不自由を謳歌せよ
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定刻に現れた夜行バスの乗り口へ、自分と同じようにケースやバッグを持って集う乗客の後を壬景も続く。感慨に耽っていた為に乗車は最後まで待つこととなる
あと1人、目の前の客が乗り込めば自分の番。いよいよそこまで来たというのに、力任せに後ろへ引っ張られた拍子、一歩も動けぬようにと大きな腕が壬景の体を抱き込んだ
「……燐音さま、どうしてここに」
「っ……俺っちにかかれば、お前の行こうと考える所なんて百発百中で分かるっての」
「左様、ですか」
「……嘘だ。『故郷』から出てきたお前の事は何も知らないから、一か八かの賭けだった」
不思議そうな運転手の視線を残し、夜行バスは壬景を乗せる事のないままに発車してしまった
現在の時刻内に停車/発車するバスはあらかた片付いてしまったのか、ターミナルに残る人影は少ない
壬景の傍で息をひそめるキャリーケースは彼女が姿を消すと決めた日の内に決め、この場所に預けていたもの。それを見つけた燐音の眉は苦々しく歪んだ
「俺の『自由』の為にお前があっちに戻る必要なんてない」
「壬景は、…壬景はご兄弟の『自由』に対し、枷にしかなれませぬ
だからどうか引き留めないでくださいまし、元の状態に戻るだけの事にあなた様が心痛める必要なぞ…」
「お前の事を俺が枷だと思うと、勝手に決めつけるんじゃねェよ」
「──────」
「ㇵッ、枷がついたくらいでブンブン飛び回る蜂を止められると思うなよ
寧ろハンデやリスクがあったくらいが俺っちには丁度いいってもんだ」
「……」
「お前に伝えたかった事があるんだ」
話すことはない、というよりも話したくないとある程度の黙秘を貫く壬景を貫く鋭い言葉と視線は、少女の心の脆い部分に遠慮なく突き刺さった
「今度こそ俺と一緒に生きてくれ、壬景」
「────今、なんと」
「ずうっと後悔してたよ、お前を『故郷』に残してきたこと、一緒に行こうとして行けなかったこと」
「あれは、壬景が、壬景が断ったからで、」
「それを言うなら無理にでも連れていく覚悟が、あの時の俺には足りなかったってことだろ」
たったの一言、燐音からの一緒に生きてほしい──それだけが壬景の自己犠牲で凝り固まった心の殻を溶かす
壬景が平常であれば、たったの数行に収まる会話で彼女を説得するのは難しい。同じように共に生きる事が出来れば、なんて夢を見て諦めた燐音という存在から伝えられる言葉だからこそ、壬景の心を揺さぶるのだろう
「……いい、のですか、壬景はこれからも燐音さまのお傍にて、生きて…いいの、ですか?」
「お前も、俺と同じように願ってくれるなら、誰の許可なんていらねェよ」
涙はとめどなく溢れ、躊躇いがちに抱き締めてきた燐音の肩口を濡らす
後悔と共に生きながらも決して涙を流すことはなかった少女の、静かな慟哭に燐音だけが耳を傾ける、夏の夜の出来事だった。
あと1人、目の前の客が乗り込めば自分の番。いよいよそこまで来たというのに、力任せに後ろへ引っ張られた拍子、一歩も動けぬようにと大きな腕が壬景の体を抱き込んだ
「……燐音さま、どうしてここに」
「っ……俺っちにかかれば、お前の行こうと考える所なんて百発百中で分かるっての」
「左様、ですか」
「……嘘だ。『故郷』から出てきたお前の事は何も知らないから、一か八かの賭けだった」
不思議そうな運転手の視線を残し、夜行バスは壬景を乗せる事のないままに発車してしまった
現在の時刻内に停車/発車するバスはあらかた片付いてしまったのか、ターミナルに残る人影は少ない
壬景の傍で息をひそめるキャリーケースは彼女が姿を消すと決めた日の内に決め、この場所に預けていたもの。それを見つけた燐音の眉は苦々しく歪んだ
「俺の『自由』の為にお前があっちに戻る必要なんてない」
「壬景は、…壬景はご兄弟の『自由』に対し、枷にしかなれませぬ
だからどうか引き留めないでくださいまし、元の状態に戻るだけの事にあなた様が心痛める必要なぞ…」
「お前の事を俺が枷だと思うと、勝手に決めつけるんじゃねェよ」
「──────」
「ㇵッ、枷がついたくらいでブンブン飛び回る蜂を止められると思うなよ
寧ろハンデやリスクがあったくらいが俺っちには丁度いいってもんだ」
「……」
「お前に伝えたかった事があるんだ」
話すことはない、というよりも話したくないとある程度の黙秘を貫く壬景を貫く鋭い言葉と視線は、少女の心の脆い部分に遠慮なく突き刺さった
「今度こそ俺と一緒に生きてくれ、壬景」
「────今、なんと」
「ずうっと後悔してたよ、お前を『故郷』に残してきたこと、一緒に行こうとして行けなかったこと」
「あれは、壬景が、壬景が断ったからで、」
「それを言うなら無理にでも連れていく覚悟が、あの時の俺には足りなかったってことだろ」
たったの一言、燐音からの一緒に生きてほしい──それだけが壬景の自己犠牲で凝り固まった心の殻を溶かす
壬景が平常であれば、たったの数行に収まる会話で彼女を説得するのは難しい。同じように共に生きる事が出来れば、なんて夢を見て諦めた燐音という存在から伝えられる言葉だからこそ、壬景の心を揺さぶるのだろう
「……いい、のですか、壬景はこれからも燐音さまのお傍にて、生きて…いいの、ですか?」
「お前も、俺と同じように願ってくれるなら、誰の許可なんていらねェよ」
涙はとめどなく溢れ、躊躇いがちに抱き締めてきた燐音の肩口を濡らす
後悔と共に生きながらも決して涙を流すことはなかった少女の、静かな慟哭に燐音だけが耳を傾ける、夏の夜の出来事だった。