#8 She says, is the chaos this
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《皆様、こんばんは。本日は性別の壁を越え、崇高な愛を求める人々が集うある施設をご紹介しま~す
レポーターはこのボク、ん~まっ!》
やけに声を高くしようと無理をした男の声が耳を突く、音声と共に放送された映像は予期せざる驚愕のものに加工されている
この放送を見ている視聴者へ熱い投げキスを送る"彼"は不良という外見を全て取っ払い、ふんどし一丁――男らしさなど、その姿に一欠片も残されていなかった
《巽完二くんどぅえす!》
「……………あ…アッー!」
多感なお年頃、加えて女子という性別が灰音にその映像への拒絶反応を起こさせた
……これはいけない、これは全国放送出来ないレベル。完璧なる放送事故に灰音の精神はここで使い果たした、それでもテレビは放送を続ける
《あ~ん。暑い…暑いよぉ…こんなに暑くなっちゃったボクの体…どうしたらいいの?
んもぅ、こうなったら…もっと奥まで…突☆入!しちゃいまーす!》
くねくね、と完二が体を動かす度に放出される薔薇がテレビという枠を超え、自分の頭にぶつかってくる様で灰音に追い打ちをかける。この疲労感は決して昨日のフルマラソンの影響ではない、断じてない
雪子の時よりもインパクトが強すぎる映像に圧倒されている間に完二の姿は暗闇の中へ消えていた、いつの間にかマヨナカテレビの放送が終わっていたらしい
二度目の放送が行われる前に完二を救出しなければ、これを二度見るとなるとこちらが保たない…辛うじてそんな目的を見出す灰音の懐に忍ばせておいた携帯が彼女の口を開かせる状況を作り出す
「はい…」
『灰音ちゃん…見た?』
「ばっちりと」
「『……』」
どうやら、電話の主である千枝もばっちりと今の番組を見てしまったらしい。否、寧ろ自分達の中で見ていない人物はいない筈だ。そうなると悠も雪子も陽介も…
皆、どんな思いでこれを見たというのだろう。陽介辺りは黙ってなさそうなものだが、悠辺りに連絡が行っている気がする
『え、えーっと…も、もう寝ちゃおう!うん、それがいいよ!』
「…夢にまでアレが出てきた時は逃げ道ないっすよね」
『そ、それは勘弁して…』
翌日の18日、灰音達の姿はテレビの世界にあった。灰音にとってはこれが二回目の訪問となる、辺りへ配る視界には特に気が重そうな男性陣の表情が飛び込む
それもこれも昨夜のマヨナカテレビのあの放送が原因だろう、完二と同性という事もあって身の危険を感じているのだろうが…視界を潰す霧の深さに灰音は顔を顰めた
「本当、こっちは霧が凄いっすね」
「あ、そっか。神楽坂はまだメガネ貰ってないんだっけか」
「メガネ?あれ…センパイ達、いつの間にメガネつけたんすか?」
視界の隅という隅を埋め尽くす深い霧に目を奪われている間にちゃっかりと陽介達は眼鏡をかけていた。外ではかけていなかった、かけた所を見た事がない為に視力が悪いという訳ではないと思われる
だとしたら、こちらの世界だけでしかかけていないという事になる。けれど眼鏡とこの世界の関係性が見通せずに二重の疑問の重さに、灰音の首が傾く
「クマが作ってくれたこのメガネがこっちじゃ必需品っていうか…」
「クマ?」
「はいはーい!クマの事を誰か呼んだクマ?」
「着ぐる、み…」
「君がセンセイ達が言ってた灰音チャンクマね?クマ、君が最初にこっちに来た時に会ったクマよ。覚えてないクマ?」
「……あ、もしかしてあの時の足音って君だったの?」
この世界では特に奇抜な着ぐるみ風の姿に見覚えはなかったが、その足音には聞き覚えがある。あれは4月、雪子がマヨナカテレビにいれられた時の単独行動時の記憶
単独でこちらにやって来た為、気が張っていた灰音は自分に近付く気配と音に逃げ出してしまったのだ。そうか、あの時の影はこの着ぐるみだったのか
「そうクマ!灰音チャン、あの時はどっか行っちゃったけどまたこうして会えるなんて…これって運命クマ?灰音チャンとクマは赤い糸で繋がってるクマ?」
「それはない」
「お前がその時、コイツを引き止めてたら怪我しなくて済んだんだけどな」
「うぅ…センセイ達、酷いクマー…」
「いや、あれは私の正真正銘、自業自得だと思うんですけど」
あの時の怪我や失態は他ならぬ、自分の行動が招いた事でそれを誰かのせいにと押しつけるつもりはない。そう考えているからこそ、灰音は悠や陽介の言葉に反論せざるにはいられず
それにしても、何故そこまで熱くなっているのか。今の今まで自分とクマの初めての顔合わせを見守っていたのに、と灰音は新たな疑問に頭を悩ませる
「ほら、早くメガネ出してやれ」
「あ、そうクマね!ほい、灰音チャンにプレゼントクマよー!クマお手製クマ!」
「あ、ありがとう」
陽介に促され、クマから受けとったのは藍色のハーフリムフレームのオーパルタイプの眼鏡。それをかけ、なるほどと陽介が必需品といった意味を理解する
早速、と悠達に倣って灰音もクマ特性の眼鏡をかける。するとどうだろう、今まであんなに霧がかっていた視野はクリアに晴れ渡り、世界の端まで見渡せる様だ
She says, is the chaos this
(くるくる、どたどたと)
(慌ただしく1日が駆け巡る)