硝子越しのマリアへ
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「これで最後だ!くらえ!」
「きゃあっ!!」
白いフード姿の男が操るモンスターの容赦ない一撃を、その身一つで受けた少女は思いっきり白い壁に叩きつけられる、と同時に少女のLPが0に尽きたアラートが辺りに響く
先程まではこの戦い、少女の方に軍配が上がっていた。だが自分が優勢ではないと分かった男は「ここで負けたら、自分はどうなるか分からない」と少女に懇願したのだ、そこにプライドなんてない
どこから見ても聞いても嘘だと分かる言葉を少女は鵜呑みにし、最後の最後で詰めの甘さを露呈させた。そこを突かれた攻撃、少女の優しさと甘さを男は卑劣な手で汚したのだ
少女の体は精神でのみ構成されていた、精神を守る体がない状態で先程のモンスターによるダイレクトアタック。精神に傷がついていても可笑しくない程に今、少女の体は蝕まれていた
それにプラスする様に情欲を宿した瞳をぎらつかせる男、この男は決闘の敗者である自分に何か手を出すつもりだ―幾ら少女がこの世界に無知でも分かることだった
「っ…!」
「おっと、ログアウトなんてさせないぞ」
だから、少女は必死にこの世界からログアウトしようと空中に指を滑らせようとした。最新機器でダイブしているわけではない少女はそうやって、空中にアイコンを探すしかなかった
けれど、男は少女が手を空中に上げた時点でその足で少女の手を床に踏みつけた。ダイレクトに精神に伝わってくる痛みに口を結ぶ少女に男はさも愉しいと言った様子で顔を歪めた
この男は敗者をいたぶって遊ぶのが心の底から好きな危険人物、決闘者としての誇りもない。そんな男に自分は負け、こうやって辱めを受けようとしている―それが何よりも少女のプライドを傷つけていた
「おい。お前、「ハノイの騎士」だって?」
この現場をこっそり見ていて、通報してくれた誰かが呼んだセキュリティだろうか、と少女はその声に思った。
否、それよりも決闘者としての誇りもない人達しかいないのかと失望していた中でこの現場を見過ごせず、同じ決闘者として誇りを持って、男と対峙してくれようとする人間がいてくれる事が嬉しかった
「そうだけど?邪魔だから、あっちに…「なら問題ない」は?」
「「ハノイの騎士」なら俺の敵だ。決闘を受けて貰う」
「オレがハノイだって分かってて、決闘ぅ?いいだろう、返り討ちにしてやる!」
「だ、だめです!この人、本当に強くて…!いえ、危ないんです!」
必死に叫ぶ少女を一瞬見つめたかと思うと、青年は直ぐにこの時代には珍しく旧式の決闘盤を「ハノイの騎士」と名乗る男に向けて構える
――そこからの展開は早かった。「ハノイの騎士」に対して青年は一切引くこともなく、少女がかかった嘘にはまる訳でもなく、堅実で冷静なプレイングであの「ハノイの騎士」を圧倒したのだ
「な、何者だ、お前…!」
「俺の名前はPlaymaker
今後もお前が偽物の「ハノイの騎士」と名乗り続けるなら、着いてまわる名前だ」
「にせもの…?」
「確かにお前の「ハノイの騎士」のアバターの複製も精巧だ、プレイングも悪くない、だが奴らの匂いがしない」
「ふざけた事、言いやがって…!」
「なら、もう一度決闘するか?」
青年-Playmakerの冷ややかな瞳に男は黙り込む、男もPlaymakerも分かっているのだ。何度決闘してもPlaymakerが勝ち続け、男が負け続ける運命を
Playmakerに完全に圧倒され、男はその場からログアウトしていった。「ハノイの騎士」を名乗り続ける事を許さない存在がどこに出現しても現れると分かった以上、これからは大人しくする事だろう
「あの!私を助けてくださったんですか…?」
「ハノイの騎士を倒す為だ、別にアンタを助けようと思った訳じゃない」
「それでも助けて貰った事に変わりありません…ありがとうございます」
助けてもらった感謝の気持ちを伝える為の確認にもそうやって突き放すPlaymakerに少女は自分の気持ちを強引に突き通した
確かに彼は「ハノイの騎士」を倒す為だけに現れただけであって、自分を助ける事になったのはただの偶然なのかもしれない
「私、ここに来るようになったの最近なんです。決闘もまた始めたばかりで…
だからあなたのプレイング、凄いって素直に思いました」
「…アンタのプレイングには悪い所が3つある
1つ―相手の言葉を鵜呑みにし、心理戦に弱い」
「え、え?」
「2つ―復帰して間もないのか、まだ決闘がつたない。そして、3つ―ツメが甘い」
「仰る通りです…」
何故、初対面の彼にこんな風に言われなければいけないのかとも思ったが、全て間違いではないので反論の余地がない
だが少女のプレイングの分析を行えるという事は、Playmakerはあの偽物の「ハノイの騎士」と少女が決闘している所を最初から――
「だが筋はいいと思う」
「え、あの、それって…!」
少しは自分の事を認めてくれたのかと少女が俯きがちの顔を上げた頃にはPlaymakerの姿は消え去っていた、まるで突風がその場を吹き抜けたかの様だ
幻かと思う程に彼、Playmakerが来てから全てが一瞬に過ぎ去った。でも幻なんかじゃない、この世界にはまだ決闘者としての誇りを持った決闘者が存在するのだと少女は希望に胸を温めた
「綾乃!」
「っ…あお、いちゃん?」
「よかった…突然LINK VRAINSに行った精神のパロメーターが低下していくんだもの、心配したじゃない」
「ごめんね、葵ちゃん…」
「今、先生を呼んでくるから」
主治医を呼んでくると出て行った幼馴染の背中を見つめる、いつもならあの世界に行った後は起きている筈なのに夢から覚めた様に意識が定まらない事が多かった
でも今日は意識が鮮明で、あの世界で起こった出来事も夢ではなく現実として理解している
「プレイメーカー、さん…」
胸に刻み付けた名前
(それはまるで、)
(おとぎ話の恋模様のようで。)