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案内された席から見える大通りを、手持無沙汰気味にその少女はぼんやりと見つめていた。空にはうっすらと雲がかかり、煩わしい日差しも比較的穏やかだ
いつも自分が活動する時間とは異なる時間帯にいることへ僅かな新鮮みを感じいる〇〇の鼓膜を揺らす、ドアベルと声。待ち人の到来に瞳の輪郭が穏やかに変形した
「〇〇さん!お待たせ、しました…!」
「やあ、司くん
そんなに焦ってこなくても大丈夫だと伝えたのに、走ってきてくれたの?」
「Ladyを待たせているというのに歩いて来るなど言語道断です、何か頼まれましたか?」
「いいや、君が来てからにしようと思って、まだ何も頼んでいないよ」
走ってきた為に弾む呼吸を司が落ち着かせた所で、今日 この店に来て初めてメニュー表を開く。表紙を開いた先、まず二人の目を引いたのが期間限定のケーキセットの文面だ
甘いものが好きだと話していた司の目がキラキラと輝いているのを見て思わずこぼれる笑み、年下である事を差し引いても愛らしさだけが残るのも彼の魅力の一つだろう
食べたい気持ちを押し殺し、ケーキセットを頼もうとしないので強引に彼の注文に声をかぶせる形でケーキセットを二つ頼むと途端に司は口をへの字に歪めた
「ぐぬぬ、何とも強引な…!」
「期間限定、しかもラスイチのケーキなんて食べないと損じゃない」
「絶対にUnitの先輩方にバレないようにしなければ…!」
「アイドルだものね、やっぱりカロリー計算とか厳しいんだ?」
「特にModelをされている先輩が厳しく……」
「へえ、モデルとアイドルの兼業をしてる先輩なんだ、凄いね」
「ええ! 確かに厳しく、私のSweetsも没収されたりも度々あるものの それでも尊敬して止まないお兄様なんですよ
…………まあSweetsの没収は、とても心苦しいので程々にしてほしいですが…」
暫くして運ばれてきたケーキと紅茶のセットに舌鼓を打つ司との出会いは、〇〇が『兄』の忘れ物を届けようと無理をした事から端を発する
────とても日差しの強い、夜闇の世界に住まう自分には不釣り合いな青空の広がる日だった
案の定、日差しに焼かれ そのまま灰となってしまうのでは、と蹲っていた自分に手を差し伸べてくれたのがこの朱桜司という少年だった。そこからこうして時々一緒にお茶をする仲となったのである
「おや…? 日傘を新調されたのですか?」
「そこに気付いてくれるなんて、司くんは視野が広いね
『お兄ちゃん』達がね、プレゼントでくれたんだ。何かの記念日とかじゃないけど、たまにはいいだろうってね」
「ふふ、〇〇さんのご兄弟は素敵なお兄様方なのですね」
「それに赤色が入ってるだろう? 君を思い起こしてくれる色で既にお気に入りの品になっちゃったよ」
「っ……!」
真っ白な日傘の外装に赤い糸で刺繍された柄を撫でる指先が、言葉だけでなく司の心を擽るようであった
じわじわと内側から焦がされるような熱のせいで、紅茶の味さえ吹き飛ぶ衝撃。日傘の話題からまさかこんな目に合うなんて誰が想像つくだろうか、話題を変えなければと思わず司の口も早くなってしまう
「き、今日は少しばかり曇っているので体調が良さそうですね
……あの、これは提案なのですが、」
「何度言われてもダメ、夜に会うのは危ないからその提案は却下。気持ちは嬉しいけどね」
「日差しに弱い〇〇さんに無理をさせている事実を、私は受け入れられないのです!」
「無理なんてしてないよ、私が司くんに会いたいからこうしているだけだ」
「あなたの為であれば、夜など飛び越えていくと言うのに、」
深い底知れぬ色を指した漆黒の髪と同じような赤い瞳を宿す〇〇に初めて会った日の事を、司は今でも鮮明に覚えている
真っ白な肌は死者を思い起こすように血の気が失せ、降り注ぐ日差しによって磔にされて消えてしまいそうで──
どうにか日差しから彼女を遠ざけなければと必死だったあの日から何度も逢瀬を重ねている、〇〇の天敵である日の差す真昼の世界で
夜間の学校に通う他、通学もままならないというのに彼女は司と夜に会う事に首を縦に頷かせてはくれない。けれど今日こそはといつもの引き際を伸ばす為、司は背筋を伸ばす
「──へえ、ス~ちゃんったらだいたーん」
「え、」
「り、凛月先輩?! 何故、こちらへ?!」
「最近、可愛い『妹』が昼間に外出してるのが気になってねぇ
まさか会うって言ってた人が、ス~ちゃんとは思ってもみなかったけど」
「…………へ?今、何と……」
空耳でも何でもなければ、今この場に現れた『吸血鬼』を自称する凛月は〇〇の事を───────
「この子、俺の妹だよ」
にこり、と我が物顔で『妹』の肩を抱き寄せて笑う凛月の目は、笑っていなかった。
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