SS-p3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なあ湊、お前の親友としていうけど……お前、そろそろやばいぞ」
「……何が?」
至極神妙な顔を浮かべる順平の言葉に、彼の背後で話を聞いていたゆかりと風花といったおなじみ二年女子メンバーが同じような表情で同意だと首を縦に頷かせている
そんな表情を付け加えて言われたものに心当たりがない湊は小首を傾げるばかり。ずいと顔を寄せてくる順平に近い、と怪訝な感情を隠す気もなく、眉間に刻まれた皺が湊の精悍な顔つきに変化を及ぼした
「星雫っちの事だよ!
お前は気付いてないみたいだけど星雫っち、相当悩んでるぞ!」
「……なに、どういうこと?え?」
「有里くん、星雫ちゃんだけは『枢さん』って名字にさん付けだよね?」
「名前呼びで彼女に怪訝な顔をされたらって思うと無理、怖すぎて無理。まだその時じゃない」
「私達はそんな感じでキミから名字呼びな理由を聞いているけど、星雫は違うワケじゃん?」
―私、有里くんに距離を置かれたがっているのでしょうか
え、何で?ですか?私だけ二年生の中だと名字にさん付けなのでそういうことなのでは…?
───絶句。まさにその一言に尽きる。それは確かに順平達が助け船を出さざるを得ないなと変な納得だけが湊の中に根を張る
寧ろ見て分かりやすい程に星雫を贔屓していたつもりだが 当の本人には伝わらず、逆に嫌われていると来た。嘘でしょ、枢さんと力なく胸中で一人ごちるのも無理はない
黙り込んでしまった自分の胸中を知らず、やいのやいのと外野は何かと騒がしい。誤解を解くしかお前に明日はない、即行動に出ろ、今夜が山だ
全く仰る通りの正論、だがこの状況を面白がっているな?と鋭い視線でけん制を施しておくのを彼は忘れない
すぐ様に誤解を解こうとする湊の動き出しは完璧であった、けれど神様とは何とも意地悪というか障害を築きたがる性質のようで
生徒会や合唱部の兼ね合いで元々星雫は忙しい身の上。彼女を捕まえる難易度というものは一気に跳ねあがる。ではタルタロスで──階層に巣食うシャドウのせいで、話す事もままなりはしない
早く誤解を解きたいという思惑に反し、高く立ち塞がる壁を前に湊の機嫌は急降下。最近の彼の日課と言えば、影時間に現れるシャドウをサンドバックに憂さ晴らし
下手に口を滑らせれば、味方であろうが関係なしに牙を向きかねない湊と一緒に行動したくないと上がる声に、美鶴が静かに頭を抱えていたのは寮の隠しカメラによる情報である
あれから星雫とロクに話が出来ないままの湊であったが、今日は自身が所属する部活が押したのもあって帰宅時間が遅れていた。今夜の出撃を考えると帰宅前にはがくれ等で食事を済ませておこうかと視線を彷徨わせる
「……あれ、有里くん?」
────今、一番聞きたい声を聞き間違える筈がない。思考を追い越した体がその瞬間、光速を超えた
何の気なしに話しかけてきた本人も思っても見なかった凄まじい反応速度、肩を跳ねさせたのを見て驚かせてしまったと思うものの、湊の心境は落ち着いたままで入られる筈もなく
「どう、して……」
「合唱部の子達と外でミーティング…という名の女子会にお招きされて、今から帰る所だったんです」
まさかここで会うなんて思っても見なかったという意外性に満ちた言葉は、同時に湊の台詞でもあった
ツキに見放され、タイミングがかみ合わない姿を流石に不憫に思った神による采配か。何にせよ見知らぬ合唱部の生徒達に感謝の念を送りながら、この絶好の機会をモノにするしか明日はないと思う程に湊は追い詰められていた
「枢さん、」
話があると切り出す為、いつものように彼女を呼んだ時に湊は用意していた言葉を呑み込んだ
続けられる訳がなかった、何もなかったかのように振る舞えなかった。呼び方に対して浮かべられた寂し気な表情が痛々しくて
こんなにも分かりやすく傷付いていた星雫に今の今まで気付きやしなかった自分を、心から恥じた
「あっ、そろそろ帰りのモノレールが来そうですよ!有里くんも一緒に、」
「帰るのはもう少しだけ待って、お願い」
「それは大丈夫ですが……」
「君に聞いてもらいたい話が、あって」
モノレールの改札口へ向かおうとする星雫の腕を掴む手にまで震えが伝わりそうな程、声帯までもが臆病に震えていた
このままにしておけない、今までは自分の好意を誤解されたままなのが嫌だったからそう思っていた。けれど今は──そこにもう一つ理由が付随した、全ては星雫の表情を見てしまった事から生まれた想いだった
「僕は枢さんと一線を引きたい、とかそんな事を今までで一度も思った事ない」
「ほ、本当ですか…?」
「本当の本当に本当。寧ろ今より親密……というかもっと仲良くなりたい
そう思えば思う程、岳羽達を呼ぶみたいにはいかなくて、どうしても『枢さん』って呼び方になるんだ」
「……私、あなたは私と一線を引きたいから、さん付けなのかなって悩んじゃって、」
自分から蒔いた種から伸びてきた蔦に、首を絞められているような苦い感覚を味わいながらも星雫の言葉に耳を傾け続ける
きっと大丈夫だと湊は漠然としたものでありながら、確かな自信に満ちていた。彼女は誠実なものに対しては誠実で返してくれる人だから、だからきっと大丈夫
「でも逆に仲良くしたい、とまで言ってもらえて……とても嬉しい
誤解を解いてもらったこともですが、有里くんが思ってる事を言葉にしてくれたことが何よりも嬉しい、です」
それは湊が言葉や表情に想いを乗せる事を苦手とする一方、ここ一番で発せられる彼の言葉に嘘偽りがないと知っている星雫だからこその返答であった
裏表がないと疑いを持たずに純粋に受け止めてくれる、向き合ってくれる彼女の温かで懐深い心根に、湊もまた惹かれたのだ。それを再認識して誤解も解けた今、漸く彼の心に平穏が戻ってきた
「いつか『星雫さん』って呼びたいから、その時まで待っていてくれる?」
「はい、もちろんです!いくらでも待ちます!」
.
11/30ページ