TURN-017 かぶった灰すらも慈しむように抱く
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アナザー患者の一人となり、現実世界を離れていた間の時間はそう長いものではなかった筈なのに、綾乃はどうにもこの期間が短いものとは思う事が出来なかった
長い、亜麻色よりも僅かに薄い色素の髪が人工的に生み出された風によって靡く。髪の束から微かに覗く表情はどこか悲しげで、仮想空間から無事に帰還した事を喜んでいる様には見えなかった
―あの時、たくさんの人と決闘を行った果てに感染させる事を私は楽しんでいた、喜んでいた…
これでプレイメーカーさんは戦わなくていいんだって、その苦しみを拭ってあげられるんだって。プレイメーカーさんの失ったものの大きさも知らないくせに
数多くのプレイヤーをアナザー化してきたという事実が重く綾乃に伸し掛かる、それを体現するかの様に綾乃の瞳は恐怖で揺れていた
綺麗な手ね、と葵から言われた、復讐なんて黒い感情を知らない程に無知なのかとあの少年に思われていた。過剰な評価でありながら、嬉しくもあった。けれど白は黒へと変貌した
パソージェン、感染する病原体となった時のクロッシェの行動の根底にはPlaymakerがいた。彼がこれ以上、決闘しなくていい様に――そんな想いからか、彼女が標的としたのはハノイだけだった
だが皮肉にも暴走するクロッシェを止め、救ったのはそのPlaymakerだった。彼は気付いていたのだろうか、クロッシェが自分を救う為に身勝手で偽善な救済を与えようとしていた事に
「こんにちは」
「あ…は、はい!…?」
本当に自己満足で、何て身勝手なのだっただろう。Playmakerは誰からの救いも許しを求めていないと分かっていたつもりなのに、分かっていたフリをしていただけなのか
そんな自己嫌悪に陥る綾乃は自分の病室へ第三者が入って来た事を、その第三者が声をかけてくるまで気付かなかった。失礼な事をしてしまった、と改めて客人に向かい合う
親し気な挨拶をくれる客人の一方で綾乃はその女性がどこの何者なのか分からずにいた。両親の知り合いという線がギリギリ当て嵌まる様な気もするが、それも違うような――
「綾乃ちゃん……というより、こう言った方が分かりやすいかな?――久しぶりね、クロッシェ」
「!貴女はもしかして、ゴーストガール…さん…?」
綾乃からの問いかけに、その女性はただ目を細めて微笑んだ
「綺麗な髪ね」
―な、何でこんな事に……
自分の長い髪を細い絹の様な指が触れる度、綾乃は行き場がなさそうに身を縮ませた、ここは彼女の病室だというのに変な話である
綾乃自身がドライヤーで乾かした長い髪をブラシで整えるのは、思ってもみなかった客人―ゴーストガール。…本名は綾乃の名前を知る本人から教えて貰える気配はない
何故、ゴーストガールがこの病室を訪れたのか、全く分からないというよりも心当たりが綾乃にはない。ただ、彼女が関心のある事はゴーストガールが自分がパソージェンであった事を知っているかどうか
「あの、ゴーストガールさんは私が…」
「パソージェンって呼ばれたアナザーになった事を知っているかって?
勿論、知っているわ。でもそれを知った所でどうするの?」
「でも、私は…たくさんの人をこの手で……」
パソージェンとなっていた頃の記憶は実を言うと綾乃本人には殆どない。あの時、自分は椎名綾乃という人間ではなく、クロッシェというキャラクターと一つに溶け合っていた
アバターから切り離された今、パソージェンであった頃の記憶はもう電子の海に消去されるデータとして流れて行ってしまったのだろう。けど、拳一つ分程の記憶は残っていた
決闘で勝利し、脳が痺れる様な高揚感と自分を見て、逃げ惑う敗北者――その何とも形容しがたい悲鳴。そして―墜落していく自分を救い出す手の熱さ、泣き出しそうに暴れる感情
「貴女は私に責めてほしいの?…そうね、『貴女のせいでたくさんの人がアナザーになった』…そう責められれば、楽よね
『あの人にそう言われた、だから私が悪いんだ』って逃げられるもの、貴女の手術と同じ様に」
「……」
「自分で自分を責めれば、誰かが『そんな事はない』って上辺だけの慰めをくれるかもしれない
でも貴女は自分のした事が許せない、だから何らかの罰が欲しい……そんな所かしら」
ゴーストガールの言う事はその言葉が嫌味に感じられる程にいちいち的を得ていた
指摘された通り、綾乃は誰かからパソージェンであった自分を責められる事で決着をつけようとしていた。あの事件の一端の責任は自分にある、自分はどうしようもない『悪者』なのだと
でもそれではダメな事も同時に分かっていた。『悪者』ならそれでもいいだろう、けれどその先は?『悪者』が我に帰った後はどうするべきなのか?
「罰は罪の重さによって重さを変えるわ。貴女が重いと思えば、重いものが自然とこの肩に乗ってくる。逆に貴女が軽いと思えば、軽いものになるでしょう
要はどれ程、貴女が罪悪感を持っているか、それが分かるのは自分だけ……貴女が持っている罪悪感の重さが分からない他人に乗せられた罰なんて意味はないのよ」
「……私の罪は、私のものでしかない…と…?」
「誰かにその罪を共有されたい、なんて思う方が間違ってるわ、綾乃」
髪を整えていたブラシをサイドテーブルへ置き、ゴーストガールはこの話はここでおしまいと言う様に綾乃から離れる
ゴーストガールが離れていく気配を感じ、振り返った綾乃の視線に気付いたゴーストガールはこの病室へ来た時の様に微笑んで、
「それじゃ、またどこかで会いましょ。綾乃ちゃん」
かつて、自分を『幽霊』と綾乃は称した事があった。その時の『幽霊』という意味合いは地に足がついていないからという事から取った
けど今日、ゴーストガールに出会って、『幽霊』には色んな種類の人種がいる事を知った。ゴーストガールは神出鬼没で、どんな施設にだって身軽に入り込んでしまうアクティブな『幽霊』の方だったらしい
「草薙さん、この件とは関係ない話なんだが…」
「ん?おう、何だ?」
夜中に路上へ停泊させておいた車内にやって来た遊作からの声はいつも通り、胸の内にある意思の真っ直ぐさを感じさせるものだったが、同時にどこか悩みを生じさせている様に草薙には聞こえた
この件、というのはアナザー事件とそこに現れなかったリボルバーへの疑問ではないらしい。それ以外の事に遊作が悩みを生じさせるものというと、学校の事だろうか
長い、亜麻色よりも僅かに薄い色素の髪が人工的に生み出された風によって靡く。髪の束から微かに覗く表情はどこか悲しげで、仮想空間から無事に帰還した事を喜んでいる様には見えなかった
―あの時、たくさんの人と決闘を行った果てに感染させる事を私は楽しんでいた、喜んでいた…
これでプレイメーカーさんは戦わなくていいんだって、その苦しみを拭ってあげられるんだって。プレイメーカーさんの失ったものの大きさも知らないくせに
数多くのプレイヤーをアナザー化してきたという事実が重く綾乃に伸し掛かる、それを体現するかの様に綾乃の瞳は恐怖で揺れていた
綺麗な手ね、と葵から言われた、復讐なんて黒い感情を知らない程に無知なのかとあの少年に思われていた。過剰な評価でありながら、嬉しくもあった。けれど白は黒へと変貌した
パソージェン、感染する病原体となった時のクロッシェの行動の根底にはPlaymakerがいた。彼がこれ以上、決闘しなくていい様に――そんな想いからか、彼女が標的としたのはハノイだけだった
だが皮肉にも暴走するクロッシェを止め、救ったのはそのPlaymakerだった。彼は気付いていたのだろうか、クロッシェが自分を救う為に身勝手で偽善な救済を与えようとしていた事に
「こんにちは」
「あ…は、はい!…?」
本当に自己満足で、何て身勝手なのだっただろう。Playmakerは誰からの救いも許しを求めていないと分かっていたつもりなのに、分かっていたフリをしていただけなのか
そんな自己嫌悪に陥る綾乃は自分の病室へ第三者が入って来た事を、その第三者が声をかけてくるまで気付かなかった。失礼な事をしてしまった、と改めて客人に向かい合う
親し気な挨拶をくれる客人の一方で綾乃はその女性がどこの何者なのか分からずにいた。両親の知り合いという線がギリギリ当て嵌まる様な気もするが、それも違うような――
「綾乃ちゃん……というより、こう言った方が分かりやすいかな?――久しぶりね、クロッシェ」
「!貴女はもしかして、ゴーストガール…さん…?」
綾乃からの問いかけに、その女性はただ目を細めて微笑んだ
「綺麗な髪ね」
―な、何でこんな事に……
自分の長い髪を細い絹の様な指が触れる度、綾乃は行き場がなさそうに身を縮ませた、ここは彼女の病室だというのに変な話である
綾乃自身がドライヤーで乾かした長い髪をブラシで整えるのは、思ってもみなかった客人―ゴーストガール。…本名は綾乃の名前を知る本人から教えて貰える気配はない
何故、ゴーストガールがこの病室を訪れたのか、全く分からないというよりも心当たりが綾乃にはない。ただ、彼女が関心のある事はゴーストガールが自分がパソージェンであった事を知っているかどうか
「あの、ゴーストガールさんは私が…」
「パソージェンって呼ばれたアナザーになった事を知っているかって?
勿論、知っているわ。でもそれを知った所でどうするの?」
「でも、私は…たくさんの人をこの手で……」
パソージェンとなっていた頃の記憶は実を言うと綾乃本人には殆どない。あの時、自分は椎名綾乃という人間ではなく、クロッシェというキャラクターと一つに溶け合っていた
アバターから切り離された今、パソージェンであった頃の記憶はもう電子の海に消去されるデータとして流れて行ってしまったのだろう。けど、拳一つ分程の記憶は残っていた
決闘で勝利し、脳が痺れる様な高揚感と自分を見て、逃げ惑う敗北者――その何とも形容しがたい悲鳴。そして―墜落していく自分を救い出す手の熱さ、泣き出しそうに暴れる感情
「貴女は私に責めてほしいの?…そうね、『貴女のせいでたくさんの人がアナザーになった』…そう責められれば、楽よね
『あの人にそう言われた、だから私が悪いんだ』って逃げられるもの、貴女の手術と同じ様に」
「……」
「自分で自分を責めれば、誰かが『そんな事はない』って上辺だけの慰めをくれるかもしれない
でも貴女は自分のした事が許せない、だから何らかの罰が欲しい……そんな所かしら」
ゴーストガールの言う事はその言葉が嫌味に感じられる程にいちいち的を得ていた
指摘された通り、綾乃は誰かからパソージェンであった自分を責められる事で決着をつけようとしていた。あの事件の一端の責任は自分にある、自分はどうしようもない『悪者』なのだと
でもそれではダメな事も同時に分かっていた。『悪者』ならそれでもいいだろう、けれどその先は?『悪者』が我に帰った後はどうするべきなのか?
「罰は罪の重さによって重さを変えるわ。貴女が重いと思えば、重いものが自然とこの肩に乗ってくる。逆に貴女が軽いと思えば、軽いものになるでしょう
要はどれ程、貴女が罪悪感を持っているか、それが分かるのは自分だけ……貴女が持っている罪悪感の重さが分からない他人に乗せられた罰なんて意味はないのよ」
「……私の罪は、私のものでしかない…と…?」
「誰かにその罪を共有されたい、なんて思う方が間違ってるわ、綾乃」
髪を整えていたブラシをサイドテーブルへ置き、ゴーストガールはこの話はここでおしまいと言う様に綾乃から離れる
ゴーストガールが離れていく気配を感じ、振り返った綾乃の視線に気付いたゴーストガールはこの病室へ来た時の様に微笑んで、
「それじゃ、またどこかで会いましょ。綾乃ちゃん」
かつて、自分を『幽霊』と綾乃は称した事があった。その時の『幽霊』という意味合いは地に足がついていないからという事から取った
けど今日、ゴーストガールに出会って、『幽霊』には色んな種類の人種がいる事を知った。ゴーストガールは神出鬼没で、どんな施設にだって身軽に入り込んでしまうアクティブな『幽霊』の方だったらしい
「草薙さん、この件とは関係ない話なんだが…」
「ん?おう、何だ?」
夜中に路上へ停泊させておいた車内にやって来た遊作からの声はいつも通り、胸の内にある意思の真っ直ぐさを感じさせるものだったが、同時にどこか悩みを生じさせている様に草薙には聞こえた
この件、というのはアナザー事件とそこに現れなかったリボルバーへの疑問ではないらしい。それ以外の事に遊作が悩みを生じさせるものというと、学校の事だろうか