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「──枢さん、俺と付き合ってください!」
「……えぇっと何度も来ていただいて恐縮なのですが、ごめんなさい」
──この告白のやり取りが始まって、はや数週間が経とうとしている
たった今、告白を断られたばかりとは思えない程の明るい声量で「また来ます!」と言い残し、教室を出ていく背中とは逆の表情で星雫は自分の席へ着席した
最初こそ面白がって眺めていたクラスメイト達の目にもほぼ毎日やって来るあの男子生徒は異常と捉えられ、星雫を庇ってくれるようになる始末。傍目から見ていても辟易してしまう暴走っぷりなのだ
「ねえ、枢さんって有里と仲良かったよね?」
「え?はい、同じ寮のよしみで……」
「彼に頼んでさ、アイツに「自分の彼女に付きまとうな!」って言って貰うのはどうかな?」
「そ、それは……あまり巻き込みたくない、と言いますか…!」
「…………でもあのタイプってエスカレートしたらやばいと思うよ」
確かに最近では登下校時に昇降口、果ては階段の踊り場で待ち伏せされたりと明らかに行為がエスカレートしている。これは親切な同級生の忠告通り、手段を選んでいる場合ではないのかもしれない
────そう思っていたところ。部活を終えた放課後、後は帰宅の途につくだけの彼女の目の前に件の生徒が立ち塞がる。恐怖を感じるよりも先に覚えたうんざりとした気持ちが、星雫の体に伸し掛かるようであった
「枢さん!」
「あの、何度も言っているようにあなたとはお付き合い出来ないんです
こういうのはその、とても困ります。いえ、現在進行形でとても困っています!」
「それって他に付き合っている奴がいるから?!」
「……!そ、それ、は…………」
これは明らかに男子生徒の掘った墓穴、星雫にとっての活路に違いない
付き合っている人がいるとさえ 言ってしまえば、引き下がってくれそうな雰囲気。だがここで彼女自身の弱点が活路に飛び込む事を妨害する。星雫は究極的に嘘をつくという行為が苦手だった
下手に繋げた嘘に対し、追及が入った所から自分が墓穴を掘り返す可能性が大いに予測される為、下手にそうですとも断言できないまま、お互いに硬直状態が続く
「……なんだ、その様子だと彼氏とかいないんだ。じゃあ尚更、俺と──」
「”俺と”、なに?」
聞き間違う筈がない、この声は湊のものだと反射的に体ごと彼の方へ視線を方向転換する
いつもの調子でポケットに手を突っ込んだスタイルの湊だが、その顔には彼にしては珍しい苛立ちや侮蔑の表情が色濃く滲んでいた
長い前髪でもう片方の瞳を隠していても十分な冷たさを放つ眼光、気のせいでなければ殺気さえも感じられる姿にたじろぐ男子生徒は湊の眼中にはなく、彼の瞳には星雫だけが全てだった
「いつもみたいに部室で待ってくれていて良かったのに」
「い、いえ、それは、その……」
「……また迎えに来てもらうのは申し訳ないからって思った?
気にしないでいいんだよ、僕がそうしたいだけなんだから」
「っ……有里!まさか、まさか、お前が…?!」
二人の世界に入り込めずに佇むばかりの男子生徒の顔色が見る見る内に青ざめていく
最早、制裁には十分だと思われたその時、湊は男子生徒に見せつけるようにして星雫の肩を自分の胸板深くまで引き込んでしまったのだ。自分達以外には無人の通路で息を詰まらせた音は、果たして誰のものか
「……合わせて」
彼の右目を常に隠す長い前髪の奧で、耳元に注がれた言葉に意図を察する
既に目の前の男子生徒は魂が抜けたように抜け殻となっている。死体に鞭を打つような行為だと躊躇いつつも星雫は湊に促されるまま、ほんの僅か彼の上着を握り込み、更に距離を詰めてみせた
「”そういう事”だから。……行こう、枢さん」
肩から滑り落ちて来た手に引っ張られるまま、星雫は湊と共に放課後の校舎を後にした
過剰なまでのオーバーキルを思い起こすと同時、以前 特別課外活動部の仲間がこぼした言葉が脳内で再生される。湊は敵に容赦がないという言葉の意味をまさかここに理解するなんて思いも寄らない事であった
あれだけのものを見せつけられた以上、男子生徒は最早星雫への恋慕を忘れ去りたい思い出へと形を変えてしまっているだろう。安心感──よりも今は湊を巻き込んでしまった申し訳なさの方が彼女の中で勝っていた
「巻き込んじゃってごめんなさい、有里くん
あの人を退ける為に恋人のフリまで……噂とかになったらどうしましょう……」
「……アイツの噂を聞いていた感じだとあれくらいしないとダメだろうなって思ったから、気にしないで」
「付き合えないとお断りしても、逆に燃えてしまったとか何とか……
私以上に素敵な人は他にもいるのですから、私にこだわらなくてもいいのにですね」
あんなに自分へ入れ込んでいた事がいつしか男子生徒の中で笑い話になればいいのだけれど、と星雫は苦笑を浮かべる
彼の想いに応えるのは自分ではなかっただけで、あれだけ好きな人に一途な性格なのだ。この先、恋人になる人ときっとお互いに幸せを築いていけるだろう
「初めてさっきの奴に同情したかも」
「同情、ですか?」
「君以外の人はありえないって所にだけは同感だったから」
「……え?」
「僕らが付き合ってるって誤解が広まったら、枢さんは嫌?」
「それ、は……有里くんが困るだろうなって──」
「寧ろ歓迎するつもりだったよ」
放課後を彩る夕焼けに焼かれたように、思考が熱を帯びる
誤解が広まってしまえばいいと笑う言葉の意味を理解出来ないなんて嘘をつけない、言葉に詰まる星雫に湊は楽しみだね、と笑った。
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