TURN-017 かぶった灰すらも慈しむように抱く
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「椎名に決闘盤を返したい」
「今は夜中だから無理だが…明日にでも行ったらいいんじゃないか?」
「…何て返したらいいと思う?アイツがアナザー、パソージェンになったのは俺が余計な事をしたからだ」
「遊作…」
思った以上に遊作は綾乃がパソージェンになり、多くのプレイヤーをアナザー化させる原因になった事を深刻に捉えている様だ。無理もない、良い事と思って行動した事が悪い目に出てしまったのだ
けれど、パソージェン化した綾乃を救い、現実世界へ連れ戻したのも他ならぬ遊作だという事を草薙は忘れないでほしかった。それにあの子はそんな子じゃないと思うのが草薙の所感だが、果たして、
「そうだなぁ…じゃあ、お詫びにって何かお菓子でも持っていくのはどうだ?女の子はお菓子好きだろ!」
「……草薙さん、俺に菓子売り場に行けって言うのか?」
《メルヘンなお菓子売り場に遊作ちゃん~?ふ、ふふふー!全然似合わねー!》
「こら、Ai。俺が思っていても言わなかった事を…!くくっ…!」
「オイ」
瞳を細め、からかうのはよせと暗に訴えて来る遊作の頭に手を置き、手加減なしに撫でてやる
止めろ、という草薙の行動に戸惑う遊作は高校生、まだ高校生なのだ。復讐に手を染める、そんな彼に気になる女の子が出来た―そんな人並みの一面を遊作へ与えてくれた綾乃に草薙は感謝していた
「遊作くん、久しぶりだね」
「…これ」
「あ、私の…」
学校帰りと思わしき遊作の来訪は綾乃にとって久しぶりに感じられた、これはアナザーであった期間が短いにも関わらず長く感じる現象に良く似ている
そんな遊作からあの日、無理やりに奪われた決闘盤を返してもらった綾乃は嬉しそうに表情を綻ばせた。彼が決闘盤を手荒に扱う人ではないと信頼している様で、メンテナンスをする気はないらしい
やはり自分の決闘盤は代用品とは入れ込み具合が違うと知り、申し訳なさを感じる一方で綾乃があんな目にあってもまだ決闘が好きな事に人知れず安堵する
「それと…」
「…チョコレート?遊作くんが買って来てくれたの?気を使わなくていいのに…」
「いらないなら、捨ててくれ」
「そんな事しないよ!ありがとう、遊作くん」
デバートで買ったと思われる紙袋を大事そうに胸に抱き、綾乃は嬉しそうに微笑んだ
何でか、その笑顔を見ただけでAiにからかわれながら、お菓子売り場に集まっていた女性達からの好奇の眼差しに耐えた甲斐があった様に遊作は思った
「椎名、お前に忠告しておく事が3つある」
「…?」
「1つ―これ以上、プレイメーカーに近付きすぎるな。2つ―自分の力量以上の無理をするな。3つ―ハノイと関わるな」
「…あのね、遊作くん。私、アナザー…なのかな?それになってね、取り返しのつかない事を起こしてしまったの
その事に関して、どう罪滅ぼしをすればいいか分からなくて、目を覚ましてからずっと苦しかった」
知っている、という言葉は寸手の所で食い止め、遊作は綾乃の言葉の続きを待った
窓から射し込む夕日は強く、そちらに顔を向ける彼女の顔は逆光で見えない。自分が学生で、時間が放課後しか取れないからいつもこうだ
「でもある人に言われたの、罰はその人が感じている罪悪感の重さによって変わるんだって
きっと私はこの先もあの事を思い出して、今よりもっと自分を責めて…私が起こしてしまった事の罪悪感はずっと消える事はない」
「だったらどうするというんだ、消える事のない罪悪感をどう消す?」
「…私も考えたんだけど、これはずっと抱えていくしかないかなって結論に行き当たりました!」
「…は?」
「今の私にはこの罪悪感を消す方法は思いつかなかったの、だから消える方法が思いつくまでは抱えていこうって
どんなに苦しくても、きっと私の手で被害にあった人達の方がもっと苦しくて傷付いただろうから。だから…その事実からは逃げたくないなって」
パソージェンとなった綾乃―正確にはクロッシェがアナザー感染させたのはハノイの騎士だけだ
彼女が好意を寄せるPlaymakerが憎み、そして彼女自身もそのハノイの手でパソージェンになって、苦しんだと言った筈なのに、どうして綾乃はここまで朗らかに笑えるのか
「…アンタはお人よし過ぎる、バカだ
決闘盤を奪っていった俺にも何も言わない」
「でも遊作くんは私を思って、行動を起こしてくれたんでしょう?」
「…アンタといると調子が狂う」
一つの間を置いて、遊作はベッドサイドに置いたパイプ椅子から立ち上がる
怒らせてしまったかな、彼は口数が少なくて自分の感情を口にするのは苦手みたいだったのに、と少し後悔する綾乃の前で立ち止まる遊作を不思議に思い、声をかけようとした時だった
「――椎名が無事で、よかった」
かぶった灰すらも慈しむように抱く
(埋もれていた灰から)
(芽吹く花もある)
「え、え…?」
「おか、しい…おかしいよ…私は…プレイメーカーさんが好きなのに、好きな筈…なのに」
「何でこんなに心臓が苦しいの…?」
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