#7 Pieces that was missing in the hands of lost
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ない……ない…」
稲羽市で連続して起こる事件を解決する為、悠達と共に戦う事となった灰音。関わりたくないと言いながらも同時に放っておけないという意志証明から、まだ1日しか経っていなかった
そんな彼女は一体何を「ない」と連呼しているのか。ひたすらにその言葉をぶつぶつと呟く姿に加え、廊下に膝をつき、手を探っているもので周囲からは珍獣を見るかの様な視線が痛い程に注がれる
「ここに落としたと思ったんだけどなぁ…違う所なのかな」
床に沿っていた手を上げた掌は真っ黒に変化していた、その汚れは灰音が何箇所にも渡ってこの行動を起こしたという証でもある。そうまでして見つけようとするものをここで忘れる事も出来ない
まだ諦め切れずに捜索範囲を広げようと動き出した頭は途端に障害物に衝突、これはもう神様が諦めろと言っているのかと訝しむ程のタイミングの良さ。しかも痛い
棒か何かに相当する障害物は密度ある足だった。足から伸びるラインを辿って見上げてみると小柄な彼女を大きく上回るガタイの良い男子生徒が眉間に皺を刻んで、ぶつかってきた灰音を見下ろしていた
「あれ、巽完二じゃない…?」
「え!あの暴走族を潰したっていう…?!」
「だ、誰か助けてやれよ…じゃなきゃ、あの子…」
ぶつかった、ぶつかられた本人同士が騒ぐのは筋が通っているものの、この状況下では何故か周囲の人間達の方が慌てふためいている。しまいには顔色を青く変化する人間が出る始末
何もやっていないというのに存在するだけで一方的に悪役に仕立て上げられる雰囲気間に居心地が悪くなったのか、巽完二は溜息をつき、灰音に悪態をつく訳でもなく立ち去ろうと踵を返し…後ろへ引き込まれた
「んだ、ごらぁ!」
「ここでマスコットキーホルダーみたいなの見なかったかなって。猫のマスコットなんだけど…」
ずっと探してるんだけど見つからなくて、と怒号に怯んだ様子も見せない灰音は自分がぶつかって来たのに見過ごしてくれた彼が周りの言う様な人間ではない、と想定し、あくまで我を通す
それと突如として上着を引っ張るのは別の話なのだが。周囲の人間達は先程までの喧騒が嘘の様に静まり返り、固唾を呑んで二人を見守っている。こう注目されるのもある意味ではいい迷惑でもある
「…知らねぇよ」
上着の裾を掴んだままにした灰音の手を振りほどき、完二は今度こそ立ち去る。彼がいなくなった事により空気は緩和され、周囲からは次々と安堵の息が漏れ出す
一瞬、マスコットという単語に反応した様に見えたので、彼が何か知っているものと思ったが思い過ごしだった様だと灰音は肩を落とす。結局、何の手がかりも得られないままにその日の捜索活動は幕を閉じたのだった
「悪いな、神楽坂。シフト入れてない日に来てもらってさ」
「大丈夫っすよ。今年のゴールデン・ウィークは時間が有り余ってたんで、丁度よかったです」
世間一般的に言うゴールデン・ウィークの初日に当たる3日。本来なら喜ぶべき連休だが、八十神高校はそうはいかない。この休みの後には中間試験が待ち受けており、うかうかとはしていられないのである
灰音もそれを分かっていた為にこの休日は中間試験用の勉強に時間を宛てようと思っていたが、彼女の姿はジュネスにあった。大型連休のせいで悲鳴を上げるジュネスから緊急召集を受けたのだ
「でもどっか出かける予定とか出来てたんじゃねぇの?」
「んー…そうかもですけど、お爺ちゃんもお婆ちゃんも歳っすからねー…だから無理してほしくないというか
だからこの前、倒れたっていう口実を使ってゆっくりしたい、って言った所なんです」
「ふーん…あ、親御さんは?確か都会の方に残ってんだろ?こっち来たりとかするんじゃねぇのか?」
「……仕事忙しいみたいなんで、そっちの線は薄いかな、なんて」
「そっか…」
こちらへ来て、初めての大型連休を初日から潰してしまった事を重く受け止める陽介は灰音の返答に少々思う所はあったものの、口を噤んでしまう。家族間の話に深入りするのもお節介だろうと遠慮したのだ
彼女とこうやって一緒に過ごす時間が多くなって数ヶ月。分かった事といえば、この後輩は人に気を使い過ぎる性格だという事、そして隠し事が多いという事くらいか
以前、会った灰音の祖父母はこちらが羨ましくなる程に理想的だった事を覚えている。その二人も孫が甘えてくれる方が嬉しいのではないか、と陽介はつい灰音の気遣いに不満を抱いてしまう
どうしてそこまで肩に力をいれるのか。祖父母にも、そして自分にも――彼女がそこまで頑なになる理由が胸の内に隠されている以上、何も出来ずに歯痒く思うしかなかった
「へい、ビフテキいっちょー!」
「お待たせしましたー」
「わあ…!おいしそう!」
「遅いよ、もうっ」
.