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『少しだけ、ここを離れてみたいと思う事があるのです』
若々しい翠緑を揺らす風にかき消されそうな声量で、少女は呟いた
やっとの思いで言葉にしたであろう胸の内を全て察する事は出来なかった。だからベディヴィエールという騎士は自分にとっての最善が、彼女の最善と重なる様に歩み寄るのだ
「ご在室ですか、姫」
「…姫扱いは、嫌いです」
とっぷりと暮れた空の下、一人の離宮に訪れた姿に〇〇は怪訝にする事無く彼を追い返す事はしない
寧ろベディヴィエールから発せられたブロックワードである「姫」と呼び方に対しての不満が一際大きいらしく、見事に小さな頬が瞬く間に膨れ上がってしまう
この離宮にも時々姿を見せる小動物のリスの姿を思い起こし、これ以上に機嫌を損ねてしまわぬ様にと苦笑を浮かべながらベディヴィエールは小さな少女の前に片膝をついた
「どうかその様な顔はなさらないで、貴女の輝きが損なわれてしまう」
「…我儘とは承知ですが〇〇とお呼びください、ベディヴィエール様」
この顔には弱いと、ここに来てただの一度である彼女の名前を呼んだ途端に輝く笑顔-降り注ぐ星だと一身に注がれながらベディヴィエールは思慮する
〇〇の笑顔の後ろで更に暮れようと空が暗闇へ覆われていく。そろそろ頃合いかと黄昏時の終わりを判断し、ベディヴィエールは片膝をついていた地面から立ち上がる
「〇〇。こちらを羽織り、準備を整えて下さい」
「…?」
「一時の間ですがエスコートさせて頂きます、さあ行きましょう」
「あ、あのベディヴィエール様…!夜更けに外には…」
「大丈夫、〇〇のお付きのレディや王には許しを得ていますから、何も気負う事はありませんよ」
実際の所、王であるアーサー王と〇〇付きの侍女達に許可も何も取ってはいない
全ては今、〇〇へ言った通り、彼女が何も気負わずにいる為の嘘。ベディヴィエールから伸ばされた手へ手を重ねる〇〇は、彼の嘘を信じて城から離れた小高い丘へ誘われた
「どうやら間に合ったみたいですね」
「──!」
人里の灯りから離れ、ベディヴィエールが持つランタンしか頼りに出来ない様な暗闇に包まれた小高い丘
何故、そんな場所に自分を──彼の言葉に視線を上げた〇〇の胸からは問いかけは消え、ただ丸い星に沿って流れる星の尾の群れに息を呑んでいた
「凄く、綺麗…です…そんなありきたりの言葉しか浮かばないくらいに…」
「空から降る涙星はこの地を潤してくれることでしょう、明日もきっと人々の生活は豊かであると示してくれている…」
「ベディヴィエール様、あの……」
「どうしました、〇〇?」
「どうして、わざわざこの丘まで私の手を引いてきてくれたのですか?」
〇〇とベディヴィエールの手は、離宮で繋いだ時より片時も離された事はない
今だって流星群しか見えない程の暗闇の中、〇〇の足元を気にするベディヴィエールによって結びついたままだ
そんな献身深いこの人が何故、ここまで連れ出してくれたのか―だって都全体に降る星を見れば、あの離宮で事足りたのではないかと〇〇は考えたのだ
「あの小さな離宮では、貴女はこの丘の様に全ての星を見上げる事は出来ない。それに──」
「それに…?」
「我が綺羅星の輝き、その可憐さを知っている者として何かをしたくて仕方がなかった
この身から生まれる忠誠は王へ、そして我が誠意は〇〇、貴女へと。私の私利私欲で貴女を連れ出してしまったのです」
暗闇の中で手の甲に灯る熱、それから流星に引き寄せられる様に持ち上がった腕の感覚―間違いない、とベディヴィエールがした行為にかっと〇〇の頬は熱を伴う
ベディヴィエールによって生じた熱は胸に集まり、やがていつかの日の会話を思い出した
あれは真昼の穏やかな離宮の庭でのこと、とても風が強い日だった
偉大な父であるアーサー王の娘である自分は戦えもせず、ただのお荷物―周囲からは「お飾りの姫君」と笑われても仕方のない事だ
けれどその日はベディヴィエールしかいなくて、庭の木々を揺らす風の中ならばと募る想いをこぼしてしまったのだ
『少しだけ、ここを離れてみたいと思う事があるのです』
もしもアーサー王の娘でなく、ただの町娘として生きられたのなら──何度、夢を見た事か
だけど町娘ならベディヴィエールに出会う事もなく、話す事も増してやなく命を終えていただろう、それだけは「お飾り」と呼ばれる事以上に〇〇は嫌だと思った
あの時、彼から反応がなかったのでてっきり風に浚われたものと思っていたが、ずっと自分の為に出来る事を考えてくれていたのだろうか。それを考えるだけで愛しさがこみ上げてしまう
「ベディヴィエール様、私の弱音をこの様な形で昇華してくださってありがとうございます
離宮へ戻る事になってしまいますが、けれど貴方様とこの丘から見上げた星の輝きは──私の胸に貴方様によって灯された喜びで、永遠に輝く事でしょう」
▽▲▽
「ベディヴィエール様…?本日は確か、遠征だったとお聞きしていましたが…」
「王に城の守りを頼まれ、残る事となったのです。留守の間、何なり、と……?」
「……」
「〇〇?どこか具合でも…!」
「え、えっと…騎士である貴方様への重々な失礼と思うのですが、共にいられる時間が増えて嬉しい、と口元が緩んでしまうのです…!」
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