SS-enst(1)
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長時間、睨み合いを続けていたパソコンから窓の方へ投げた視線が、すっかり暗がりに包まれた外の風景を捉えた。キリのいい所までという間延びした考えが時間経過という概念を花音から奪い取っていたらしい
仕事用のスーツから着替え、早足で事務所を出ていく。彼女をこんなに焦らせる理由は家まで送ると申し出てくれたレオを待たせてしまっている為である
いつもの調子で没頭してしまったという反省が後ろをついて歩いてきているようだ
「レオくん…?仕事終わったよ?」
「ちょっと待って、あともうちょっとで終わるから!」
人気が薄くなったフロアに休憩ルームから溢れるメロディが良く響く事が幸いし、すぐさまレオを見つけるに至る
すぐ終わると言った旨の発言通り、五線譜上を走る筆記音の速度が増す。自分が待たせてしまっている間に生み出され、乱雑に床に散らばった楽譜を花音が全て回収しきるのと同時、出来たと完成にあがる歓声が重なり合った
「新曲の譜面?」
「ううん、これは『Knights』の新入り達に作った練習曲
花音を待っている間に霊感が沸いて来たから、作ってみた!」
「────」
「ん?花音?どうかした?」
「あ、えっと…!な、何でもないよ」
どこかぎこちなさすらも感じられる花音の反応に、どうした事かとレオは純真に首を傾けた
いつもの彼女であれば、作った曲にすぐ感想を述べてくれるというのに今夜はその一切がなかったからだ
レオが反応の鈍さへ引っ掛かりを覚えたと気付いたのか、それとも遅い時間を気にしたのか早く帰ろうと促す花音に何のアクションも取れないまま、そこから日にちだけが過ぎ去っていった
「スオ~、新入り達の反応はどうだ?練習曲、喜んでくれてる?」
「ええ。先代の王であるレオさんが作ってくれたと聞き、より一層 練習に励んでくれていますよ」
「そっか!なら良かった~!安心した!」
「……ここだけの話、お姉様の一言が響いたというのも理由の一つへあげられるでしょうね」
「え、スオ~ってエスパー?
あの曲を作った時の花音の反応が微妙だったから、話を聞こうと思ってたんだよ」
あの夜に作り上げた練習曲は後日、目を通した『Knights』のメンバーも納得の出来であった。そしてどうやら曲を託した司の言葉を信じるに新入りの後輩達の反応も上々だったらしい
だからこそ花音が見せた微妙な、戸惑っているようにも見えた反応がレオの中でしこりを残して仕方なかったのだ。司がぽつりとこぼした言葉の中にその正体があると見たレオが身を乗り出せば、咳払いが一つ
「Esperではありません、ただの偶然です
レオさんの作った曲を配る際にお姉様が皆に宣言なさったのです」
──この歌を通して、皆さんの持っている輝きが更に増すように私も月永先輩も応援しています
だからこそどうか練習曲だからと言って、無下な扱いをしないでほしいんです
「……アイツがそんな事を?」
「花音お姉様の言葉もあり、皆が更に真摯に練習へ向き合うきっかけになったと私は考えています
きっとお姉様は『そんなことない』と否定されてしまうでしょうが」
自分と自分が作った曲を天秤にかけた過去、盤上でかつての仲間の死体を積み重ねるだけ重ねて転がる王の駒、目を覆いたくなる程の惨状を見ていた少女。その瞳が絶望の色に覆われる瞬間をレオもまた盤上から見ていた
プロデューサーを目指していた訳でもない、あの頃の花音に出来る事などたかが知れていた。そう言って誰も責めない代わりに彼女自身が自分を罰し続けた、きっと今もこれからも
新入り達への宣言も過去の過ちを二度は繰り返さない為に打った布石だろう、司に言われずとも花音から与えられる愛情の深さをレオは理解していた
「あ、レオくん!この前、作ってくれた練習曲。後輩の皆、凄く喜んでくれたよ
忙しいのに練習曲を作って貰えてありがとうって伝えてください、って後輩の子達から伝言預かったんだ」
「そっかそっか、喜んでくれたんだな!良かった!」
「それでね、その……レオくんに仕事の依頼があって」
「おれへの個人の依頼?」
「忙しいのは承知の上ですが、また練習曲をいくつか後輩の子達に作ってあげてくれませんか?
レオくんの曲だと尚更、気が引き締まるみたいで……『Knights』の専属プロデューサーとして依頼をさせてもらいたいんです」
真剣に、ユニットにとってより良い選択を取ろうとする眼差しがレオの持つパーソナルスペースを刺激する
キラキラとした偶像だけでなく、ドロドロとした現実を前に何度打ちひしがれながらも立ち上がる事を止めなかった瞳に思わずレオの目も眩しいものを見るように曲線を描く
「はは、溢れてきた霊感が消えちゃう前にカフェに急ぐぞ~!
おれはどこでもいいんだけど、花音が手持無沙汰になっちゃうからな!」
「わ、ちょ…っ!いきなり手を引っ張ると危ないから…!」
キラキラと輝く音楽でいっぱいにするといった約束を果たせたとは未だ言い切れない
今から生み出される音符も約束の途中に過ぎず、果てしなさを前に途方に暮れる所であってもレオは笑う。二人一緒なら夜明けもすぐそこだと知っていたから。