SS-enst(1)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「斑先輩、大変お世話をかけました……」
「不幸中の幸いで大事に至らなくて何よりだが、今度から気を付けるように!ママとの約束だ!」
「あはは…でもあの場に斑先輩がいらっしゃって、本当に良かったです
私、自覚症状がなくて……って先輩、良く気がつかれましたね?」
「なに、花音さんを引きずり込んだ手前、ちゃんと見ているだけだぞお
レオさんに連絡を取りたいんだが、スマホを貸してもらってもいいか?」
「?はい、えっとちょっと待ってくださいね」
様子を見守る斑の視線に促される中、傍に置いてあった鞄から飾り気のない携帯機器を取り出す
鞄の底から取り出されたそれを花音から受け取り、医務室の外で電話をかける斑。一枚の扉を隔てた廊下側から微かに話し声が聞こえてくる、どうやら無事にレオと連絡が取れているようだと人知れず安堵の想いが漏れる
一呼吸置いたからなのか、花音の心の空白へ新たな疑問がスライドしてきた
何故、レオと連絡を取るのに自分の携帯からでなければならなかったのだろう
医務室に電話を取ってくれた際、斑が自分の携帯を使用していたのは目にしたので忘れたという理由からではないだろうし──思考に潜るのを留めるように、斑が戻ってきた
「丁度、今からオフだったみたいでなあ、今から君を迎えに来てくれるそうだ」
「あの、どうして私のスマホから電話を?先輩もスマホ、お持ちでしたよね?」
「確かに持ってはいるんだが…緊急事態のこの場合は、花音さんのスマホじゃなきゃいけなかったんだ」
考えても埒が明かないのであれば、この場にいる斑に聞くまでと口を開いた疑問は更なる問題で積み上げられてしまった
ならばと先に解答が出ている、『解決済み』の問題だけでも帰り支度を始めている斑に持っていってほしいと花音は切り替える。何かと忙しい彼を引き留めるのは申し訳ないが、これだけはここで持ち帰ってほしいものなのだ
「そろそろレオさんも来る頃だろうし、俺は行こう
花音さん、お大事になあ!」
「ほ、本当にありがとうございました…!その、斑先輩」
「ん?」
「……私がプロデューサーになると決めたのは斑先輩や他の人に押し付けられたとかじゃなく
全部私が悩んで、考えて決めた事です。私、今、楽しいですよ」
どうしても聞き逃せなかった、自分がここへ引きずり込んでしまったという罪悪感の塊
元々、志していたヴァイオリニストを目指し続ける・プロデューサーになるという二つの分岐路に立った時、プロデューサーになる、レオの帰って来る場所である『Knights』を守る、そう決めたのは花音自身
──それは他の誰かから押し付けられたものでも、強要されたものでもない結論
悩み抜いて、見つけた青春という結晶。それを大切に抱え、日々磨きながらここにいる自分を花音は誇らしく思っている
それなのに斑や、昔では瀬名は夢を諦めさせてしまったと優しさ故に自責の念に囚われていた
輝かせるべきアイドルを曇らせてはプロデューサー失格、だからこの時に花音は言葉にする必要があった、安心、させたかったのだ
「ああ、一ついい事を教えてあげよう
レオさんへの連絡にどうして花音さんのスマホを使ったのか。それはだな────」
▽▲▽
「──花音っ!」
「あ、レオくん」
「『あ』でも『レオくん』でもない!
もう大丈夫なのか?どこか痛かったりは?ああ、というか無理するな!って言ったのにまた無理したな~?!」
「落ち着い…!落ち着いて、レオくん!」
「大事な彼女が倒れたっていうのに落ち着けるか!花音からの電話だ~って思って取ったら、何故かママだし!
しかもおまえが倒れたって言われるし!傍にいられなかった悔しさとか、その他諸々でどうにかなりそうだ!」
斑と入れ替わる形で飛び込んできたレオのマシンガントークによって、医務室の中で保たれていた静寂が一気に崩れ去る
一報を受けた彼の焦りや心配は本当のものなのだろう。畳みかけるような言葉に圧倒されつつ、ぎゅうぎゅうとレオの方へ押し込まれる如き、抱擁の中にレオの心中を察する事が出来る
「……もう、どうにもないんだな?」
「うん、大丈夫。本当に本当だよ」
「ならいいけど……本当に無茶しないでくれ
夢中になる気持ちはわかるし、おれ達の為を想っての行動だからっていうのも分かる
でも『Knights』を大事にするように花音も自分の事、大事にしてほしい」
「……うん、ごめんね。それからありがとう、レオくん」
「ここの所、休みなしだったし、帰ってゆっくりするぞ~!
花音にあげる『頑張ってくれてありがとうの歌』もさっき出来たんだ!」
「ふふ、それは楽しみだなあ」
──ふと花音の実家で休息する中、脳裏に言葉が過った
それはESビルの医務室を退室する間際、己の罪悪感を払った言葉への謝礼のようなもの
ベットで横になる自分の傍で安心して沸いてきたと言っていた霊感の赴くまま、五線譜にペンを走らせるレオに花音は言葉を投げかけた
「あの、レオくん…?一つ聞いてもいい?」
「ん?なんだ~?」
「レオくんのスマホ、私の着信音だけ違うのって本当?」
「…………」
「あ…!ち、違うならいいの!自惚れちゃってごめんね?!恥ずかしいや」
「自惚れていいよ」
「え、あ、」
ハミングのような言葉の明るさはなりを潜め、瞬間 彼は騎士に変化する
月永レオのこの切り替わりに花音はまだ慣れず、彼を見つめる事しか出来なくなってしまう。心臓を抑える彼女の言葉にペリドットを模した瞳が色を増した
「今日の事で思った、やっぱり花音の着信音だけ変えてて正解だったって」
何かあった時、すぐに駆けつけられるからな
自惚れでも何でもない真実を語る瞳は、唇は、表情は愛情を込め、一身に花音へと注がれていた。
11/11ページ