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「主ー?主―?…ここにもいない」
他の審神者達が保有する本丸がどうかは分からないものの、耳や声を澄ました訳でもないというのに、遠くから聞こえる鳥のさえずりや風が揺らす木の葉の掠れる音はとても鮮明に耳朶を揺らす
とても穏やかで、静かな本丸だ。こうして主を探す加州が歩く度、鳴る通路の板目の悲鳴でさえも建物の全てに響き渡ってしまいそうに
外から響く賑やかな脇差や短刀達の声、今日は彼らが畑当番だったかと内番表を脳内へ思い浮かべる
微々たるものではあるが、確実に加州と彼の主の邂逅からこの本丸にも変化は起きている
──それは何巡目かの春の訪れを知らせる花が人知れず咲くように、小さく。彼女の中では大きく
「──すぅ」
「ったく、風邪引くから通路で寝るのは止めてって言ったのにさあ」
「んん……」
「主、起きて。寝たいなら部屋で寝直そ?」
「……加州くん、だ」
幾つかのめぼしい場所に足を運び、いない度に潰されていく目星は必然的にこうして春の麗らかな日差しの指す通路にて眠っていた〇〇の元へ加州を帰結させる
起こされて久しい寝ぼけ眼が己の初期刀で、生命線でもある刀剣を捉えた瞬間に緩やかな弧を描いて笑みを浮かべてみせた
加州にとってはこの〇〇の笑顔が、本丸に訪れた変化の象徴であった
死より戻り、その影響で生前の記憶を失い、生きているだけだった少女。それがかつての〇〇
感情の乏しい彼女が笑う、など今まででは難しい事だった。けれど彼女は少しずつではあるものの、穏やかに笑うようになった。"〇〇"と加州が与えた名前で呼ばれる季節を重ねる内、感情を思い出していったのだろう
「最近、よく笑うようになったよね」
「笑うのはまだ…全然苦手だけど、私が笑うと加州くんや皆が嬉しそうにしてくれるから
苦手でも、皆が嬉しそうだと……私も嬉しいから笑えるようになったんだよ」
「…そっか」
「でも」
「ん?でも、なに?」
「「あいしてる」や「きれい」は加州くんだけの言葉だよ」
どこからか訪れた風が庭の桜を揺らすついでにと、〇〇の言葉で擽られた加州の心を撫でていく
惜しみなく注がれる言葉によってじわじわと心が満たされていく、体の奧から沸く熱が頬に集中していくのが良く分かった
「ねえ〇〇。桜、ちょっと見に行こっか」
「じゃあ、手を繋いで行きたいな」
「なぁに、甘えた?」
「ううん、加州くんを見失わないようにおまじない
きれいなあなたを、桜に攫われないためのおまもり」
「ああ、もう…!」
あまりにも〇〇に惜しみのないものだから、貰ったものを取りこぼさないように昔よりも必死になってしまう
ぞっとする程に白く、小さな〇〇の手を攫うように、けれど痛みを伴う事のないようにと握り、夕餉までの時間を桜の樹へ加州は導かれる事を良しとした。
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