TURN-037 束縛する、胸の痛み
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「この騒動が落ち着くまで私と母さんは身を隠すつもりだ、その間は綾乃、お前は財前君を頼りにしなさい」
「お父さん達、宛はあるの?」
「ああ、少し勧誘を受けていてね。…必ずまた家族3人で暮らせる様にする
さあ、行きなさい。鬼塚くんの事は何とかする、もし彼に会ったら私と母さんの分までお礼と謝罪を」
「うん…!」
何とかSOLのある地区から人気の多い大通りまで駆け足で戻ってきた綾乃は自分の後ろを振り向く、そこには正面玄関で見送られた父の姿はない
家を飛び出した際にその事実は重く綾乃に絶望としてのしかかったが今は違う。この騒動が終われば父が迎えに来てくれる、約束した言葉だ。少しの寂しさはあるけれど、もう崩れ落ちたりしない
《綾乃ちゃん、大丈夫か?!》
「店長さん!はい、お父さんが助けに来てくれて…」
《お父さんが?そうか…無事でよかったよ
とにかく迎えに行くから、SOLから離れた場所にいるみたいだしそこにいてくれ。また後で連絡する》
SOLを出た事で電波が繋がった携帯越しに聞こえた草薙はとても大きな不安をため息としてこぼしていた。先日のライトニングによる洗脳未遂の時といい、不安をかけ続けだ
既に遊作との約束を図らずも破った後だ、草薙の言葉だけでも守っておこうと綾乃は駆け足続きで痙攣を始めた左足を休める為、近くのベンチに腰を下ろした
「椎名」
「遊作く…きゃんっ」
「あー…」
見慣れたキッチンカーから降りてきた遊作と尊の姿に安堵感から笑顔が漏れる。駆けよって来る二人、痙攣していた足を無理やりに起こした綾乃を待っていたのは見事な手刀の一発
どこかで感じた痛みのデジャブ感にしゃがみ込んでいる内に遠ざかる遊作の背中、仮想空間よりも長引く痛みに唸る綾乃へ残された尊は今しがた起こったLINK VRAINSでの出来事を語ってくれた
「そんな、事が…」
「遊作、綾乃の事も凄く心配してたんだよ
多分、今の行動も上手く言葉に出来ない代わりの何ていうのかな…照れ隠しだと思うから許してあげて」
「…ちょっと遊作くんとお話してくる」
「うん、そうしてやって」
不器用すぎる遊作のフォローは中々に匙加減が難しい。あまり言いすぎても、逆に言わなさ過ぎても彼の気持ちを代弁するには言葉が足りなくなってしまうのだ
何とも手がかかる二人、良くゴールインまで持っていけたなと呆れてしまう程だ。けれどきっと綾乃という一人の少女の事で心を乱す遊作を見られるのは尊と草薙の二人だけだろう
「あの、遊作くん」
「……」
「私の事も含めて鬼塚さんと決闘してたって尊くんに聞いた、本当に…ごめんなさい」
「そんな事でアンタから謝罪を聞きたい訳じゃない」
ばっさりと切り捨てられた、必死に考えた謝罪の言葉に綾乃は次に続けようと思っていた言葉を飲み込んでしまった
彼は最初からSOLへ綾乃が赴く事を反対してくれていた、それを押し通しておきながらのこの失態。挽回も、彼の心配に頭を下げる事もこれ以上許してもらえないのだろうか
滲んでいく視界を「泣くな」と頭の中で唱える事で堪える綾乃が裾を握る指が、遊作が動く事で外れ、行き場を失い──新たに彼の細い指がその手を掬い上げた
「SOLで何をされるか分からない恐怖にも挫けなかった椎名は、自分に鈍感すぎる
あの部屋の中で怯えもせず、ただ単に客観的に自分の状況を分析するアンタを見た瞬間、俺は怖かった。いつか自分を顧みずに身を投げ出してしまうのではないかと思った」
「遊作くん…」
「もっと自分を顧みて欲しい、それが俺が椎名に望むことだ」
くしゃり、と慣れていない手つきで撫でられた拍子、持ち上がった綾乃の髪が頬へかかる様にして撫で落ちた
自分を顧みて欲しい、なんてそんなの自分が遊作へ望む事でもあるのに──似た者同士である彼の言葉に胸が痛む、この痛みをここに来るまでの間に遊作は感じていたのだろうか
少しは自分を顧みてもいいのかもしれない、それが遊作へ痛みを背負わせる事のない一番の近道で、顧みる綾乃を見て彼も自分を顧みてくれる様になってくれるかもしれない
束縛する、胸の痛み
(優しい君による)
(たった一つの願望ならば)