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『座標』としてトロンの手で回収された被験体──今は〇〇と名付けられた少女
回収された当初よりもいくばくかは自己を確立し、端的だった言葉にも感情が見受けられるようになったとはいえ、まだまだ人として未熟な事に変わりはない
自分の状態に目を回すという事もまだまだ彼女にとっては難しく。このビルで生活するようになって早数週間、実験着とも言えるものしか服のレパートリーを持っていない問題は深刻さを、周りへ科してきたのである
「……服?どうして?この服で私は十分だよ?」
「(持ってるものは一級だって言うのに、コイツ…!)」
『Ⅳ兄様、〇〇は女の子なんだから
着回せる服くらい見繕ってあげないと可愛そうでしょう?』
「……Ⅲの頼みじゃなかったら、絶対聞かねェ」
「何か言った?」
「何も言ってねぇよ、出掛けるから準備しろ」
どこに行くの、と準備を促した〇〇からの問いかけにⅣが答えを出さなかった時点で、彼女の疑問を解消してくれる人はいなくなっていた
ハートランドシティでは脱走したままの『座標』を取り戻そうとフェイカーの目が張り巡らされている
目じりの深くにまで及ぶオーバーサイズのパーカーから繋がるフードで顔を、万が一に備え、髪型まで変え──まさかフェイカーも『座標』が服を買う為、服屋に出掛けるとは思いもしないだろう
「色が白っていうのも味気ないな
着回せるならもうちょっとラフな感じか?」
「…………」
「顔は悪くねぇんだから、そうなったら暖色も有りだな
だったら、靴もさっき外の店に飾ってあったデザインもいいじゃねぇか」
「Ⅳ、」
「なんだよ、誰の為に俺が真剣に──」
「私、貴方が選んでくれた服なら何でも嬉しいよ」
店内の服を〇〇の体に被せていたせいで、近距離で視線が交差してしまった。言葉は依然として淡々としているもので、感情がどこから向けられたものかは分からない
だが視界の半分以上を埋めている筈の、桜色にライトアップされた〇〇の瞳が今の言葉が嘘ではないと証明している。嘘でなければ、こんなに澄んだ色をする訳がないからだ
「……あの、極東チャンピオンのⅣさんですよね?!」
「!ああ、変装をしていたのにバレてしまいましたか」
ここで忘れてはいけないのが、Ⅳも〇〇と負けず劣らず有名人だということ。特徴的な顔の傷を隠したとしてもこんな風に変装を見破られる事も驚くべきものではない
『トロン一家の次男』である彼とは別の『極東チャンプの紳士な決闘者』の顔へ即座に切り替え、Ⅳは集まってきてしまった笑顔でファンに応えてみせる
いつの間にか出来上がってしまった、即席のファンミーティング会場がお開きになった頃に極東チャンプから普段の自分へ切り替えてすぐ、Ⅳは異変に気付いた
───ファンに声をかけられるまでは傍にいた筈の〇〇がいないのである
「アイツ、どこ行きやがった…?!オイ、〇〇!」
店を出て、すぐそこには解散したばかりのファンがいるかもしれないというのにⅣは少女の名前を叫ぶ
囃し立てるような焦燥の理由は何だろうか
──街中の包囲網に〇〇が引っかかった可能性があるからか?
──故に父親に失望され、怒られてしまうから?
──────本当にそれだけ?
「お話、終わった?」
「…………」
「?そんなに驚いた顔をして、どうしたの?」
「”それ”があるなら、早く言えよ……」
もう1度、少女に届くようにと名前を呼ぼうとしたⅣの目の前に突如として現れた〇〇
〇〇は『座標』だ、自らの能力であちこちに転移する程に暴走気味であった瞬間移動と称される能力はご覧の通り、Ⅳを軸と定めた事で意のままに操れるようになったらしい
探す手間と彼女の為に服を見繕う為、わざわざ危険を冒してまで外出する暇はなかった、と焦燥が脱力に切り替わった際に溢れ出た独り言に〇〇がむっと口を歪める
「──Ⅳと一緒に歩きたいから、使わない」
独り言を単なる愚痴とは処理せず、真正面から〇〇はⅣの言う力の行使を拒絶した
彼女とて自らの置かれた立場は良く理解しているのだろう、実際に今日に至るまで外に出たいとも言った事はなかった
ただ初めて心を通わせ、軸となってくれたⅣと出掛ける事は少なからず〇〇は楽しかったのだ
慣れない靴は痛かったけれど、それよりもいつも忙しいⅣが自分の為に時間を割いてくれた。服を選んでくれた、外へ連れ出してくれた
単純な事に〇〇にとって、一連の出来事は奇跡のようなものだったのだ
そう、使わないとはっきり明言した〇〇に調子が狂い、フードの裾を思いっきり下に下げられたのだって意味が分からなくても楽しい思い出にしかならないくらいに。
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