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「第一部隊が帰って来ましたよー!」
戦場へ赴いた刀剣男士達の無事を待つ巴にそんな声が届いたのはその時だった
他の者達に居ても立ってもいられない自分の心境を気取られぬ様、読んでいる様で読んでいなかった本を文机に置き、巴は縁側に続く襖を開いた
理想では無事である彼がいる筈だった
現実には真っ白な戦闘装束を血液の深紅に染め上げた彼がいた
縁側に出て来た巴を見て、ふと彼が弱々しく笑ったのは、紅白に染まった自分を見て動きを止めた彼女に心配は無用だと言う為か、それとも驚きをもたらせた事に満足した為か
彼ー鶴丸国永が巴の方へ一歩足を進めた拍子、巴が鶴丸の方へ駆け寄った瞬間、巴の腕の中へと鶴丸が倒れたのは同時の事だった。生暖かい深紅はそれが鶴丸本人から流れるものだと巴に教えて来た
「……!鶴丸っ!!!」
▽▲▽
「……ああ、無事に…帰れたのか」
重傷を負った鶴丸国永が目を覚ましたのは真夜中の事だった。どうやら、無事に主が待つ本丸へ帰って来れた事に同じ第一部隊である仲間に感謝する
あの傷だ、自分はすぐに手入れ部屋にいれられた事だろう。体に異常はない、手入れは正常に終わった様だ。手入れさえ怠らなければ、自分達の傷はすぐに癒える。それは審神者として当たり前の知識だ
なのにこれは何だ?何故、巴が自分に寄り添う形で眠っている?
「あ、やっと目が覚めたの?」
「おお、加州。今しがたな。それでこれは…」
「主、アンタの傍にいるって聞かなくてさ。よっぽどアンタが倒れたのが堪えたみたい
それで、今回はどうしてあんな重傷負うまで無理したわけ?うちは「軽傷になった時点で進軍は禁止」だった筈だよ」
鶴丸を非難する様に瞳で訴えかけて来るのは自分の主ー巴の初期刀であり、この本丸では一番の古株である加州清光
彼が言う様にこの本丸では【軽傷になった時点で進軍は禁止】の筈だった、それは巴が口を酸っぱくして何度も言った言葉
それを破り、巴をあそこまで狼狽えさせた鶴丸に主思いの加州もその本心を聞かずにはいられなかった
「そうだな…それを忘れていたわけではないんだがなぁ」
「じゃあ、どうして」
「…加州、きみも薄々気付いてるだろう?主は決して戦場向きの性格ではない、寧ろその逆で気が小さい
そういう性格だから、おれ達が一つの傷でも負うと途端に平静を崩す」
「それは俺達を大切にしてくれているって事でしょ」
「ああ。だが大切にし過ぎて、気負い過ぎてる部分もある
自分の指示でおれ達に傷の一つもつけてはいけない、とな」
それは加州も薄々気付いていた。だって巴の初期刀に選ばれ、最初の出陣で彼女の前で傷を負ったのは他ならぬ自分だったから
あの時の巴の青ざめた顔、瞳いっぱいに涙を溜めた姿は忘れようにも忘れられない
ごめんなさい、という言葉を彼女は加州に紡いだ、幾らこんのすけが手入れをすれば治ると言っても言葉と涙の雨は止む事はなく
それ以来、加州は決して傷を負わない様に、巴のあんな姿を見ない様にと細心の注意を払って来た
なのに、鶴丸はもう二度と見たくなかった巴の姿を掘り起こしてくれた
──けれどそんな無茶を彼がしたのは、自分と同じ様に巴の事を思っての事だと分かってしまったから、言おうとした文句を飲み込んだ
「……つるまる?」
「ん?ああ。おはよう、ある…うぉっ」
「もう痛くない?傷は?もう残ってないわよね?ゆっくり休めた?
本当は手伝い札を使いたかったんだけど、いい機会だからゆっくり休んでもらおうと思って…」
手を取って、寄り添う様に眠り続けていた巴は先刻目を覚まし、加州と話していた鶴丸にすぐさま飛びついた
大丈夫かともう傷は残ってない筈だがそれでも心配して、鶴丸の体をあちこち触りまくる姿に理性はない
鶴丸の事を心配しての行動なのだろうが、いかんせんいつもの大人びた彼女からかけ離れた姿に心配されてる鶴丸自身は驚く一方
いつもは驚かせられる側の巴が今日は鶴丸を驚かす側に回っているのだ
「落ち着いて、主!鶴丸がびっくりしてるから!」
「…はは!こりゃいい驚きだ!だが…ああ、この通りだ。心配かけたな、主
しかしこれ以上、休んでいると悪戯を許してもらえる折角の期間が水に流れちまう」
「は?何それ」
▽▲▽
「俺達は手入れさえしてくれれば、傷なんて残らないんだ
今はこうだけど、時間が経てば目を覚ますよ。分かってるでしょ?主」
「……うん。でも…ごめんなさい、清光」
手入れ部屋にさえ、入っていれば大丈夫。折れたのではないーそれは分かっている、分かっているのだが、体がついてこない
やがて今の巴に何を言っても無駄だという事が分かった加州は小さな溜息を残し、部屋を去っていった
後から短刀達が巴や鶴丸の事を心配し、部屋にやって来た。せめて食事だけでもという言葉にも巴は首を縦には振らず、頑なにその場を動こうとしなかった
今、ここから動くと彼の主として失格だという気がしたからだ、こんな事態を招いた時点でもう鶴丸の主を名乗る資格もないかもしれない
ここに一人でいるとどんどん暗闇へ落ち込んでいく。それでも巴は鶴丸の傍を離れようとしなかった
「お願いだから早く目を覚ましてよ、今ならどんな悪戯でも笑って見逃してあげるから…ねえ鶴丸ってば」
あの時、確かに彼女の頬を伝い落ちた透明な雫は鶴丸の中へと響いていたのだ。それを知った巴はと言えば——
「悪趣味!」
という一言を銃弾の様に放って、手入れ部屋を飛び出していく始末
あの足音で他の刀剣達が起き出してしまうな、と加州と鶴丸は苦笑したのが彼らの秘密ならば、部屋を飛び出した巴が羞恥心で浮かべた赤い顔にうっすらと笑みを浮かべたのは彼女だけの秘密だろう
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