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──今朝、教室に入った所で〇〇は黄色い声の襲撃を受けた
「おはよー、〇〇
いいタイミング…この場合は悪い時?に来たね」
「あ、岳羽さん、おはよう
えーっと、一体何があったの?」
自分の席につき、落ち着いた所で話をしようとやってきたゆかりと朝の挨拶混じりの談笑に耽る
こちら側の問いかけに対し、彼女は「あれ」とだけ称すると教室内の一点を指さす。細い指のラインを辿る形で移動した視線が、女子生徒だけで構成された輪の中心人物とかち合う
その一瞬だけでも心臓が高い場所までひと跳ねする衝撃を受けたというのに渦中の彼は一人一人へ律儀にも謝罪をしながら、自分の方へやって来るものだから思考が追いつかない
頼みの綱として縋る気満々であったゆかりは、この一瞬の隙にどこかへ行ってしまったようで、八つ当たりがちに「薄情者」と叫んだ声が〇〇の胸中で木霊した
「おはよう、〇〇さん
さっきはよろけていたみたいだけど、大丈夫?貧血だったら無理はしちゃだめだよ」
「う、うん、大丈夫
……あれ、望月くん、髪────」
今朝の彼にどこか違和感を感じていたと思っていたが、そこに理由があったのかと漸く認識が追いついた
いつもは綺麗に上げられている前髪が下りている。不意を打ってきた黄色い声の中には「いつもと違う」「これはこれでカッコいい」と盛り上がっている内容が聞き取れたが、彼女達は綾時のこの容姿の事を言っていたのだ
「今朝、寝坊しちゃってセットする時間がなかったんだ
他の女の子達は褒めてくれたけど、君から見ると変…だったりするかな?」
「え、そんな事ないよ! 新鮮だなって思っちゃっただけ
ごめんね、他の人と話してるのを邪魔するくらいについ長々と見ちゃってたよね」
「会話を切り上げたのは〇〇さんのせいじゃなくて僕の意志だよ
よろけているのを見て、心配したんだ。前も派手に転んでいたから余計にね」
「望月くんの中の私のイメージ、どうなってんの……」
小さな災難に会いがちというイメージを自分に持っているにせよ、それだけの理由で集まっていた女子生徒達よりも自分を気遣う方を選んでくれた、その事実に胸がむず痒い気持ちを覚えるようであった
ともあれ綾時の中のイメージと現実の自分に対して発生した乖離は速やかに解決しなければならない問題だ、問題──の筈なのに、不意に口を閉ざした自分の顔を伺おうと彼が首を傾けた拍子、髪に遮られた綺麗な瞳を惜しむ気持ちに駆られた
「──え?」
綾時がこぼした、たった一言によって静寂が舞い降りた
いつもは露わになっている鮮やかな色の瞳が見れないのが嫌だと思った、だから彼の前髪を横へとそらした
自分は今、何を─────何故、綾時に触れなどしたのか、顔が見えないのが寂しいなどという気持ちで簡単に触れていい筈もないのに──さぁっと音を立て、引いていった血が熱を上げ、顔に集中する
「ごっ、ごめんなさい!」
突如として良好になった視界に惚ける綾時をその場に取り残すようにして、〇〇は猪突猛進気味に教室の外を目指す
その間際、半開きであった扉に真正面から突っ込むも逃げる事でいっぱいな頭に、額から感じる鈍い痛みを気にする容量なんて残っちゃいなかったのだ
「──ねえ、待って!」
──どうしてか追ってきた綾時の方へ振り向く余裕さえも、この時の彼女は持ち合わせていなかった。
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