#7 Pieces that was missing in the hands of lost
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「しっかし弁当作れるとか、マジ凄ぇな!里中より、よっぽど器用なんじゃね?」
「待てコラ…!今何で料理出来ないって決めつけた?!」
「センパイ、菜々子ちゃんの前で喧嘩は…」
「えっ、できるの?」
「できるのか?」
どうどう、と蒔かれた火種を何とか消化しようとするのはこの場では灰音だけ。他の悠と雪子はそう刺激を加える、彼らに悪気はないのだが加勢に回って欲しかった所だ
けれど、千枝の親友である雪子でさえも親友が料理が出来る事を驚く所を見ると少々怪しい。それに気付きながらも後には退けない千枝は進むしかない
「そんなん言うなら、勝負しようじゃん」
「いいね~勝負!」
「えっ」
「だったら、審査員は菜々子ちゃんかな~」
「?え?」
「私も参加するの?」
てっきりそこまでしなくても、と一蹴されると思っての宣言を想定外にも乗って来た陽介に千枝は的が外れたという様に汗が噴出する。先程までの憤怒よりもまだ冷たい汗が思考をクールダウンさせる
菜々子をも巻き込んで、トントン拍子に話が大きくなるのを止める事が出来ない千枝を横目に審査員も決まってしまい、話はどんどん加速し現実味を帯びて行く
「センパイ達、ファイトっす」
「何言ってんだよ、神楽坂も強制参加決定だかんな」
「えー…」
「この人等、菜々子ちゃんのママより美味いの作れっかなー」
「「!」」
「お母さん、いないんだ。事故で死んだって」
慣れた様子で母親が死んだ事を口にすると菜々子は口直しにストローを吸う。物心つく前に亡くなったからか、母親という存在に執着がない様な口ぶり。それが逆に寂しさを駆り立てていた
それまでは少なからず盛り上がっていた場はしん、と静まり返る。知らなかった事とはいえ、菜々子に母親の死を口にさせた罪悪感から言葉が出ない、取り返しのつかない事をしてしまったと思わざるを得なかった
「そ、そっか…えっと………ごめん」
「ううん。菜々子、平気だよ?お母さんいなくても菜々子にはお父さんと灰音お姉ちゃんいるし…お、お兄ちゃんがいるし…」
「…!」
まるで無地の花がほのかに赤く染まる様に頬を赤らめさせ、菜々子は小声で確かに言った。悠の事を『お兄ちゃん』と
4月から一緒に過ごしていた中で今日初めて呼ばれた呼称に悠も微かに驚きに目を見開く。けれど決して悪い気ではなかった、寧ろやっと菜々子に家族と認識された様で嬉しかった
「今日はジュネスに来れたし、凄い楽しいよ!」
「菜々子ちゃん!お姉ちゃん達、いつでも遊ぶからね!」
「うん…!遊ぼうっ」
「…菜々子ちゃん。今日は目一杯、お兄ちゃん達と遊んでもらうんだよー」
「うんっ、ありがとう!」
母親がいない境遇を知ったからこそ、この場が楽しいと笑顔で言われた嬉しさは一入だ。その笑顔の価値は陽介達の中で上昇するばかり
いつもの様に気を使うでもなく、菜々子が本来の笑顔でリラックス出来る環境が出来て良かった、と千枝達と談笑する菜々子を見て安堵する灰音と悠の心境は一つに繋がっていた
「花村のやつ…勉強会やろうって言っといて、寝てるし」
昨日で短かった連休は終わり、フードコートに集まった灰音達は3日後に迫った中間試験に向け、最後の追い上げとして試験勉強に励んでいた
提案者は陽介なのだが、その本人は千枝の視線の先でノートと教科書を開き、形だけは試験勉強の形を取って早々に眠ってしまった。その姿は辛うじて反面教師として灰音達を勉強に向かわせるには役立ってはいた
けれどこの場は灰音にとって、少々居心地が悪い。2年の勉強会に1年の自分が混じるなんて場違いにも程がある、緊張するなと言われる方が無理な話だ
「というか、私もご一緒してよかったんすか?」
「いいんじゃないかな?灰音ちゃんのやってる所を見てると復習にもなるし…
何か分からない所があったら、いつでも言って?教えるのも勉強になるから」
「……あり、がとうございます、天城センパイ」
どうにも親切にされるのは苦手だと灰音は思う。その好意にどう返せばいいか分からなくて、いつもの自分でいられなくなる。甘え下手と言われれば、そうなのかもしれない
都会の人達が人に無関心だとすれば、こちらの人達は人に親切すぎる。この温度差に灰音はまだ慣れていなかった、無気力よりの性格だから彼らに共感出来ないだけかもだが
「灰音、ここ違う」
「え?マジっすか」
「ここのはこっちで…」
ペースを乱された事で勉強の方にも支障が来されたのか、自分が知らない間に書いた間違いを対面にいる悠が見つけていた。上半身を机の上に乗り出し、彼は灰音のノートに間違いを訂正する
男性にしては綺麗な字だな、と集中する灰音は自分の顔と悠の距離が近い事に気付かない。ちなみにこれが普通の女子なら意識する所である
「そういえば…ゴールデン・ウィーク中は何も起こらなかったね、事件」
「お?!何々?その話、しちゃう?」
「うわ、急に目に生気が戻ったよ…」
目の前で仲間が勉強をしてもお構いなしだったというのに、事件の話になった途端に目を覚ました陽介の図々しさには千枝も呆れ顔。彼にとっては勉強よりも事件が優先だと分かる反応速度だ
「いい顔だ」
「だろ?ってお前ら、近過ぎ!離れろ離れろ!」
「ああ…折角、答え教えて貰おうとしたのに」
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