘い誘惑を吹き込む
理性に抗うのは苦しいだろうという最もな言葉で「さっさと楽になれよ、この子が欲しいんだろう?」と恋心すら見透かした声音で傍に眠る少女を指さしている。それでも湊は本能にも、享楽に手招く声を拒絶した
──なぜに抗う…
──────真実から目を背けてはならない…
「……ん、」
規則正しく呼吸を繰り返す胸元で揺れるリボンの誘惑を前に
────ぶつり、と頭の最奥で太い太い忍耐が、とうとう大きな音を立てて切れた
シーツ上で美しい模様を描く長い髪の中へ、星雫の体に覆いかぶさる湊の影も紛れ込む。思考がはっきりとせず、どこまでも定まらず、星雫が起きる気配もない
こんなのどうぞ食べてください、と彼女自身が言っているようなものではないのか。苛立ちも加わった頭が、星雫への責任転換を始めている
そのまま──もう本能なのか、何かも分からない声に従って伸びた湊の指が、目下のリボンの結び目に触れた
そしてその指先でリボンを引き抜いた事で、湊の目に暴かれる白い────、
「──枢さん、起きて」
長い眠りの果てに横たわっていた所にかかる呼びかけを合図に、星雫は目を覚ます
眠っている間、夢の中で何かの声を聞いた気がするのだが、その内容も酷く曖昧になる程に眠ってしまっていたようだ
「!有里くん、口に血が…!」
「気にしないで、かすり傷だから」
「もしかして私が眠っている間に戦闘を…?」
「戦闘……ある意味では、そうかも」
どうにも煮え切らない形で戻ってきた言葉に、星雫は首を傾げた
あやふやなままにしておきたいという想いが見え隠れする受け答えにもそうだが、何よりも先程から湊が視線を合わせてくれない事に気がかりを覚えたのだ。どうにか視線を合わせようとしても意図して反らされてしまう
「……また精神攻撃を受けないとも限らないから
すぐに部屋を出て、皆と合流しよう。行ける?枢さん」
「はい、図らずもいっぱい寝たので頭痛も平気です!」
それは良かったという言葉の際にもまともに視線を通わせず、先に部屋を出てしまった湊に一抹の寂しさを覚えてしまう
敵の根城で眠ってしまうような失態を侵してしまい、呆れさせてしまったのだろうか。ならばこれ以上、湊の中での自分の信用を落とさない為にも早く彼の後に続かなければ──
「……え、これ…?」
駆け足で部屋を出かかった歩みを引き留めた鏡の中の自分、シャツの首元に付着する血痕が星雫の目を引いたのだ
ホテルに突入した時から今に至るまでどこかしらに怪我を負った覚えはない、自分ではないとすると一体、これは誰の血なのだろうか
───ふと星雫の脳裏において、唇の端を切った湊を指摘する光景が呼び覚まされた
自分が寝ている間も一緒にいたのであれば、これは彼の? だが何故、こんな場所に────?
どこまでも枝を伸ばし、果てない思考は一向に追いかけてこない星雫を心配する呼びかけによって切断された
そうだ、今は本来の目的である大型シャドウの討伐が優先されてしかるべきである。気を引き締める為にも、寝ている間に歪んでいたリボンを結び直し、廊下で待機している湊の合流を目指すのであった。
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