硝子越しのマリアへ
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自分の過去、そして草薙の弟に関する情報を得る為に遊作が接触を図ろうとしていた財前葵は部活動が終わると直ぐに部室を後にした
その様子を背後から追跡している遊作から見るに、どうやら帰宅する様子ではない事だけは分かった。彼女がこんなに急ぐ理由としてはやはり兄である晃と会う約束があると考えるのが妥当だと思ったのだが…
《ここって病院だよな?あの子、怪我か病気でもしてるのか〜?》
Aiが言う様に葵が入っていった総合病院は街中に多数ある病院の内の一つで、特段珍しい場所でも何でもない
だがこの病院はあの日、こんな夕暮れに病院の白い壁面がオレンジに塗りつぶされる時間、自分―遊作があの少女に出会った場所でもあった。そんな場所に何故、葵が
一度、中庭の方を見た遊作は葵の背中が視界から消えない内に彼女を追いかけ、葵が下りた階のランプを頼りにエレベーターに乗り込んだ。6階立ての5階に存在する病室、そこに葵は用事がある様だ
「椎名、綾乃…?」
病室はどうやら個室の様で、その名前しか記されていないネームプレートの文字を遊作は読み上げた
どうやら中にいる葵に「綾乃」と呼ばれる存在にその声は聞こえなかった様で、遊作の存在にも気付かずに「綾乃」は見舞客である葵を快く迎え入れる
「おかえりなさい、葵ちゃん」
「だから、いつからここは貴女の家になったの?」
「ふふ、ごめんね?」
くすくす、と耳を少女のくすぐる様な笑い声が妙にくすぐったく、だが心地良かった
「綾乃」と談笑する葵は学校にいる間の葵とは違い、良く笑顔を見せている様に見えた。「綾乃」と呼ばれる少女に心を許している証拠だろう。その事実に驚いたが、もっと他に驚く事が遊作を待っていた
《あれ!あの子ってお前が前に穴が空くほど見つめてた子じゃん!》
「黙れ。…聞こえたら、こっちの追跡がバレる」
《へいへい…》
ストーカーって事は認めるんだな、というAiに目をやれないが、こちらをじとりと見上げている事だろう
そう、「綾乃」と葵に呼ばれる少女のシルエットはあの日、遊作が一方的に見つめていた少女のものに違いなかったのだ。だが今日も「綾乃」は遊作の存在に気付かない、その事に知らず、遊作は掌に爪を立てる様に拳を作っていた
帰り道が暗くなって危ない、という理由で帰る様に促された葵の背中を見送り、遊作は迷っていた。葵を追いかけるのが本当なのだろうが、それにしては足がここから動かないのだ
「あの、」
「!」
「もし良かったら、中にどうぞ」
《どうする?遊作》
どうする?そうAiに聞かれたが、言葉にせずとも決まっている。理由なく遊作の止まっていたままの足は一瞬の躊躇いを見せた後、病室の中へと進んでいた
一つの汚れのない清潔な色のカーテンをなびかせようと入ってくる風と共に差し込む夕焼けが、あの日の様に「綾乃」を照らし出していた。一つ違うのは、少女の金色の瞳が遊作をちゃんと映していたこと
「いつから気付いてた?」
「葵ちゃん…私の幼馴染みが入ってきた時から、かな」
《殆ど最初からじゃん!》
「ふふ、元気なAIだね
嬉しいなぁ、葵ちゃんや家族以外のお客さんが来るのなんていつぶりだろう」
そう言って、先ほどの様に笑ってみせた綾乃。どうやら、遊作に部屋に入る様に進めたのは葵のストーカーかどうかを確かめるものの様だったらしい
確かに葵のストーカーだったなら、綾乃に見向きもせずに葵を追いかけていった事だろう。ある意味では遊作の選択は正しかったと言える。Aiがよかったな、と言う声が聞こえるが無視しておいた
そんな綾乃は遊作の目に映らない様にこっそりと自分の足をより深く隠す様に布団を引っ張った、その行動を見た遊作は彼女の周囲に目を動かし、一つの結論に至った
「足が動かないのか」
「…ただの怪我だよ」
「1つ―足を俺から隠したのは足にコンプレックスがあるから。2つ―傍にリハビリ用のロボットがある。3つ―そもそも怪我くらいでこんな個室を用意される筈がない」
「あはは、当たり」
嘘をついてごめんなさい、と苦笑する綾乃に遊作はそれ以上は何も聞かなかった。後からこの話を傍で聞いていたAiからデリカシーがないと非難される事になる
怪我だ、ととっさについた綾乃の嘘から彼女は何かしらの病気で、それもつい最近患って、足が不自由になったのだと頭のいい遊作には察しがついた。分かっていながら聞くなんて、それこそデリカシーがないだろう
「変な話、今の私の状態は幽霊みたいなものなの」
「幽霊?」
「そう。足が地についてる実感がなくて、ずっとふわふわ浮いてる…ね?幽霊でしょ?」
「…アンタに良く似た奴を知ってる。ソイツは誰よりも世界を楽しんでる癖に、実態がない。それがアンタの言う幽霊ならそうかもしれない
けどそれでも目の前の現実から逃げようとしなかった、アンタも足が動かない状況から本質では目を反らしていない。そんなの、死んだことから目を背けている幽霊とは言えない」
その言葉に、息を呑む音が聞こえた気がした
すっかり太陽が地平線の向こう側に沈んだ頃、遊作は面会時間が過ぎたという事で半ば看護師に病室を追い出された
あの後、会話らしいものはなかった。綾乃が話す内容をただ遊作が聞いていただけで彼女は聞き上手だね、と嬉しそうに笑った。そうじゃない、自分は葵の情報を得る為に利用しただけだ。それなのに、
『また来てくれたら嬉しいな、その時には名前を教えてね』
「もう知ってる。…椎名、綾乃」
見上げた月はまだ欠けたまま、
(未だ満ちない月は、自分の過去)
(彼女のまだ見えない全貌を映し出す)
その様子を背後から追跡している遊作から見るに、どうやら帰宅する様子ではない事だけは分かった。彼女がこんなに急ぐ理由としてはやはり兄である晃と会う約束があると考えるのが妥当だと思ったのだが…
《ここって病院だよな?あの子、怪我か病気でもしてるのか〜?》
Aiが言う様に葵が入っていった総合病院は街中に多数ある病院の内の一つで、特段珍しい場所でも何でもない
だがこの病院はあの日、こんな夕暮れに病院の白い壁面がオレンジに塗りつぶされる時間、自分―遊作があの少女に出会った場所でもあった。そんな場所に何故、葵が
一度、中庭の方を見た遊作は葵の背中が視界から消えない内に彼女を追いかけ、葵が下りた階のランプを頼りにエレベーターに乗り込んだ。6階立ての5階に存在する病室、そこに葵は用事がある様だ
「椎名、綾乃…?」
病室はどうやら個室の様で、その名前しか記されていないネームプレートの文字を遊作は読み上げた
どうやら中にいる葵に「綾乃」と呼ばれる存在にその声は聞こえなかった様で、遊作の存在にも気付かずに「綾乃」は見舞客である葵を快く迎え入れる
「おかえりなさい、葵ちゃん」
「だから、いつからここは貴女の家になったの?」
「ふふ、ごめんね?」
くすくす、と耳を少女のくすぐる様な笑い声が妙にくすぐったく、だが心地良かった
「綾乃」と談笑する葵は学校にいる間の葵とは違い、良く笑顔を見せている様に見えた。「綾乃」と呼ばれる少女に心を許している証拠だろう。その事実に驚いたが、もっと他に驚く事が遊作を待っていた
《あれ!あの子ってお前が前に穴が空くほど見つめてた子じゃん!》
「黙れ。…聞こえたら、こっちの追跡がバレる」
《へいへい…》
ストーカーって事は認めるんだな、というAiに目をやれないが、こちらをじとりと見上げている事だろう
そう、「綾乃」と葵に呼ばれる少女のシルエットはあの日、遊作が一方的に見つめていた少女のものに違いなかったのだ。だが今日も「綾乃」は遊作の存在に気付かない、その事に知らず、遊作は掌に爪を立てる様に拳を作っていた
帰り道が暗くなって危ない、という理由で帰る様に促された葵の背中を見送り、遊作は迷っていた。葵を追いかけるのが本当なのだろうが、それにしては足がここから動かないのだ
「あの、」
「!」
「もし良かったら、中にどうぞ」
《どうする?遊作》
どうする?そうAiに聞かれたが、言葉にせずとも決まっている。理由なく遊作の止まっていたままの足は一瞬の躊躇いを見せた後、病室の中へと進んでいた
一つの汚れのない清潔な色のカーテンをなびかせようと入ってくる風と共に差し込む夕焼けが、あの日の様に「綾乃」を照らし出していた。一つ違うのは、少女の金色の瞳が遊作をちゃんと映していたこと
「いつから気付いてた?」
「葵ちゃん…私の幼馴染みが入ってきた時から、かな」
《殆ど最初からじゃん!》
「ふふ、元気なAIだね
嬉しいなぁ、葵ちゃんや家族以外のお客さんが来るのなんていつぶりだろう」
そう言って、先ほどの様に笑ってみせた綾乃。どうやら、遊作に部屋に入る様に進めたのは葵のストーカーかどうかを確かめるものの様だったらしい
確かに葵のストーカーだったなら、綾乃に見向きもせずに葵を追いかけていった事だろう。ある意味では遊作の選択は正しかったと言える。Aiがよかったな、と言う声が聞こえるが無視しておいた
そんな綾乃は遊作の目に映らない様にこっそりと自分の足をより深く隠す様に布団を引っ張った、その行動を見た遊作は彼女の周囲に目を動かし、一つの結論に至った
「足が動かないのか」
「…ただの怪我だよ」
「1つ―足を俺から隠したのは足にコンプレックスがあるから。2つ―傍にリハビリ用のロボットがある。3つ―そもそも怪我くらいでこんな個室を用意される筈がない」
「あはは、当たり」
嘘をついてごめんなさい、と苦笑する綾乃に遊作はそれ以上は何も聞かなかった。後からこの話を傍で聞いていたAiからデリカシーがないと非難される事になる
怪我だ、ととっさについた綾乃の嘘から彼女は何かしらの病気で、それもつい最近患って、足が不自由になったのだと頭のいい遊作には察しがついた。分かっていながら聞くなんて、それこそデリカシーがないだろう
「変な話、今の私の状態は幽霊みたいなものなの」
「幽霊?」
「そう。足が地についてる実感がなくて、ずっとふわふわ浮いてる…ね?幽霊でしょ?」
「…アンタに良く似た奴を知ってる。ソイツは誰よりも世界を楽しんでる癖に、実態がない。それがアンタの言う幽霊ならそうかもしれない
けどそれでも目の前の現実から逃げようとしなかった、アンタも足が動かない状況から本質では目を反らしていない。そんなの、死んだことから目を背けている幽霊とは言えない」
その言葉に、息を呑む音が聞こえた気がした
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すっかり太陽が地平線の向こう側に沈んだ頃、遊作は面会時間が過ぎたという事で半ば看護師に病室を追い出された
あの後、会話らしいものはなかった。綾乃が話す内容をただ遊作が聞いていただけで彼女は聞き上手だね、と嬉しそうに笑った。そうじゃない、自分は葵の情報を得る為に利用しただけだ。それなのに、
『また来てくれたら嬉しいな、その時には名前を教えてね』
「もう知ってる。…椎名、綾乃」
見上げた月はまだ欠けたまま、
(未だ満ちない月は、自分の過去)
(彼女のまだ見えない全貌を映し出す)