#3 Coward left foot he froze
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「じゃあ、お爺ちゃん、お婆ちゃん、行ってくるね」
「気をつけて行って来るんだよ」
「ヘマするんじゃないぞ、全く…」
月日の流れというのは早いもので、町の探索や始めたバイトの内容を覚えている内に高校の入学式まで済んでしまった。現在4月11日の夕方、灰音はバイトに赴く所である
そのバイトを快く思っていない様子を隠そうともしない祖父に灰音は思わず、彼の見ていない所で苦笑。バイトに出なくても孫一人くらい、養えるのにというのが一鉄の見解なのだろうか
「灰音ちゃん、雨が降って来てるから傘を持っておいき」
「あ、降り始めちゃったか……了解っす」
タイミング悪く降り出した雨に灰音は心底嫌そうに表情を歪めた。ここの所の連日の雨は人々に大きな痛手を与えていた、この雨で懐が潤っているのはデリバリー店だけかもしれない
こうも雨が続くと最近、ちらほらと見る事が多くなった桜の蕾も落ちてしまうだろうな、とこの空模様に意気消沈した灰音の表情が傘の影に隠れる
「灰音おねえちゃん!」
「菜々子ちゃん?」
車から降りて来たばかりの少女の呼び掛けが灰音を引き止めた、一緒に買い物をした日から少女ー菜々子は灰音を随分と慕ってくれる様になったと思われる
かく言う灰音も菜々子と親睦を深める内に随分と彼女にいれ込む様になっていた、それは菜々子の親である堂島や祖父母から過保護だと言われる程に
さて車から菜々子が出てきたという事はいつも不在の時が多い堂島がいるという証拠、少し挨拶していこうと彼が出てくるのを待っていた灰音は思わず瞳を瞬かせる。一人、多いのだ
「こんにちはー、堂島さん」
「おう、灰音か。何だ、今から出かけるのか?」
「今からバイトで。……そちらは?」
「あ…」
灰音の視線が自分に向かった事で見知らぬ人物の肩がびくつく
見た所、というか確実に灰音よりも年上な男子が自分が見ただけで緊張している。対人恐怖症だろうか、それとも自分の目つきが悪かったかと灰音は思考を巡らせた
「ああ、甥の悠だ。両親の都合で今日から1年こっちで暮らす事になった
悠、こいつも先月こっちに越してきたばっかでな、まあこいつの場合は高校進学の為の移住なんだが」
「神楽坂 灰音です、はじめまして」
「鳴上悠です、よろしく」
「高校に通うって事は……何年生に?」
「え?二年、だけど」
「じゃあ鳴上センパイっすね」
そう言うと灰音は長財布を取り出し、そこから買い物券一枚を悠へ手渡した。反射的に受けとったものの、何故買い物券をと悠は困惑気味だ
これから何かと入り用になる際、こういうのが一枚でもあったら楽であるとこの一ヶ月で灰音が学んだ教訓がその券に詰め込まれている様だった
「えっと、これは…」
「お近付きの印って事で一つ、お隣さんだから仲良くしてください
ここって確かに何もない所っすけど、空気も澄んでておいしいし、人も良い人達ばっかで結構、住めば都っすよ」
ゆったりとした口調は元々、彼女がこの町で生まれ育ったかの様な誤認を生み出す、それ程に都会からやって来たとされる灰音は町の空気に溶け込んでいたのだ
こんな風に接してもらった記憶が希薄な悠は彼女の心遣いは新鮮で、どうにも心がむず痒くて対処の術が不明だ。言葉がなくなった間にそれまで黙っていた菜々子が怖ず怖ずと現実へ引き戻す
「お姉ちゃん、時間大丈夫?」
「へ?あ、やば。間に合うかな…」
「送って行ってやろうか、今からじゃ間に合わんだろう」
「いやでも、折角の休みじゃないっすか」
「子供が気を使うな」
滅多に休みが取れないのだから、その分、いつも寂しい思いをしている菜々子といて欲しいと思ったのだが堂島はさっさと車に乗り込み、エンジンをかけてしまった
気遣いを嬉しく思う一方、菜々子への申し訳なさに苛まれる灰音の背中を押したのは菜々子のいってらっしゃい、という言葉。そんな言葉を貰ったら、気遣いを無下に出来る訳が無かった
「行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい」
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