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──歌が何なのだと思っていた
誰かの悲鳴や涙、血が今もどこかで流れる現実にあるのは銃撃音、戦争の匂いばかりでどんなに美しいと言われる歌もあっという間にかき消されてしまうんだ
昔も今も余裕なんてない、まして歌に耳を傾ける余裕なんて、
音楽や言葉だけで何が救えるんだ、力がない弱い人間は奪われるばかりじゃないか。なのに、
『────』
あの日、あの夜に耳にした歌声だけが忘れられずにいる
「……シン、シン、あの、怒ってる?」
目の前を歩くくせっ毛の幼馴染は自分の問いかけに応えず、かと言って握り締めたままの手首を離してくれる素振りも見られない
隠すつもりはなく、けれどわざわざ明言するようなものではないと仕舞っていた事実はいつの間にかティアの胸中で『秘密』となり、シンに衝撃を与えてしまった事だろう
ここは先に謝っておこうか、そうティアが二の句を告げようとしたのを悟ったのか、不意に二人分の足音が歩みを止めた
外で開催される慰問コンサートによって、必要最低限の人間しか残っていない基地内部は普段の慌ただしさが嘘のように静かだ
「ティアが『ディアマンテ』っていう歌い手だったのは、何となくだけど分かってた」
「え、どうして……」
「……昔、マユと一緒にラクス・クラインの歌、歌ってただろ?
その時の声に似てたから、もしかしてって思ってたんだ」
「そっか。……そうだね、あの頃は良くカラオケ行ったよね
シンは私達が歌っているのを聞くばかりで、マユちゃんがつまらないからって歌うようにお願いしたり」
「でも議長の義娘になってる事までは予想付かなかった」
オーブの夕焼けをより濃くしたような色を宿す瞳がティアを射貫く
彼にティアを非難する気持ちはなく、そこにあるのは何故言ってくれなかったのかという純粋な疑問のみ。ティアがシンの視線に心苦しくなるのは、彼に対する罪悪感が心の内にあるからだ
「……ずっと隠しておくつもりだったよ、お義父様も私の事を公にするつもりはなかったから」
「っでも!俺にくらい…!」
「無理、だよ
……デュランダル議長の義娘だと知ったシンに一線を敷かれてしまったらと想像しただけで、臆病になったくらいなんだもの」
「──────」
言えるものなら言いたかったという苦笑まじりの告白を前に、シンは言葉を失った
自分に一線を敷かれる想像を浮かべ、臆病になってしまったのだと笑うティアを傷付けずにいられただろうか
確かに秘め事にシンは傷つきはした、どうしてと胸を締め付けられもした。けれど結果として秘密が暴かれる瞬間が今日だったことで、これだけのダメージで済んでいる事実に安堵してしまった
「でも…良かった、私は”あの後”にシンと一緒にはいられなかったけど
……私の歌だけでもシンの傍にいる事は、出来たんだね」
そんなシンの胸中の暗雲を拭うようにティアは穏やかに笑う、彼の孤独に自分の歌が寄り添う事が少しでも出来たのなら良かったと心の底から沸く感情を表した笑顔
平和で、幸福だった頃の日常を模した笑顔は軍人になってから、何気なくかけられる言葉にも裏がないかと緊迫するシンの心をほんの一瞬、穏やかにさせてくれる
──そう、それはフラッシュバックで眠れずにつけた有線から流れてきた歌に救われた夜のように
「ティアはさ、ティアのままなんだな」
「いきなり別人になったりしないよ…?」
「そうじゃなくて『ディアマンテ』とか議長の義娘とか……
俺の知らない事実が増えて、『俺の幼馴染』がいなくなるんじゃないかって思ったんだよ。でもちゃんとティアはここにいるんだな」
「……うん、ここにいるよ。シンの傍にちゃんといるよ」
少し手を伸ばせば、そこにいて触れられる距離
深海にいるかのような息苦しさも、ティアの言葉が酸素としてシンを生かしている。