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主、と微かな灯りを透かす障子越しに鶴丸は声を投げ掛けた、が返事はない
微かな蝋燭の火は吹けば消えそうな程に頼りなく、今の巴の心を
この曇り空の下にある為に暗い本丸は巴の状態を表している様だ
何も彼女にする事は出来ない、何せそれを巴が望んでいない
打つ手なし、ただ一つ申し渡された出陣の任務を部隊長としてこなし、巴を心配する刀剣達を宥める以外に鶴丸に残された事はなかった
▽▲▽
祖母が亡くなって、どれ程の時が経ったのだろう
いつか来ると分かっていたつもりだった、その時は時間が解決すると思ってた、でもそんなの迷信だった
だって、こうして胸に穿たれた穿孔は癒える事なく痛み続けている
おばあちゃん、と巴が音もなく口にした時だった。ふっと誰かが息を吹き掛けたかの様にして、部屋の蝋燭が消える
ゆるりと消えた蝋燭の方に目を向ける、そこには切り落とされた蝋燭の代わりに巴を見つめる眼光が揺らめいていた
『歴史ヲ変エヨウ』
「…やめ、て」
『オ前ノ愛スル人間ノ死ヲ』
「そんなこと、おばあちゃんは…望んで、なんか」
『本当カ?』
気がつけば、鼻と鼻、お互いの呼吸がぶつかるまでに近付いていた距離、知性を失った者は適切な距離感など考えないのだろう
今から紡ぐ言葉は眼前の骸に殺されない為じゃない、手を差し伸べるのは骸越しに見える愛しい人
「わたし、は…っ」
刹那、眼前の骸が背後からの一太刀により、咆哮を上げて霧散する
その奥から現れる白い立ち姿、初めて彼を顕現させた時の事が不意に浮かんで、消えた
続けざまに本丸中から聞こえてくる刀と刀が衝突し合う音、入り込んでいたのはあの遡行軍だけじゃなかった様だ
「つる、ま…」
「きみ、歴史修正主義者の手を取ろうとしたな
墓を暴き、おれを取り出した人間の所業とは比べ物にならんことだぞ、それは」
「…っいけない事だと分かってる!でも、私はそんなに強い人間じゃないの!
亡くした人を生き返らせたい、もう一度一緒にいたいと思う事の何が…何が…!」
「主」
「出て行って、一人にしてよ!
審神者だと思ってたけど、あれはやっぱりただの小娘だって!皆で嗤えばいいでしょう!」
「いい加減にしろ!主 !! 」
耳を劈くような巴の慟哭に半ば覆いかぶさる形で怒号が被さった、信じられないとばかりに巴の瞳が見開かれる
だってあの鶴丸が、こうして歴史修正主義者の強襲を受けても冷静さを欠かなかった彼が、腹の底から煮えたぎる怒りを巴にぶつけている
「きみの自分を自分で卑下にする言葉を聞くのはもう飽き飽きだ!きみの努力をおれは誰よりも知っている、その優しさも身に染みる程に分かってる!
…おれが戦場で取る誉れが主にもあるなら、それを飾りたい。だがきみの言葉がそれを汚していく、それがおれには許せない」
「どう、して…そこまであなたが私の事で怒るの
あなたは…私を最期まで想ってくれていたおばあちゃんじゃないのに…何で…」
殆どその声は枯れていた、震えていた
巴にとって水という潤いが祖母だったのだからそれを失った今、その喉はカラカラに乾いている
呆然と鶴丸を見上げる巴の瞳を覆う様に白い羽織が舞う、それが自分が鶴丸に抱き締められているのだと巴が気付くのは直ぐの事
彼女の祖母になろうというつもりもない、元より巴に心惹かれた時から近侍という立場も不服だと思っていた彼
けれどその不満も胸に飲み込んだ、自分は巴よりも古い刀剣だから。その不満が男女の仲でいう所のヤキモキだと教えられたのは、巴が気晴らしに読んでいた恋愛小説からだったか
「きみを見ているのは、想っているのは彼女だけじゃない
おれだって負けないくらいにこれから先もきみを想い続ける。だから…どうかおれを見てくれよ、主」
その言葉は、鶴丸国永という刀が己の刃生を「##NAME2##巴」というただの審神者である少女に捧げる、と言った誓い
どうしてと巴はまず思った。こんな年端もいかない小娘に何故この刀はそこまでの愛情を注いでくれるのか、けれど嫌じゃなかった
こうして温かく抱き締められる事も
愛情を注いでもらう事も、鶴丸と過ごす日々は何よりも面白可笑しくて、愛しくて、口ではあんなに説教を垂れていたのに、実の所は巴自身が一番楽しんでいた
だから、あの日々に帰りたかった
巴が何よりも望んだのは祖母の死を変える事ではない、この胸の痛みを誰かに受け止めて貰いたかった、ただそれだけだった
「鶴丸。ここが、痛いの
ねえ、どうにかして。もう一人じゃ、抱えきれないの…っ」
「…ああ、やっと言ってくれたな」
ぼろぼろとこの場合は源泉を瞳とし、湧き水の様に後から後からこぼれる透明な涙が真っ白な鶴丸の羽織にシミを作っていく
自分の頭を一定のリズムで優しく叩く手は亡き祖母が巴へ最期のお別れを言いに来たかの様に、祖母にそっくりで巴は童心に帰り、泣きじゃくった
ごめんなさい、間に合わなくてごめんなさい
―夜明け、二人を静かに見守っていた暁月夜が安心したのか溶けて消えていった