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ごきり、骨が嫌な音を立てて軋んだ瞬間、肺に溜まっていた酸素が全て抜け出した
──抜け出したからには新たな酸素を取り込まなければならないのに、体を締め付ける大きな掌がそれを阻む。酸素不足となった脳が思考回路を全て切断し、〇〇の身体機能を強制的に眠りへと落とした
●●、●●ちゃ……
その声に導かれるまま、目を覚ませた所を見る限り、彼女はまだ生きているということだ
まだ十分に回復したと思えない頭、備え付けられた眼から入り込む存在の名前が隔たりを飛び越えて無意識に唇からあふれ出た
「あ、まね…くん……?」
「…へー!思い出したの?●●」
「え…?あまね、あま…ね……?」
違う、自分を抱えて至極楽しそうに笑うこの男の子はつかさ
なら今、唇からあふれた誰かは誰だ?自分ではない、違う人の体の中にいるような俯瞰の立ち位置から見下ろした先でつかさと良く似たその人が、笑ってる
「──あなたは、だぁれ?」
知らない夕焼けの中、その男の子は悲しそうに笑っていて──
また明日、彼の言う"明日"はもう二度とこない事を知って、〇〇の瞳からは一筋の涙が伝い落ちた
「っ……!●●───!」
落ちる、落ちる落ちる落ちる──落ちていく
七不思議三番の境界に迷い込んだ自分を助けてくれたつかさが、〇〇の命をいとも簡単に放り捨てたからだ
「ねえ●●、どーする?このままじゃ、死んじゃうよ?」
「っ、っ……!」
「苦しいのは嫌だよネ?だったら、俺の名前を呼んで?
そうしたら助けてあげる、これからずーっと守ってあげる、一緒にいられるからサ!俺を受け入れて?」
落下する風景の中、ただ一人制止したようにクリアなつかさが少女へと笑いかける
真っ黒なクレヨンで塗りつぶしたような、底の見えない狂気を宿した瞳が怖い。けれどこの落下の果てに待ち受けるものはもっと怖いものだ
ーわたし、には…寧々ちゃんみたいに花子さんと結びつくものは何も、ない
だったら、だったら…私が選ばなきゃいけないのは……
「──●●!!!」
──声が、聞こえた
「いかないで!つかさを選ばないで!っ…俺を、選んで……!」
邪魔なお荷物でしかない自分を助けてくれようとしている声が、聞こえた
必死に伸ばしてくれる手をどんなに望んだだろう、辛さを絞り出した表情に胸が小さな音を立てる
「たす、け……!
助けて…!花子くん……っ!」
許されるなら、今だけでもいい
どうか私の手を取って、その想いを花子へ助けを乞う声に全て乗せるのが〇〇の精一杯だった
「あ、目ェ覚めた?」
「花子、さん…」
「あれー?さっきは花子くんって呼んでくれたのに、またそう呼ぶんだ?」
「…さっき」
「忘れちゃった?怖かっただろうし、忘れてた方がいいかもネ」
「ううん。…覚えてる、よ」
〇〇が覚えた恐怖に配慮して、それを思い出させないように髪の流れに沿って流れる彼の手が心地よい
起き上がった際、膝へと落ちた毛布の端を行き場のない指先に絡める。そうだ、この手と頭を撫でてくれる手は確かにさっき繋がったのだ
「花子さんの事を選ばせてくれて、ありがとう
凄く怖かった筈なのに、花子くんの名前を呼んで、助けてもらえて…嬉しかったの」
助けてもらえるのなら花子がいいと思っていたから、そう花が綻ぶように笑う〇〇の体が柔く締め付けられる
視界いっぱいに広がる真っ黒な制服の色、花子に抱きしめてもらえていると気付いて思わず息を呑む。毛布から離れ、再び行き場を失った腕をどうすればいいか分からず、混乱が深まるばかりだ
「うぇ…?!は、花子さ……っ」
「●●はおバカさんだなぁ。…嬉しかったのは俺の方
あのまま●●が遠くに行っちゃってたら、俺、何するか分かんなかった
…本当はネ、つかさだけじゃなくてヤシロ達の目も届かないような場所に●●を隠したいんだよ」
一音低く落ちた声と少しだけ強張った自分を包む腕に、向けられた言葉を真実と受け取らざるを得ない
あの時、〇〇が恐怖を感じたように花子もまた恐怖を感じていたのだろうか。七不思議なんかではない、この時ばかりはただの少年に見えた心を守りたくて、〇〇は恐る恐ると行き場を失っていた両腕を彼の背中に伸ばした
「つかさの手を取ってたら、奪い返してそうしてたカモ
だからそんな事を俺にさせないで。●●を守ってあげられる俺で、いさせて……約束」
「…お願い事、叶えてもらってるのは私の方なのに」
「約束だけどおまじないみたいなものだよ
●●を俺でいっぱいにするおまじない。だからネ?」
長く抱きしめ合っていたせいで、離れていく花子の体温を寂しいとそちらにばかり、意識を注いでいた〇〇の唇と彼のそれが何の躊躇いもなく重なる
慣れやしない感覚から逃げようとする小柄な体が、再び花子から伸びた腕に絡めとられて何も出来ない
意識がふわふわとして体だけが置いてけぼりになる。やっとそれが終わった後に花子は「今日助けた分のお代」なんて笑った
「つかさに、体や心も許しちゃだめだよ?俺のなんだから」
濡れた〇〇の唇を指先で遊ぶ花子の言葉は、確かに〇〇にとってのおまじないに他ならないものだ。
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