SS-enst(1)
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「こら、レオくん!」
──廊下で作曲し始めたおれを怒る、少しだけ強張った声
「レ、レオくん…っ!やった、やったね…!」
スオ~が新しい『王さま』になってから初めて出した曲が、ヒットして感激に震える声
怒って、泣いて、笑って──いつも忙しそうに”音”をおれに与えてくれるおまえ
「──だいすきだよ、レオくん」
ああ、だけどやっぱり一番好きな”音”はその短いフレーズに全部詰まってる
「はい!」
「…えっと、これは…楽譜に見えるんだけど…」
「楽譜以外に見えるか~?
ははっ、また徹夜続きなら無理やり仮眠室に引きずり込むぞ!」
「そ、それだけは勘弁して…!この前、皆でやったばかりでしょ?!」
あれはそう、仕事に集中するが余り、人間が持つ三大欲求全てを放り捨てた花音に発生した悲劇であり同時に天罰でもある
ESビル内を引きずり回され、顔見知りのアイドル達に同情の目を注がれた彼女は放り込まれた仮眠室内の枕を涙で濡らすのであった
過去に眠らせる事も出来ていない羞恥心から上ずる花音の声さえも楽しんでいる様子で笑うレオから渡された、まだ真新しい楽譜
2枚余りのそれはユニットで歌うものとしては些か音符の数が少ないように花音は感じてしまう
「これ、Knightsの新曲に使うの?」
「花音の声で沸いてきた霊感で作ったんだ!いわば『花音の為に捧げる歌』だな!
…って説明の前に妄想くらい働かせろ!細胞を活性化させろ、宇宙の声を聞け!聞いて得た答えだけで完結させるな!」
「ご、ごめんなさい?でも今日はヴァイオリン持ってきてないから、明日弾いてみるね」
「え?」
「…え?」
どういう事かとレオは花音の言葉に、そして花音はレオの不思議そうに半音上がった声に首を傾げた
自分の為に作ってくれた音楽ならばそういう意味ではないのか、不思議に思う花音の脳内でもう1つの可能性が浮上するがそれは違うだろうと彼女は早々に思考を閉ざす
そうして思考の向こう側に閉ざされた1つの可能性を、花音の手を握りしめたレオが掴みとって笑うのだ
「別にヴァイオリンは必要ないだろ~?
おまえの声を聞かせてくれ!花音の声でこの歌を完成させて!」
「へ?!い、いやそれは~…その…!
レオくんに聞かせる歌声は持ってないというか…ですね?」
「スタジオなら借りてるから行くぞ~!スオ~に頼んでてよかった!」
「レオくん!今日だけは私の話を聞いて~!」
いつかの時に見た光景をなぞり、到着したスタジオ内である少女の歌声が天才の彼を包み込む
作ってもらった曲は恥じる箇所が見あたらない程、花音の好きな音楽だ。大好きなレオが作った歌を、自分の声のせいで魅力を半減させているのではないか、不安でしかない
「…♪」
不安に思いながら、見上げた先でもしも不機嫌な顔をレオがしていたらどうしよう──そう危惧していた花音の感情を吹き飛ばす笑顔が、そこにはあった
一瞬、音を切ったけれど音の海にいる彼には触れない些細な事だったようで、レオは花音の歌声に合わせて指を動かしたり、波に乗ったりと聞き入ってくれている。笑って、くれている
「(やっぱりレオくんの歌は、レオくんを含めた皆を幸せにするものなんだね)」
音楽は誰かを傷付けるものなんかじゃない、誰かを幸せにする為であってほしいという祈りから紡いできた自分の想い、祈りは間違いではなかったのだと許容してもらえた気がした
だってさっきまで不安で仕方なかった自分も、レオも気が付けば笑っていられるのだから
「ねえ、レオくんの作る歌はやっぱり、?!」
最後の一音まで余すことなく歌い切り、余韻に浸る花音を見つめるペリドット色の瞳がこんなにも近い
ごくん、歌の代わりに最後まで言い切れなかった言葉を呑み込んだのは、果たしてどちらか
「…ごめん。花音の声が好きすぎて、食べたくなっちゃった」
唇が離れた頃、切れ長に整った目がギラギラと心臓に悪い瞳を放つ
悪いと言いながらも悪びれた様子もなく笑うレオの前、花音は何の反応も出来ないままに彼に身を委ねるしかなくなった。