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「…は?ヒナタさんにわざわざ来てもらって、部屋のお掃除をしてもらってるんですか?
将来はお嫁さんになる人ですけど、少しは…って何を照れてるんですか…?!」
スマートフォンの液晶画面に表示された20時という時刻通り、ぽつぽつと街灯が等間隔に設置された薄暗い帰り道をレンタルDVD店帰りの〇〇が家に帰ろうと足を進めていた
バイトに入っていた兄と鉢合わせた所、少しばかりの説教を貰ったものの、夜が深まった道を帰宅する妹を心配して電話を繋いでもらうに至っている為、彼女にとっては結果オーライと声も弾む
「いい人?そんなの──!」
不意に首裏に走った閃光の熱が、不自然に電話口へ向ける筈だった言葉を燃やした
帰路の脇に最低限の数、設置された少ない街灯、頼りない灯りの下に人影を見つけた。切れかかった蛍光灯の輝きでも十分な程にかき消されてしまいそうな、擦り切れたシルエット
『〇〇、どうした?』
「……おにい、ごめんなさい
宅配便の人が来たみたいなので、また連絡しますね」
放っておけばいいのに、危ない人だったら取り返しがつかなくなるというのに気が付けば、〇〇は嘘をついた指で終話ボタンを押し、スマートフォンを鞄の中へ仕舞いこんでいた
ゆっくりと人影に近付く中、徐々にその輪郭が露わになる
脱色でもしたのだろうか、真っ白に色が抜けきった髪
刈り上げてしまったせいで露呈した細い首筋、11月になろうかというこの季節に何とも異端な雰囲気を落とし込んでいて、見ているこちらの体の方が底冷えしそうだった
「……万次郎さん?」
知らないひとの筈だった、少なくとも〇〇が生きてきた人生の中で接触した事のない男性
けれど横顔に面影を見てしまったら最後、数年前に一方的に別れを告げられ、再び会う事も叶わずに忘れられないままの名前を口が紡いでいた
振り向いた真っ黒な瞳が〇〇を捉えた。返事はない、確証もない。というのにその瞳が何よりも〇〇の中で息吹く彼の輪郭を、現実へ浮き彫りにする
「万次郎さん、ですよね」
「……うん。久しぶり、〇〇」
「本当、ですよ…!今まで何をしてたんですか?
おにい…いえ、ドラケンさんや皆さんがどれだけ……」
──まただ。武道と電話を取っていた中、感じた熱と声を拾った
こんなにも静かで、何もない世界なのに聞き逃してしまいそうな声。追及の言葉は凪いだ心に閉じ込め、〇〇は巻いていたマフラーを寒々とした彼の首へ巻き付ける。十分に余る長さ、浮き出た薄い鎖骨に眉を顰める
「…、」
「どれ程の時間、こんな薄着で外にいたんです?
…昔からそういう所は変わらないままですね、自分に無頓着で──そんなになるまで無理して」
「……」
「君の事だから凄く頑張ってきたんでしょ」
微かに見張る瞳から無意識にこぼれた涙を通し、笑いかける〇〇の存在を彼の内へ刻みつける
一緒に暖を取ろうと家へ招く為に鞄の内ポケットに収納したキーケースへ手を伸ばす。暖房は切ってきたが、元々狭い部屋、すぐに仕事をしてくれる筈だ
行こう、と万次郎の手に触れた瞬間、彼の方へ引っ張られた手。何が起こったか分からない〇〇を置いてけぼりに、無防備な唇を食まれた
万次郎と別れてから、誰とも付き合う事がなかったからこんな時はどうすればいいかなんて忘れてしまった。遠ざかっていた時間分を埋めるように長い時間を、キスに浪費した二人が銀糸で繋がっている
「っ、…?!な、にを…っ!」
「ごめん、お前がいなくても平気だって言い聞かせて頑張ってきた
だけどやっぱり…〇〇がいないと、俺はだめだ」
「万次郎、さん…?」
「俺の傍にいるってなったら、一生離してやれない
それでもお前に危害を加えようとする全てから守るから、〇〇の全部を俺にちょうだい。俺に呼吸の仕方を思い出させて」
「……」
「〇〇がいない世界は、もう耐えられない」
お願い、帰ってきてと肩に寄りかかったままに呟かれた切なる願い。相反して離す気は更々なさそうな力で行われる抱擁
ああ──と漸く何度も感じた熱と音にこの時、〇〇は合点がいった。あれはきっとそうだ、彼から発せられた形や言葉のないシグナル、たすけてという合図だったんだ
「泣かないでください、万次郎さん」
「他に何もいらない、望まないからただ傍にいて」
「離れてた分、これから埋め合わせしますから」
だから笑って
そんな意味も込め、自分を見下ろす瞳から落ちてくる涙を拭い、〇〇は困ったように眉を下げて笑った。
▽▲▽
「あの時、そう言って絆された自分を殴りたい」
「埋め合わせ、してくれるんだろ?」
「監禁までセットとは聞いてないんですけどね?!」
「〇〇、膝枕して。眠い」
「貴方は何なんですか…」
「反社のボス兼任してる〇〇の旦那」
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